フィリピン、科学技術人材育成での日本の支援期待
2014/11/21
JICA等のODA60周年シンポでデル・ロサリオ外務相
2014年は、日本が政府開発援助(ODA)を通じて国際協力を開始してから60年に当たる節目の年である。それを記念する国際協力60周年記念シンポジウム「成長と貧困撲滅-日本のODAに期待される役割」が、外務省と国際協力機構(JICA)の共催により2014年11月17日、イイノホール(東京都千代田区)で開催された。
シンポジウムでは、岸田文雄外務大臣(中根一幸外務大臣政務官による代読)、ヘレン・クラークUNDP総裁が基調講演を行った。岸田外務大臣基調講演のテーマは「新たな時代の開発協力-平和国家・日本の目指すもの」であった。その後、登壇した岸田外務大臣は、「日本のODAが果たしてきた役割は大きいと自負しているが、日本も、日本を取り巻く環境も大きく変化している。それに合わせてODAも進化を遂げ、国内外の期待に応えていかなければならない。新たな開発協力大綱は、平和国家日本が目指す開発協力の在り方と決意を示すものである」と、あらためてODA大綱の見直しの意味を強調した。
第2部は、NHKの道傳解説委員をモデレーターに、「日本の国際協力と期待される役割」をテーマにしたパネルディスカッションが行われた。フィリピンのアルバート・デル・ロサリオ外務大臣、ケニアのマイケル・カマウ運輸・インフラ長官、JICAの田中明彦理事長、ブルッキングス研究所のジョン・ペイジ・シニアフェローがパネルディスカッションに参加し、議論や質疑応答を行った。
JICAの田中理事長は「以前のODAはインフラ整備や農業支援が主流だったが、今は、人間の安全保障にかかわる保健・衛生、教育、平和構築などの占める割合が大きくなっている。さらに、一村一品運動、母子手帳、カイゼン、5Sなど、日本ならではの技術協力の重要性も増している」と振り返った上で、「こうした変遷からわかるのは、日本の国際協力の特徴が、相手国のオーナーシップや自助努力の尊重、人と人とのつながりの重視、経済成長を通じた貧困削減にあるということ。また、日本の技術や経験をそのまま適用するのではなく、相手国の立場に立った支援が重要である」と語った。
フィリピンのデル・ロサリオ外務大臣は、長年にわたる日本とフィリピンのパートナーシップに言及した。フィリピンにとって日本は、二国間経済連携協定を締結している唯一の国であり、最大の貿易相手国でもある。「日本の援助は非常に質が高い。相手国の自助努力と自発性を重視するという原則を守りながら、継続的な支援を続けている。気候変動や自然災害と戦う力も、わが国は日本の支援により得ることができた」と、これまでの日本の支援に感謝した。
また、今後、日本のODAに期待するものとして、デル・ロサリオ外務挙げた。「東南アジアの地域統合が進む中で必要となるのは、国際的な競争力。そのために、エンジニア、科学者など科学技術分野での人材の育成にぜひ力を貸してほしい」と訴えた。
その後、会場からの質問にパネリストが答えた。「日本のODAはインフラ支援に偏っているのではないか」という質問に対して、JICAの田中理事長は「円借款は確かにそう見えるが、技術協力や無償資金協力はそれ以外の支援も多い」とした上で、「ただし、多くの開発途上国にとって、インフラ整備は経済発展の基礎であるとともに、保健や教育へのアクセス向上のために非常に重要だということを理解してほしい」と強調した。
「円借款は相手国にとって有益なのか」という質問には、ケニアのカマウ長官が「ケニアのモンバサ空港は、日本の支援によって整備事業を進めることができた。地方との連結性に乏しいケニアにとって、インフラ整備は教育や医療にとっても重要な課題だ」と円借款の有益性を説明した。
BOP(低所得層)の展望、そして日本が期待される役割についても質問が寄せられた。ブルッキングス研究所のペイジ・シニアフェローは「世界銀行の試算によると、アフリカのインフラ整備には930億ドルかかるといわれている。それを整備し、世界との大きなギャップを埋めるためには、クリエイティブなアイデアが必要。そこに、BOPビジネスの可能性がある」と語った。田中理事長も「ODAの資金は限られている。インフラ整備を進めるために、BOPビジネスによる民間企業の知恵と資金の活用が必要だ」と答えた。
最後にNHKの道傳解説委員が「この60年間で世界のパワーバランスは変化し、援助の在り方も変化している。60年という節目に国際協力の在り方を考えることは、日本が国際社会とどうかかわるのかを考えることでもある。今日の話はその議論を深めていく上で非常に有意義だったと思う」と語り、シンポジウムを締めくくった(14年11月21日の国際協力機構ニュースリリースより)。