比エプソン、大容量インクタンクプリンターで攻勢

2015/11/09

新興市場ニーズに適合、インクジェット市場で1位に

 

 セイコーエプソン(エプソン)は様々な市場の顧客の要求に対応した商品を提供している。

  その典型例として、近年は新興成長市場向けのインクジェットプリンターの開発に特に注力していることが挙げられる。新興成長市場のニーズは欧米を中心とした市場のニーズとは異なる点が数多くある。新興成長市場の顧客は、機能よりもコストパフォーマンスと耐久性を重視する。そのため、東南アジアや中国、南米といった地域では、これらの市場に特化したインクジェット・プリンターやビジネスモデルを設計し、提供している。価格を重視する顧客向けの大容量インクタンクを備えたインクジェット・プリンターや、ビジネスユーザー向けのモノクロプリンターがその例である。

 セイコーエプソンは、2010年10月に、インドネシア市場向けに大容量インクタンクモデル「L100」および「L200」を投入したがビジネス用途としても注目を集め、好調に販売を伸ばしてきている。そし て導入モデルであったL100やL200 の発売から1年あまりで、インドネシア市場でのエプソンのインクジェット・プリンターの販売数量比率は、大容量インクタンクシステム搭載プリンターがおよそ半分に達するほどになった。この商品は、フィリピン、タイ、インド、中国などのアジア諸国にも販売エリアが拡大し、さらに南米や東欧、中近東諸国へと全 世界で販売されるようになった。

 この商品の成功により、エプソンのエマージング市場における高収益ビジネスモデル転換に加速がついたという経緯がある。エプソンは世界初の純正インクタ ンクシステム・プリンターメーカーである。

 エプソンのフィリピンにおける販売・サービス拠点はエプソン・フィリピンズ(EPC)である。EPCは、2014年7月に、大容量インクタンク搭載インクジェット・プリンターLシリーズ新製品4機種を発表した。ベーシックタイプ(8.5ipm=1分間に8.5枚入出力可能)のL120(単機能プリン ター)、A3プリンターのL1300 、A3フォト・プリンターのL1800、L555(WiFi対応複合機)である。販売価格はL120が4,995ペソ、L1300が18.995ペソ、 L1800が24,995ペソ、L555が14,495ペソである。

 これらのLシリーズの人気は急速に高まり、現在フィリピンのインクジェット・プリンター市場におけるトッププランドとなっている。そして更なるシェア拡大を図ため、大容量インクタンク搭載インクジェット・プリンターMシリーズの M200 が投入された。M200 はモノクロドキュメント複合機であり、1インクタンク(565ペソ)で6,000ページの印刷が可能であり、印刷スピードは15ipm=1分間に15枚入 出力可能)と普通のレーザープリンターと遜色がない。したがって、レーザープリンターからの転換需要が高まると期待される。
 
 エプソンは、フィリピンのインクジェットプリンタ事業においても、インクカートリッジを中心とした収益モデル(プリンタ本体を低価格で販売、販売後に利益率の高いインクジェットカートリッジによって収益を得るという仕組み)からの脱却に成功しつつあると言えよう。

 なお、エプソンは、2016年度までに総額約123億円を投資し、フィリピンの製造子会社エプソン・プレシジョン・フィリピン(EPPI)に、インク ジェットプリンターとプロジェクターの生産拡大に対応するための新工場を建設しつつある。最新鋭かつ最高効率のオペレーションを目指すこの新工場は、 EPPIの敷地内に建設し、2017年初頭に竣工、2017年春には稼働を開始する予定である。また、約3,000kWhの能力を持つメガソーラー発電設 備を建物の屋根部分に設置する予定で、これにより、新工場も合わせたEPPI全社が昼間に使用する電力の半分程度をカバーすることが可能である。

 エプソンは主に中国、インドネシア、フィリピンにインクジェットプリンターとプロジェクターの生産拠点を有しているが、中長期的な事業戦略のもと、今後の生産拡大に向けた増産体制を整備する必要が生じている。

 インクジェットプリンターについては、上記の大容量インクタンク搭載プリンターが急成長しているほか、オフィス向けインクジェットプリンターも着実な伸 びを示しており、今後も大幅な生産数量の増加が見込まれる。新工場はこのような生産数量の増加に対応し、従業員数も現在の約12,500人から、最終的に は20,000人の体制を想定している。これにより、エプソングループ全体の中長期的な観点での生産体制が整備されることとなる。

 一方、EPCは1998年に設立されたが、短期間で10億ペソ超企業に成長、現在は77の公認サービスセンター、200以上のディーラー、800以上の販売店を有するに至っている。