自動車部品のFCC、比でJCMカーボンクレジット創出事業

グリーンカーボンと提携、脱炭素戦略拡大、水田由来のメタンガス削減へ

2025/12/15

 自動車部品大手エフ・シー・シー(FCC、本社・浜松市)1211日、フィリピンのネグロス島において、水田の間断灌漑(AWD)を活用したメタン削減プロジェクトに参画したと発表した。ネイチャーベースのカーボンクレジット事業を展開するGreen Carbonと連携し、日本政府の二国間クレジット制度(JCM)を活用する。10年間で約96万トンの温室効果ガス削減を見込む。

 この事業は、従来の連続湛水による稲作を間断灌漑(AWD)へ転換し、水田由来のメタン排出を抑制、その削減量をクレジット化する仕組みである。初年度は約100ヘクタールから開始し、検証を重ねながら最大25,000ヘクタール規模まで拡大する計画とした。

 フィリピンの農業分野におけるメタンをはじめとする温室効果ガス(GHG)の排出量は、年間約5,400万トンに達している。そのうちの約25%を占める約1,300万トンが水田からの排出に由来しており、削減が求められている。水田からのGHG排出量が多い要因として、フィリピンの稲作の手法が関係している。

 フィリピンの稲作では水田に常に水を張っており、土壌に酸素が供給されない。水田に存在するメタンを排出する微生物は酸素の無い環境下で活動が活発になるため、フィリピンの稲作手法ではより多くのメタンを排出している。一方で、一般的に日本の稲作では水田を定期的に乾燥させて土壌に酸素を供給する間断灌漑(AWD)を行っているため、フィリピンの水田と比較してメタンの排出量が抑えることができている。

 このプロジェクトではフィリピンの稲作に間断灌漑を導入することで、水田由来のメタン排出量を削減する。さらに、間断灌漑によるメタン排出量を削減するだけでなく、二国間クレジット制度に則ったクレジット発行までの運用確認など、カーボンクレジット創出の事業化に向けた検証をフィリピンの関係機関の支援を得ながら推進する。

 FCCは二輪・四輪向けクラッチを主力とする自動車部品メーカーで、近年はEVCASE対応製品や非モビリティ分野の環境・エネルギー事業を成長領域に位置付けている。今回の参画は、自社の脱炭素戦略を製造工程にとどめず、サプライチェーン外も含めた排出削減へ拡張する取り組みとなる。

 フィリピンでは1993年に現地法人を設立し、30年以上にわたり地域と協力関係を築いてきた。農業分野での気候変動対策に参画することで、地域社会への貢献と環境価値創出の両立を図る。

 ネグロス島は西ビサヤ地域の主要穀倉地帯で、灌漑網が広く整備されている。一方、連続湛水栽培が主流で、メタン排出量の多さや乾季の水不足が課題となっていた。州政府、州農業局、国家灌漑庁、灌漑組合が連携する体制が整っている点から、AWD導入に適した地域と判断された。

 AWDは排出削減効果に加え、既存の実証では水使用量を平均38%削減し、収量も516%増加した。水資源制約が強まる中、環境対策と生産性向上を同時に実現できる技術として評価が高い。

 今回の事業では、ネグロス州内の自治体や農業機関に加え、州立のCentral Philippines State University(CPSU)が実証・普及を担う。FCCはパートナー企業とともに、農家への技術導入支援やモニタリング体制の構築に関与する。

 FCCは、ネグロス島で確立するモデルを足掛かりに、フィリピン国内および東南アジア地域への横展開を視野に入れる。農業分野で創出されるJCMクレジットを通じ、企業の脱炭素需要に応えると同時に、地域の食料安全保障と水資源管理の高度化にも寄与する方針とした。