総選挙絡みの暴力懸念、前回は死者210人超

2016/03/23

 

 フィリピンでは、3年毎に下院議員選挙、上院議員の半数改選、地方首長選挙を合わせた統一選、6年毎に大統領選を含めた統一総選挙が行われる。2016年は総選挙の年であり、総計1万7千を超えるポストが5月9日(月)の投票によって争われる。

 フィリピン日本人商工会議所によると、 様々な禁止事項などに絡む“選挙期間”は、1月10日からスタートし、投票日の1カ月後の6月8日まで続くことになる。その最後を飾るのが、5月23日から6月10日までの国会開催で、両院総会が開かれて新しい正副大統領が宣言される。
 一方、選挙運動期間は、全国区である正副大統領・上院議員・比例代表団体が、2月9日から投票日前日の5月7日までの90日間で、その他は3月25日から5月7日までの45日間となっている。いずれにしても、非常に長期にわたる選挙戦が繰り広げられつつある。

 日本などに比べ長期にわたるフィリピン選挙のネガティブな大きな特徴として、選挙絡みの暴力事件の多発が挙げられる。特に地方においては、有力者一族間の熾烈な対立関係に起因する暴力事件や殺人事件が多発する。陽気で信心深いはずのフィリピン人が、一部とは言いながら、一族郎党の浮沈がかかる選挙では全く別の顔になるというのは注意すべきことでもあるといえる。2010年の総選挙において、ミンダナオ島マギンダナオ州で立候補届提出に向かった候補者一族やメディア関係者約60名が、対立陣営によって虐殺されるという事件もあった。

 国際協力銀行(JBIC)によると、政府は、3年毎の選挙期期間中、警戒を強化すべき重点警戒州(2013年選挙では15州)を指定している。また、フィリピン国家警察(PNP)によると、フィリピン国内では30の州に約85の政治家による私設武装団が存在する。PNPは選挙絡みの暴力事件防止のため、投票日4カ月前から1カ月後までの5カ月間、銃火器類の携帯禁止措置をとっており、2013年は全国899カ所を監視地区に指定している。それにもかかわらず、下表の様に多数の暴力事件と死者が発生している。

フィリピンの選挙絡みの暴力事件と死者の推移
  暴力事件 死者 内政治家や候補者
2004年総選挙 234件 149人 40人
2007年中間選挙 145件 121 人 61人
2010年総選挙 265件 213人 N.A.
(出所:JBIC、Pacific Strategies and Assessments社)
 
 経済面では、投票日前までは広告業界やテレビ局、飲料、酒類、コンビニ、ファーストフーズ店などを中心とする選挙特需で景気が刺激され、投票日以降は反動が出がちである。また、投票日が近づくと混乱懸念でペソや株が売られ、無事に投票が終わるとペソや株が買い直されるという動きが見られたこともあった。
 2010年の総選挙の直前の5月3日にセブ・パシフィック航空の新規上場が予定されていたが、投票日前の混乱懸念などを理由に急遽延期され、結局はその年の10月26日に新規上場されたということもあった。また、2010年に初めて電子投票システムが導入された。