日系企業の中期的有望事業展開先、比は連続8位に
2016/12/13
市場規模や安価な労働力評価、課題はインフラなど
国際協力銀行(JBIC)は、日本の製造業企業の海外事業展開の動向に関するアンケート調査を実施し、12月12日に結果を発表した。
今回の調査は、今年7月に調査票を発送し、7月から9月にかけて回収したものである(対象企業数1,012社、有効回答数637社、有効回答率 69.2%)。この調査は、海外事業に実績のある日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、 今回で28回目となる。
今年度調査では、「中期的海外事業展開見通し」や「海外事業展開実績評価」、「有望事業展開先国・地域」などに加え、個別テーマとして、「サプライ チェーンの在り方と生産・研究開発拠点の役割」、「グローバル市場における競合状況」等についても調査を行った。調査結果の要旨は以下の通り。
(1)海外生産比率と事業展開見通し
海外生産比率、海外売上高比率については引き続き上昇傾向にあり、それぞれ35.6%、39.6%となった。また、事業展開見通しについては、海外事業 の強化・拡大姿勢は76.6%で、前年の80.5%よりやや低下したものの引き続き高い水準にある。国内事業については、強化・拡大姿勢が34.0%と6 年ぶりに30%台を回復した。
(2)中期的有望国
インドが3年連続で第1位となり、回答企業に占める同国の得票率は5割弱へ再び上昇した。インドの有望理由として最も多く挙げられた項目は、現地マー ケットの成長性。中国が第2位を維持し、得票率は4割強に上昇した。前回、中国と同率第2位のインドネシアは第3位に後退。
(3)サプライチェーンの在り方
①サプライチェーンの課題については、為替リスクの影響を挙げる回答が約6割と最も高かった。このほか、サプライヤーの数やクロスボーダー取引が増加し たため本社で十分管理できていないこと、サプライヤーからの供給途絶のリスクを十分に把握できていないことを挙げる回答が各々2割を超えた。
②調達先検討に際して、輸送コスト(関税を含む)、輸送時間(通関に要する時間を含む)を考慮した企業の過半が、TPP等のFTA・EPAの有無を考慮 したと回答した。供給途絶リスクへの対応としては、調達先を複数に分散させている、調達先の調達先を把握する、在庫を十分に保有するなどの声が聞かれた。
(4)生産拠点と研究開発拠点の役割
①日本の生産拠点は、人材育成・技能伝承、生産工程改善・伝播の役割を担うとの回答が6割を超えたのに対し、他地域の生産拠点は、現地ニーズに合った商 品の生産を行う役割への期待が高かった。
②研究開発拠点の中期的予算については、日本を増加させるという回答が最も多かったが、自動車については、欧米における増加姿勢が日本を上回った。ま た、強化したい研究開発分野としては、日本は革新的な製品の研究開発を担うとの回答が7割を超えたのに対し、他地域は現地ニーズに合った製品の研究開発を 強化する声が大きかった。
(5)グローバル市場の競合状況
各販売市場における自社の競合先については、ASEAN5市場では日系企業、インド・北米・EU15・ブラジル市場においては欧米系企業、中国市場では 中国企業という結果となった。
競争に打ち克つために中期的に重視する点としては、価格競争力強化、現地ニーズに合った商品の開発・生産、現地人材の質の向上、ブランド力強化等の回答 が多かった。
なお、フィリピンは中期 的有望事業展開先として、2001年度にベストテン入りを逃して以来、2008年度まで順位の下落傾向が続た。特に、2008年度は、21位とベスト20 からも転落した。その後は、2009年度13位、2010年度と2011年度ともに14位、2012年度15位であったが、2013年度は11位へと上 昇、2014年度も連続で11位となった。そして、2015年度は8位に上昇、15年ぶりのベスト10入りとなり、2016年度も連続の8位となった。 2016年度の得票率は10.6%で、2014年度から3年連続で10%を上回った。しかし、3位のインドネシア(35.8%)、4位のベトナム (32.7%)、5位のタイ(29.4%)という他のASEAN主要国に水を開けられている。
ちなみに、フィリピンは2001年度以前は1997年度が7位、1998年度が6位、1999年度が7位、2000年度10位と推移していた。
長期的(10年程度)有望事業展開先に関しては、フィリピンに対する評価はこれまで評価は高くなかった。速報資料では総合10位までの順位が明示されて いるが。近年ではフィリピンは2015年度までランク外であった。しかし、2016年度は10位(得票率9.1%)にランクインした。ただし、中期的有望 事業展開先と同様に、3位のインドネシア(37.6%)、4位のベトナム(32.7%)、5位のタイ(24.5%)とは大きな差が付いている。また、ミャ ンマーの7位(15.9%)の後塵を拝している。
このところのフィリピン 経済の好調さや市場規模・今後の成長性期待などを背景にフィリピン進出企業は増加しているが、インフラ整備の遅れ、電力料金が高いこと(アジアで最高水 準)、地場裾野産業の未発達、政策の一貫性への懸念、依然治安や社会情勢が不安であることなどにより、結局はフィリピンへの進出を見合わせ、他国を選択す るというケースも少なくない。フィリピンは投資誘致の障害除去や実体以上に悪いイメージの改善などに全力で取り組み、フィリピン進出の流れを一過性のもの にしないようにすべきであろう。
中期的(今後3年程度) | |||||
調査年度 | 2012年度 | 2013年度 | 2014年度 | 2015年度 | 2016年度 |
総回答社数 | 514社 | 488社 | 499社 | 433社 | 483社 |
1位(票数) | 中国(319社) | インドネシア(219社) | インド(229社) | インド(175社) | インド(230社) |
2位 | インド(290社) | インド(213 社) | インドネシア(228社) | インドネシア(168社) 中国(168社) |
中国(203社) |
3位 | インドネシア(215社) | タイ(188社) | 中国(218社) | インドネシア(173社) | |
4位 | タイ(165社) | 中国(183社) | タイ(176社) | タイ(133社) | ベトナム(158社) |
5位 | ベトナム(163社) | ベトナム(148社) | ベトナム(155社) | インドネシア(168社) | タイ(142社) |
6位 | ブラジル(132社) | ブラジル(114社) | メキシコ(101社) | メキシコ(102社) | メキシコ(125社) |
7位 | メキシコ(72社) | メキシコ(84社) | ブラジル(83社) | 米国(72社) | 米国(93社) |
8位 | ロシア(64社) | ミャンマー(64社) | 米国(66社) | フィリピン(50社) | フィリピン(51社) |
9位 | 米国(53社) | ロシア(60社) | ロシア(60社) | ブラジル(48社) | ミャンマー(49社) |
10位 | ミャンマー(51社) | 米国(54社) | ミャンマー(55社) | ミャンマー(34社) | ブラジル(35社) |
フィリピン順位 | 15位(21社) | 11位(39社) | 11位(50社) | 8位(50社) | 8位(51社) |
日本製造業企業の長期的有望事業展開先国・地域の推移・詳細(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
長期的(今後10年程度) | |||||
調査年度 | 2012年度 | 2013年度 | 2014年度 | 2015年度 | 2016年度 |
総回答社数 | 387社 | 360社 | 372社 | 301社 | 364社 |
1位(票数) | インド(251社) | インド(191社) | インド(207社) | インド(165社) | インド(226社) |
2位 | 中国(218社) | 中国(139社) | インドネシア(163社) | インドネシア(109社) | 中国(143社) |
3位 | インドネシア(149社) | インドネシア(135社) | 中国(150社) | 中国(105社) | インドネシア(137社) |
4位 | ブラジル(140社) | ブラジル(114社) | ベトナム(117社) | ベトナム(82社) | ベトナム(119社) |
5位 | ベトナム(110社) | タイ(99社) | タイ(105社) | タイ(70社) | タイ(89社) |
6位 | タイ(103社) | ベトナム(96社) | ブラジル(91社) | ブラジル(61社) | メキシコ(59社) |
7位 | ロシア(78社) | ミャンマー(75社) | ミャンマー(70社) | ミャンマー(57社) | ミャンマー(58社) |
8位 | ミャンマー(65社) | ロシア(65社) | ロシア(65社) | メキシコ(50社) | 米国(55社) |
9位 | メキシコ(46社) | メキシコ(47社) | メキシコ(58社) | 米国(43社) | ブラジル(48社) |
10位 | 米国(34社) | 米国(47社) | 米国(47社) | ロシア(31社) | フィリピン(33社) |
フィリピン順位 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 10位 |
JBIC は、今回の調査結果を踏まえつつ、国際的な競争にさらされている日本企業の海外事業展開支援及び各国・地域の投資環境改善に向けた現地政府当局や関係機関 との対話などを引き続き行ってい。く方針である(16年12月12日の国際協力銀行ニュースリリースなどより)。