インフレ目標、現行の「レンジ方式」継続へ

単一数値による目標設定はリスク伴うとの判断

2025/11/26

 フィリピン中央銀行(BSP)のエリ・レモロナ総裁は1125日、インフレ目標設定について、現行の「レンジ方式」を維持する方針を示した。中央銀行シンポジウム後の記者会見で述べたもので、精緻な単一数値による目標設定は、経済環境の変動リスクを高めかねないとの見解を示した。

 レモロナ総裁は、「現在の目標は2%~4(3±1)であり、足元のインフレ率は1.7%と目標レンジを下回っている。この状況は、数字そのものに過度にこだわるべきではないとの助言に沿うものだ」と説明した。タイ中央銀行前総裁のセータプット・スティーワートナルーポット氏は同シンポジウムで、インフレ目標制度はより柔軟であるべきだと提言、「経済が抱える課題を踏まえると、インフレ率が目標から長期間乖離する可能性が高まっている。固定された単一数値を用いる方式は適切性に欠ける」と指摘した。

 BSPは今年初め、米連邦準備制度(FRB)など主要国の枠組みに合わせ、単一目標値を設定する案を検討していた。しかしレモロナ総裁は「精緻な数値そのものに強いこだわりを持つべきではない」と述べ、方針転換の姿勢を示した。

 現在、BSPは年間インフレ率の目標を24%の範囲に設定している。同総裁は、物価見通しとインフレ期待は概ね安定しているとの認識を示す一方、期待形成の程度をより正確に測定する仕組みを開発中であると明らかにした。

 フィリピンでは、金融政策を導く基本的枠組みとして、インフレ目標が2002年から正式に導入された。インフレ目標が比較的シンプルな枠組みであり国民にも分かりやすい、中央銀行の重要使命である物価安定に集中しやすい、インフレ目標を発表しそれを基準とした金融政策を履行することは金融政策に関する透明性や国民からの信頼性を高めるなどから、フィリピン政府はインフレ目標導入に踏み切ったのである。

 なお、インフレ率予想(Forecast)とインフレ目標(Target)が混同されることが多いが、両者は異なるものである。予想は単純な見通しであり環境が変化すればその都度変更されるものである。インフレ目標(Target)は金融政策の基本的枠組みであり、それを基準として各種政策が決定されるものであり、頻繁に変更されるものではない。

 フィリピンの総合インフレ率(2012年基準と2018年基準との比較)インフレ目標の推移
18年 19年 20年 21年 22年 23年 24年 25年予 26年予 27年予
18年基準 5.2% 2.4% 2.4% 3.9% 5.8% 6.0% 3.2% 1.7% 3.3% 3.4%
12年基準 5.2% 2.5% 2.6% 4.5% N.A. N.A. N.A. N.A. N.A. N.A.
インフレ目標 2~4% 2~4% 2~4% 2~4% 2~4% 2~4% 2~4% 2~4% 2~4% 2~4%
(出所:PSA資料などより作成、2025年以降の予想はBSPの2025年8月28日時点のリスク調整ベース予想値)