日本の製造業の中期的有望展開先、フィリピン8位に
長期的では10位、課題は労働コストの上昇など:JBIC調査
2025/12/12
国際協力銀行(JBIC)は、日本の製造業企業の海外事業展開の動向に関するアンケート調査を実施し、12月11日に結果を発表するとともにそれに関するオンライン説明会を実施した。
今回の調査は、本年7月に調査票を発送し、9月にかけて回収したものである(対象企業数1,072社、有効回答数541社、有効回答率50.5%)。この調査は、海外事業を行う日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、今回で37回目となる。また、昨年度から非製造業企業も調査対象に加えている(対象企業数757社、有効回答数192社、有効回答率25.4%)。
本年度調査では、「事業実績評価」、「中期的な事業展開姿勢」、「有望事業展開先国・地域」等の定例テーマに加え、個別テーマとして「米国政策のサプライチェーン等への影響」、「AIによる事業の変革とビジネスチャンス」、「海外事業を通じたサステナビリティへの取り組み」などについて調査を実施した。その概要は下記の通り。詳細は、JBICのホームページに掲載されている。(https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2025/press_00128.html)
【製造業】
(1)海外事業環境引き続き不確実性あるも海外事業展開姿勢の強化・拡大傾向強まる
2024年度の海外生産比率は36.1%(昨年度比+0.1%)、海外売上高比率は40.9%(昨年度比+0.9%)と上昇基調を維持し、海外売上高比率は過去最高水準を2年連続で更新。地政学的リスクは依然高く、また米国の政策動向含め事業環境に不確実性もある中、成長の機会を求めて海外市場を志向する企業の動きが感じられた。
(2)有望国・地域ランキングではインドが4年連続の首位、米国が2位に浮上
今後3年程度の有望事業展開先では、インドが60%を超える企業から支持を集めて1位となった。米国は堅調な経済や国内市場の魅力などを背景に得票率を伸ばし2位となった。一方、これまで有望国として票を集めていたASEAN主要国は、経済の落ち込みや他国企業との競争激化も背景に中期的に得票率が低下傾向にある。中国は昨年度から1つ順位を上げ5位となったが、得票率回復には至らず、国内での地場企業や他国企業との厳しい競争に晒される日本企業の姿も見られた。
(3)米関税政策で悪影響を受ける企業がある一方、中長期的に米市場へ投資拡大を図る企業も
米国関税政策の強化で、直接あるいは間接的に収益に悪影響を受ける企業が多くあった。一方、米国内に拠点を持つ企業を中心に、一部では関税政策を好機と捉え、事業拡大を図る姿も見られた。また日本企業のサプライチェーンに関しては、地政学リスクの高まりや反グローバリズムの拡大等に対応し、地産地消の促進も含めた最適化を追求する動きもあった。
(4)AI(人工知能)の活用進むも省力効果は限定的、半導体等AI関連事業に強みを持つ企業も
業種ごとの差は見られたが、管理部門で約6割、生産部門で約4割の企業がAIを活用。足元でのAIによる省力効果は多くの企業で20%に満たないものの、今後10年間では省力化が進むとの期待から、AIを活用した事業効率化を中長期的に継続する姿勢が確認された。AI関連事業では、半導体製造やデータセンター関連等、幅広い分野で強みを持った日本企業の事業展開が確認された。
(5)海外でのサステナビリティに係る取り組みを積極的に行う一方、課題も浮き彫りに
6割以上の企業が、サステナビリティに関する取り組み(脱炭素社会・循環経済への移行、生物多様性確保など)を海外で実施。積極的に同取り組みを行って事業機会に繋げる日本企業も確認された一方、国ごとに日本企業が直面するさまざまな課題も明らかとなった。
【非製造業】
(6)非製造業の有望国・地域ランキングも製造業と同様に首位インド、2位米国に
非製造業の有望国・地域ランキングでは、製造業の進出が進むインドが卸売、建設等の業種からの票を集め1位、データセンター事業が活況を呈する米国が建設、電力・ガス等の業種からの票を集め2位となった。一方、製造業で8位のフィリピンは非製造業では運輸、卸売、建設などから支持され5位に、また製造業で13位のオーストラリアは資源、電力、金融などから支持され6位となり、製造業との差異も見られた。
<フィリピンに対する評価など>
フィリピンは中期的有望事業展開先として、2001年にベストテン入りを逃して以来、2008年まで順位の下落傾向が続いた。特に、2008年は、21位とベスト20からも転落した。その後、再上昇基調となり、2015年は8位に上昇、15年ぶりのベスト10入りとなり、2018年まで4年連続で8位が続いた。2019年は7位に浮上、2020年、2021年と3年連続で7位にランクされた。その後は伸び悩み、2022年、2023年ともに8位へであった。2024年は9位に後退したが、2025年は8位へ再上昇した(注:調査期間の大半が汚職問題の本格的露見・報道前であったことに注意)。
2025年の得票率は7.1%で前年と同じであったが、順位は8位へと上昇した。しかし、3位のベトナム(25.1%)、4位のインドネシア(22.2%)、6位のタイ(15.1%)という他のASEAN主要国に水を開けられている。ちなみに、フィリピンは2001年度以前は1997年が7位、1998年が6位、1999年が7位、2000年10位と推移していた。得票率過去最高は1995年の15.4%、過去最低は2008年の1.5%であった。
2025年調査におけるフィリピンの中期的有望の理由の上位は、「安価な労働力」(50%)、「現地市場の今後の成長性」(比率45.8%)など。一方課題としては、「労働コストの上昇」(40.9%)、「管理職人材の確保が困難」(31.8%)が上位を占めている。その他、「治安・社会情勢が不安」、「税制システムが複雑」、「法制の運用が不透明」、「技術系人材の確保が困難」、「地場裾野産業が未発達」などが指摘されている。
長期的(10年程度)有望事業展開先でも、フィリピンは最近はトップ10に入っている。速報資料では総合10位までの順位が明示されているが、近年ではフィリピンは2015年までランク外であった。しかし、2016年は10位にランクイン、2022年には7位(得票率9.4%)まで上昇した。その後は2023年は9位(6.8%)、2024年10位(4.0%)、2025年(5.4%)と伸び悩んでいる。
中期的有望事業展開先と同様に、3位のベトナムとインドネシア(21.1%)、6位のタイ(11.6%)とは順位、得票率ともに大きな差がついた。
日本製造企業の中期的(3年程度)有望事業展開先国・地域(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
(出所:JBIC発表資料より作成)
日本製造企業の長期的(10年程度)有望事業展開先国・地域(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
(出所:JBIC発表資料より作成)
今回の調査は、本年7月に調査票を発送し、9月にかけて回収したものである(対象企業数1,072社、有効回答数541社、有効回答率50.5%)。この調査は、海外事業を行う日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、今回で37回目となる。また、昨年度から非製造業企業も調査対象に加えている(対象企業数757社、有効回答数192社、有効回答率25.4%)。
本年度調査では、「事業実績評価」、「中期的な事業展開姿勢」、「有望事業展開先国・地域」等の定例テーマに加え、個別テーマとして「米国政策のサプライチェーン等への影響」、「AIによる事業の変革とビジネスチャンス」、「海外事業を通じたサステナビリティへの取り組み」などについて調査を実施した。その概要は下記の通り。詳細は、JBICのホームページに掲載されている。(https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2025/press_00128.html)
【製造業】
(1)海外事業環境引き続き不確実性あるも海外事業展開姿勢の強化・拡大傾向強まる
2024年度の海外生産比率は36.1%(昨年度比+0.1%)、海外売上高比率は40.9%(昨年度比+0.9%)と上昇基調を維持し、海外売上高比率は過去最高水準を2年連続で更新。地政学的リスクは依然高く、また米国の政策動向含め事業環境に不確実性もある中、成長の機会を求めて海外市場を志向する企業の動きが感じられた。
(2)有望国・地域ランキングではインドが4年連続の首位、米国が2位に浮上
今後3年程度の有望事業展開先では、インドが60%を超える企業から支持を集めて1位となった。米国は堅調な経済や国内市場の魅力などを背景に得票率を伸ばし2位となった。一方、これまで有望国として票を集めていたASEAN主要国は、経済の落ち込みや他国企業との競争激化も背景に中期的に得票率が低下傾向にある。中国は昨年度から1つ順位を上げ5位となったが、得票率回復には至らず、国内での地場企業や他国企業との厳しい競争に晒される日本企業の姿も見られた。
(3)米関税政策で悪影響を受ける企業がある一方、中長期的に米市場へ投資拡大を図る企業も
米国関税政策の強化で、直接あるいは間接的に収益に悪影響を受ける企業が多くあった。一方、米国内に拠点を持つ企業を中心に、一部では関税政策を好機と捉え、事業拡大を図る姿も見られた。また日本企業のサプライチェーンに関しては、地政学リスクの高まりや反グローバリズムの拡大等に対応し、地産地消の促進も含めた最適化を追求する動きもあった。
(4)AI(人工知能)の活用進むも省力効果は限定的、半導体等AI関連事業に強みを持つ企業も
業種ごとの差は見られたが、管理部門で約6割、生産部門で約4割の企業がAIを活用。足元でのAIによる省力効果は多くの企業で20%に満たないものの、今後10年間では省力化が進むとの期待から、AIを活用した事業効率化を中長期的に継続する姿勢が確認された。AI関連事業では、半導体製造やデータセンター関連等、幅広い分野で強みを持った日本企業の事業展開が確認された。
(5)海外でのサステナビリティに係る取り組みを積極的に行う一方、課題も浮き彫りに
6割以上の企業が、サステナビリティに関する取り組み(脱炭素社会・循環経済への移行、生物多様性確保など)を海外で実施。積極的に同取り組みを行って事業機会に繋げる日本企業も確認された一方、国ごとに日本企業が直面するさまざまな課題も明らかとなった。
【非製造業】
(6)非製造業の有望国・地域ランキングも製造業と同様に首位インド、2位米国に
非製造業の有望国・地域ランキングでは、製造業の進出が進むインドが卸売、建設等の業種からの票を集め1位、データセンター事業が活況を呈する米国が建設、電力・ガス等の業種からの票を集め2位となった。一方、製造業で8位のフィリピンは非製造業では運輸、卸売、建設などから支持され5位に、また製造業で13位のオーストラリアは資源、電力、金融などから支持され6位となり、製造業との差異も見られた。
<フィリピンに対する評価など>
フィリピンは中期的有望事業展開先として、2001年にベストテン入りを逃して以来、2008年まで順位の下落傾向が続いた。特に、2008年は、21位とベスト20からも転落した。その後、再上昇基調となり、2015年は8位に上昇、15年ぶりのベスト10入りとなり、2018年まで4年連続で8位が続いた。2019年は7位に浮上、2020年、2021年と3年連続で7位にランクされた。その後は伸び悩み、2022年、2023年ともに8位へであった。2024年は9位に後退したが、2025年は8位へ再上昇した(注:調査期間の大半が汚職問題の本格的露見・報道前であったことに注意)。
2025年の得票率は7.1%で前年と同じであったが、順位は8位へと上昇した。しかし、3位のベトナム(25.1%)、4位のインドネシア(22.2%)、6位のタイ(15.1%)という他のASEAN主要国に水を開けられている。ちなみに、フィリピンは2001年度以前は1997年が7位、1998年が6位、1999年が7位、2000年10位と推移していた。得票率過去最高は1995年の15.4%、過去最低は2008年の1.5%であった。
2025年調査におけるフィリピンの中期的有望の理由の上位は、「安価な労働力」(50%)、「現地市場の今後の成長性」(比率45.8%)など。一方課題としては、「労働コストの上昇」(40.9%)、「管理職人材の確保が困難」(31.8%)が上位を占めている。その他、「治安・社会情勢が不安」、「税制システムが複雑」、「法制の運用が不透明」、「技術系人材の確保が困難」、「地場裾野産業が未発達」などが指摘されている。
長期的(10年程度)有望事業展開先でも、フィリピンは最近はトップ10に入っている。速報資料では総合10位までの順位が明示されているが、近年ではフィリピンは2015年までランク外であった。しかし、2016年は10位にランクイン、2022年には7位(得票率9.4%)まで上昇した。その後は2023年は9位(6.8%)、2024年10位(4.0%)、2025年(5.4%)と伸び悩んでいる。
中期的有望事業展開先と同様に、3位のベトナムとインドネシア(21.1%)、6位のタイ(11.6%)とは順位、得票率ともに大きな差がついた。
日本製造企業の中期的(3年程度)有望事業展開先国・地域(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
| 中期的(今後3年程度) | |||||
| 調査年度 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
| 回答社数 | 345社 | 367社 | 395社 | 351社 | 338社 |
| 1位 | 中国(162社) | インド(148社) | インド(192社) | インド(206社) | インド(209社) |
| 2位 | インド(131社) | 中国(136社) | ベトナム(119社) | ベトナム(110社) | 米国(95社) |
| 3位 | 米国(113社) | 米国(118社) | 中国(112社) | 米国(92社) | ベトナム(85社) |
| 4位 | ベトナム(105社) | ベトナム(106社) | 米国(107社) | インドネシア(89社) | インドネシア(75社) |
| 5位 | タイ(77社) | タイ(85社) | インドネシア(97社) | タイ(66社) | 中国(56社) |
| 6位 | インドネシア(67社) | インドネシア(77社) | タイ(85社) | 中国(61社) | タイ(51社) |
| 7位 | フィリピン(31社) | マレーシア(31社) | メキシコ(42社) | メキシコ(37社) | マレーシア(28社) |
| 8位 | メキシコ(30社) | フィリピン(28社) | フィリピン(35社) | マレーシア(26社) | フィリピン(24社) |
| 9位 | マレーシア(27社) | メキシコ(27社) | マレーシア(26社) | フィリピン(25社) | メキシコ(23社) |
| 10位 | 台湾(19社) | 台湾(23社) | ドイツ(21社) | ドイツ(20社) | ブラジル(17社) |
| 比得票率 | 9.0%(7位) | 7.6%(8位) | 8.9%(8位) | 7.1%(9位) | 7.1%(8位) |
日本製造企業の長期的(10年程度)有望事業展開先国・地域(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
| 長期的(今後10年程度) | |||||
| 調査年度 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
| 回答社数 | 243社 | 235社 | 265社 | 251社 | 242社 |
| 1位 | インド(120社) | インド(119社) | インド(147社) | インド(152社) | インド(141社) |
| 2位 | 中国(99社) | 中国(86社) | ベトナム(79社) | ベトナム(58社) | 米国(64社) |
| 3位 | 米国(71社) | 米国(69社) | 米国(72社) | インドネシア(53社) | ベトナム(51社) インドネシア(51社) |
| 4位 | ベトナム(69社) | ベトナム(66社) | 中国(64社) | 米国(52社) | |
| 5位 | インドネシア(57社) | インドネシア(53社) | インドネシア(61社) | タイ(41社) | 中国(34社) |
| 6位 | タイ(46社) | タイ(45社) | タイ(57社) | 中国(39社) | タイ(28社) |
| 7位 | ブラジル(22社) | フィリピン(22社) | メキシコ(22社) | メキシコ(22社) | メキシコ(18社) ブラジル(18社) マレーシア(18社) |
| 8位 | ミャンマー(21社) | メキシコ(19社) | マレーシア(20社) | ブラジル(18社) | |
| 9位 | フィリピン(17社) メキシコ(17社) |
マレーシア(17社) | フィリピン(18社) | マレーシア(15社) | |
| 10位 | 台湾(14社) | ブラジル(16社) | フィリピン(10社) | フィリピン(13社) | |
| 比得票率 | 7.0%(9位) | 9.4%(7位) | 6.8%(9位) | 4.0%(10位) | 5.4%(10位) |




