栄研化学やニプロ、フィリピンの結核撲滅を支援
JICAや結核予防会と連携、 世界の結核制圧にも貢献

2017/02/21

 日本では過去の病気と思われがちな結核は現在もHIV/エイズ、マラリアと並ぶ三大感染症であり、多くの開発途上国に深刻な健康被害を与えている。日本は世界的に実施されている結核制圧に貢献している。

 世界保健機関(WHO)の報告によると、2014年には新たに960万人が結核に感染し、そのうち150万人が死亡している。この数はエイズによる死者数を上回り、すべての感染症の中で最多となる。2015年に国連で持続可能な開発目標(SSDGs)が採択されたことを受け、WHOは2015年に比べた死亡率を90%、罹患率を80%それぞれ減らし、結核による家計破綻を無くすことを2030年までの目標としている。

 2016年度も、公益財団法人結核予防会結核研究所の協力のもと「UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)時代の結核検査マネージメント強化」研修が開催された。今年度はフィリピン、アフガニスタン、ケニア、リベリアより8名の研修員が訪日した。

 結核患者の早期発見及び診断開始は感染拡大を阻止するうえで重要である。その為、高感度・高特異度で迅速な結核診断法が世界的に求められている。このような背景から、遺伝子検査技術の開発が進められてきた。

 研修ではニプロの研究員を招き、多剤耐性結核遺伝子検査薬の使用方法について学んだ。これまで、多剤耐性結核患者や結核と似た症状を引き起こす非結核性抗酸菌症患者の検査には2週間~2か月かかっていたが、結核、多剤耐性結核および非結核性抗酸菌症を同時に1日で判定することが可能となり、WHOの推奨を取得している。

 また、同様にWHO推奨を取得した栄研化学のTB-LAMP法についても学んだ。TB−LAMP法は生の喀痰をそのまま使用できることが特徴で、検体を受領してから検査終了まで1時間弱となる。原則として複雑な装置も必要なく、反応の結核を判定するのに複雑な課程が必要ないことから、開発途上国の現場で普及が期待されている。

 実際に体験してみると、PURE DNA抽出キットは試薬と喀痰が混ざったことが目視でわかりやすいように液体の色が青色から薄黄色に変化したり、検査の最終段階で使用するLAMP反応チューブの蓋に乾燥試薬がついており簡単に混ぜることができたり、日本ならではの細やかな工夫が端々に見られ、研修員も関心していた。

 世界では先にWHO推奨を取得し、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(Global Fund)が結核高蔓延国を中心に普及を後押ししているセフィエド社の全自動拡散増幅装置Gene Xpertが普及しつつある。実際、研修員の大半は自国にてGene Xpertを使用している。GeneXpertに比べると、メンテナンスや機器の厳密な温度管理も不要であるため、より住民に近い一次、二次医療施設で普及が可能になる利点がある一方、作業が多少複雑であり、検査技師あるいは訓練を受けた人材が対応する必要がある点が異なる。

 栄研化学とニプロは共同で、JICAの開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業を通じ、結核患者の多いフィリピンにおいて結核診断アルゴリズム普及促進事業を実施中である。これら日本企業の貢献で今後結核の診断と治療が進むことが期待される。

 なお、JICAの「開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業」の2015年度第1回公募において採択された「フィリピンでの結核診断アルゴリズム普及促進事業(代表提案企業:栄研化学、共同提案企業:ニプロ)」は、熱帯医学研究所を対象に、結核検査従事者に対するトレーニングや実証試験、及び保健省関係者や医師などに対するセミナーを通じて、栄研化学の低コストなTB-LAMP法(簡易・迅速・目視判定可能)を地方のクリニック等の一次医療施設に、ニプロのLPA法(一度に多数の薬剤耐性関連遺伝子を検出)を都市部の二次医療施設である熱帯医学研究所にパッケージとして導入し、組合せによる技術的優位性を実証し、結核検査ガイドラインへの導入を図るものである。

 フィリピンは結核患者が多い国の一つであり、世界の結核患者の8割が集中する22の結核高蔓延国に含まれ、その中で例年10位以内にランキングされている。比国内で毎年約14万人の新しい結核患者が登録されており(1日約390人)、また結核が原因で死亡と考えられる人は約3万人にのぼり(2009年推計値)、これは平均毎日88人のフィリピン人が死亡していることになる。日本は、フィリピンにおいても、結核対策を継続的に支援してきている(17年2月17日の独立行政法人国際協力機構(JICA)東京国際センターの研修情報などより)。