中期的有望事業展開先、フィリピンが第8位に
2015/12/04
前年の11位から上昇、近年初のベスト10入り、
1位インド、2位インドネシアと中国、4位タイ
5位ベトナム:JBICの15年度日系製造業調査
国際協力銀行(JBIC)は、日本お製造業企業の海外事業展開の動向に関するアンケート調査を実施し、12月3日に結果を発表した。
今回の調査は、本年7月に調査票を発送し、7月から9月にかけて回収したものである(対象企業数1,016社、有効回答数607社、有効回答率59.7%)。この調査は、海外事業に実績のある日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、今回で27回目となる。調査結果の主な要旨は以下の通り。
(1)中期的な海外事業展開姿勢
最近の世界経済の状況を反映して、海外展開の強化・拡大姿勢は8割を超えたものの例年の結果と比較すると足踏みの様相。
(2)中期的有望国
前回に引き続き第1位となったインド、第2位のインドネシア及び中国の3ヵ国の得票率が4割前後で拮抗し、下位国に差をつけている。また、ブラジル(第9位)とロシア(第12位)の得票率がそれぞれ大幅に下落する一方、メキシコ(第6位)、米国(第7位)、フィリピン(第8位)の得票率はそれぞれ上昇しており、最近の各国・地域の経済情勢の影響が現れていると考えられる。なお、業種別の有望国のうち、「自動車」では、前回第4位だったメキシコが、業種別の調査を開始以来、初めて第1位を獲得した。
インドは前回に引き続き第1位となった。回答社数は175社(前回229社)であり、得票率は40.4%(前回45.9%)と唯一40%を超えた。インドには様々な課題が指摘されているものの、引き続き成長ポテンシャルが高く評価されている。一方、上位10ヵ国の常連であるブラジルの失権が著しい。ブラジルの回答社数は前回の83社から47社にまで減少し、得票率も11.1%(前回16.6%)に留まった。経済・財政政策の効果が発現せず、引き続き経済が停滞していることが影響し、将来への期待感が益々後退していることが窺える。
<ASEAN諸国の存在感が一層高まる>
・上位10ヵ国の顔ぶれを見ると、インドネシア(第2位)、タイ(第4位)、ベトナム(第5位)のほか、フィリピンが前回の第11位から第8位に順位を上げた・上位20ヵ国まで広げると、マレーシア(第11位)、シンガポール(第13位)、カンボジア(第17位)のほか、ASEAN後発国のラオス及びバングラデシュ(ともに第20位)も入っており、有望国・地域としてのASEAN諸国の存在感が益々高まっていることが窺える結果となった。
(3)今後取り組むべき経営課題
「既存事業の質的・量的拡大」や「高い競争力のある商品(ニッチトップ商品)の開発」という従来型の課題が上位を占めるが、「海外拠点の人材育成」、「新たな成長ドライバーとなる新規事業の創出」、「現地ニーズに合致した商品開発」が、それらに次ぐ重要な課題として認識されている。
(4)海外M&Aの取り組み
海外事業展開において海外企業に対するM&Aを重要な経営手段と認識しているとの回答割合が7割以上に及び、海外M&Aに対応しているとの回答割合も5割を超えた。海外M&Aの目的としては、「新規市場開拓、販売網の拡大」の回答割合が8割近くを占めた。
(5)国内事業展開と国内回帰
海外事業を強化・拡大する企業のうち、国内事業を維持又は強化・拡大する見通しにある企業の割合は3年連続で上昇し、ほぼ9割となっている。また、国内回帰については、「実施した」又は「今後実施計画がある」との回答割合は計13.8%であり、生産を日本に移管した海外拠点は主に中国の拠点であった。なお、国内回帰を実施した理由で最も多かったのは、「円安により、日本からの輸出競争力が高まったため」であった。
なお、フィリピンは中期的有望事業展開先として、2001年度にベストテン入りを逃して以来、2008年度まで順位の下落傾向が続た。特に、2008年度は、21位とベスト20からも転落した。その後は、2009年度13位、2010年度と2011年度ともに14位、2012年度15位であったが、2013年度は11位へと上昇、2014年度も連続で11位となった。そして、2015年度は8位に上昇、15年ぶりのベスト10入りとなった。2015年度の得票率は11.5%で、2014年度の10.0%から上昇した。しかし、2位のインドネシア、4位のタイ、5位のベトナムなどASEAN主要国に水を開けられている。ただ、フィリピンは、主要業種別では、電気・電子で6位、一般機械で8位、自動車で10位とランクされている。
長期的(10年程度)有望事業展開先に関しては、フィリピンに対する評価はさほど高くない。速報資料では総合10位までの順位が明示されているがフィリピンはランクインしていない。一方、前年度と全く同様に、インドネシアは2位、ベトナムは4位、タイは5位、ミャンマーは7位とベストテン入りしている。
このところのフィリピン経済の好調さなどを背景にフィリピン進出企業は増加しているが、インフラ整備の遅れ、電力料金が高いこと(アジアで最高水準)、地場裾野産業のっ未発達、政策の一貫性への懸念、依然治安が悪いというイメージなどにより、結局はフィリピンへの進出を見合わせ、他国を選択するというケースも少なくない。フィリピンは投資誘致の障害除去や実体以上に悪いイメージの改善などに全力で取り組み、フィリピン進出の流れを一過性のものにしないようにすべきであろう。
日本製造業企業の中期的有望事業展開先国・地域の推移(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
中期的(今後3年程度) | ||||||
調査年度 | 2012年度 | 2013年度 | 2014年度 | 2015年度 | ||
総回答社数 | 514社 | 488社 | 499社 | 得票率 | 433社 | 得票率 |
1位(票数) | 中国(319社) | インドネシア(219社) | インド(229社) | 45.9% | インド(175社) | 40.4% |
2位 | インド(290社) | インド(213 社) | インドネシア(228社) | 45.7% | インドネシア(168社) 中国(168社) |
38.8% |
3位 | インドネシア(215社) | タイ(188社) | 中国(218社) | 43.7% | ||
4位 | タイ(165社) | 中国(183社) | タイ(176社) | 35.3% | タイ(133社) | 30.7% |
5位 | ベトナム(163社) | ベトナム(148社) | ベトナム(155社) | 31.1% | ベトナム(119社) | 27.5% |
6位 | ブラジル(132社) | ブラジル(114社) | メキシコ(101社) | 20.2% | メキシコ(102社) | 23.6% |
7位 | メキシコ(72社) | メキシコ(84社) | ブラジル(83社) | 16.6% | 米国(72社) | 16.6% |
8位 | ロシア(64社) | ミャンマー(64社) | 米国(66社) | 13.2% | フィリピン(50社) | 11.5% |
9位 | 米国(53社) | ロシア(60社) | ロシア(60社) | 12.0% | ブラジル(48社) | 11.1% |
10位 | ミャンマー(51社) | 米国(54社) | ミャンマー(55社) | 11.0% | ミャンマー(34社) | 7.9% |
フィリピン順位 | 15位(21社) | 11位(39社) | 11位(50社) | 10.0% | 8位(50社) | 11.5% |
(出所:JBIC発表資料より)
日本製造業企業の長期的有望事業展開先国・地域の推移・詳細(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
長期的(今後10年程度) | ||||
調査年度 | 2012年度 | 2013年度 | 2014年度 | 2015年度 |
総回答社数 | 387社 | 360社 | 372社 | 301社 |
1位(票数) | インド(251社) | インド(191社) | インド(207社) | インド(165社) |
2位 | 中国(218社) | 中国(139社) | インドネシア(163社) | インドネシア(109社) |
3位 | インドネシア(149社) | インドネシア(135社) | 中国(150社) | 中国(105社) |
4位 | ブラジル(140社) | ブラジル(114社) | ベトナム(117社) | ベトナム(82社) |
5位 | ベトナム(110社) | タイ(99社) | タイ(105社) | タイ(70社) |
6位 | タイ(103社) | ベトナム(96社) | ブラジル(91社) | ブラジル(61社) |
7位 | ロシア(78社) | ミャンマー(75社) | ミャンマー(70社) | ミャンマー(57社) |
8位 | ミャンマー(65社) | ロシア(65社) | ロシア(65社) | メキシコ(50社) |
9位 | メキシコ(46社) | メキシコ(47社) | メキシコ(58社) | 米国(43社) |
10位 | 米国(34社) | 米国(47社) | 米国(47社) | ロシア(31社) |
フィリピン順位 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 記載なし |
(出所:JBIC発表資料より)
JBICは、今回の調査結果を踏まえ、国際的な競争にさらされている日本企業の海外事業展開支援及び各国・地域の投資環境改善に向けた現地政府当局や関係機関との対話などを引き続き行っていく方針である(15年12月3日の国際協力銀行ニュースリリースなどより)。