住友金属鉱山、フィリピン・ニッケル事業基盤を更に強化

2016/09/16

ミンダナオ島精錬拠点THPAL株式追加取得、75%保有へ

 

住友金属鉱山(住友鉱、本社:東京都港区)のフィリピンでの事業基盤拡大、資源高度有効活用が進展している。


 
 世界のニッケル資源の確保には、低品位鉱石からのニッケル分の回収が必須となっている。住友鉱は従来回収困難であった低品位のニッケル酸化鉱からニッケルおよびコバルトを回収する技術である HPAL(High Pressure Acid Leach =高圧硫酸浸出)の商業生産化に世界で初めて成功し、2005年からフィリピンのコーラルベイ・ニッケル・コーポレーション(CBNC、所在地:パラワン島)で、ニッケル中間製品であるMS(ニッケル・コバルト混合硫化物)の生産を開始した。2009年4月にはCBNC における第2工場の垂直立ち上げを完了し、同社の生産能力を年間1万トンから2万4千トン(ニッケル量換算)へ増加させた。
 
 このような実績を背景として、住友鉱はHPAL技術を用いたでタガニート・プロジェクト(年産3万トン)2013年に完成させ、全社のニッケル生産能力を同10万トンまで高め、世界トップクラスのニッケル製錬メーカーの地位を固めた。
 
 タガニート・プロジェクトにおいては、住友鉱傘下のタガニートHPAL社(THPAL)がミンダナオ島北東部タガニート地区にて、MS( ニッケル品位約57%)を年間3万トン(ニッケル量換算、以下同様)生産。THPALの資本金は40億9,500万ペソ、これまでの出資比率は住友金属鉱山62.5%、ニッケル・アジア(NAC)22.5%、三井物産15%となってきていた。

 住友鉱は9月15日、THPALの株式を12.5%追加取得し、保有比率を75%とすることを決定したと発表した。これは、THPALのパートナーであるNACより、NACが鉱山の開発・拡張や再生可能エネルギー事業への投資により多くの経営資源を投入するため、NACが所有するTHPAL株式の22.5%のうち12.5相当を住友鉱に売却したいとの要請があり、これに応じることとしたものである。

 株式追加取得に係る対価は総額約4,200万米ドルで、株式取得契約の締結は9月15日、株式の取得は必要な許認可等の手続きを終えることを前提に2016年内を予定している。なお、本件に関し住友鉱の業績に与える影響は軽微でとのことである。

 今回のNACからのTHPAL株式の追加取得によりNACとの関係強化を図るとともに、引き続きTHPALプロジェクトの安定的な運営に努め、住友鉱のニッケル事業への原料供給をより確実なものとして行く方針である。

  なお、住友鉱は、2月15日に、長期ビジョンとその実現に向けた2016年度から2018年度までの2015年中期経営計画(15中計」)を発表した。精錬事業に関しては、ニッケルは、12中計で確立した10万トン体制でのコストダウンに注力すると謳われている。更に、長期ビジョンのターゲットである15万トン体制の構築に向け、タガニートHPALでの20%増産や播磨事業所での硫酸ニッケル生産増強に取り組むとともに、第3のHPALについても事業化の検討を進めるとされている。また、HPALからの新たな有価金属の回収を事業化し、競争力強化に努めるとのことでもある。

 すなわち、ニッケル事業拡充においては、タガニートHPALがキーとなる。タガニートHPALでは2018年下半期より現行の20%増の年産3万6千ト ン体制として、CBNCと併せHPAL年産6万トン体制とする計画である。また、希土類元素(レアアース)の一つであるスカンジウムの生産も開始する。スカンジウム(元素記号:Sc)は希土類元素の一つで、1879年に発見された。銀白色の金属で比重は2.99。アルミニウムの強度、耐熱性、耐食性を高め るための添加物、固体酸化物形燃料電池の電解質のほか、メタルハライドランプ、アルカリ電池の電極等に使用される。
 
 タガニートなどではHPAL法によりニッケル・コバルト混合硫化物が生産されているが、その原料鉱石中に微量のスカンジウムが含まれている。住友鉱は、新居浜研究所(愛媛県新居浜市)でその回収方法の開発に取り組んできたが、ニッケル・コバルト混合硫化物の製造工程からスカンジウムを効率的に回収する技術を確立した。2017年中には回収・生産プラントを完成させ、2018年にスカンジウムの商業生産を開始する予定である。スカンジウム関連の投資額は40億円と予定されている。
 
 スカンジウムは、現在はアメリカ、ウクライナ、ロシア、中国等を中心に年間10トン程度生産されていると推定される。生産量が少なく、かつ高価であることからこれまでは需要が限定されているが、安定的な供給により主な用途であるアルミニウムへの添加剤や固体酸化物形燃料電池の電解質等の分野での伸びが期待される。住友鉱は、今後も有用な金属の効率的な回収に努めて行く方針である (16年9月15日の住友金属鉱山株式会社ニュースリリースなどより)。