マニラ港混雑とトラック規制の経緯や対応策
2014/11/04
「バタンガス・スービック港ニュース」第5号にて
外国商工会議所や半導体・電子工業会も提案
JICA専門家の桑島隆一氏(フィリピン運輸通信省出向)が、メールマガジン「バタンガス・スービック・ポート・ニュース」(全文ともに日本語と英語、無料)を今年3月に創刊、このほど第5号が発行された。
現在、クリスマスシーズンに向けて輸入が急増する中、マニラ港に入港する船舶が長く沖待ちを余儀なくされる状況を改善させ、フィリピン経済に悪い影響を与えないよう鋭意、対策が検討実施されつつある。同メルマガ第5号には、このようなマニラ港の混雑等への対応が時系列的に整理・記載されている。
具体的には、1.在比外国商工会議所等からのマニラ港混雑等に関する対策提案、2.マニラ港の混雑とトラック規制等の対応経緯、3.バタンガス港とスービック港のマニラ港の外港化、4.スービック港のコストメリット(その2、輸出編)などが次のように掲載されている(以下、同メルマガ5号より抜粋)。
<マニラ港の混雑とトラック規制等について>
今年の2月24日にマニラ市が日中のトラック通行の規制強化を施行してからはや半年以上が過ぎた。その間、マニラ港の混雑は深刻化し、フィリピン経済にも悪影響を及ぼすような事態になり、去る9月13日にはエストラーダ、マニラ市長がマニラ市によるトラック通行規制を解除するに至っている
<マニラ港の混雑と対応経緯等>
*2013年12月:台風ヨランダの来襲と対応
11月8日にフィリピンを襲った台風ヨランダに関係して、救援物資のマニラ港での取扱い、現地支援によるトラック不足等によりマニラ港が混雑。
*2014年2月24日:マニラ市による日中のトラック通行の規制強化とストライキの実施
従前の午前6時から午前9時までと午後5時から午後9時までの通行規制に代わって、日曜と祝日を除く日中はトラック通行を全面的に禁止(その後、空車を除く積載トラックの通行が暫定的に認められる)。またそれに反発してトラック業界が3日間ストライキを実施し、マニラ港の荷役は完全にストップ。そのため 台風ヨランダによる混雑が回復されつつあったマニラ港は再び混雑し、以降、その混雑は深刻化。
*2014年5月13~20日:世界経済フォーラム会議開催のため、トラック通行規制を一時的に解除
同フォーラムの開催に合わせて、8日間、一時的にトラックの通行規制が解除されたものの、マニラ港の混雑は解消されず。コンテナ貨物の搬入・搬出に遅れが発生し、マニラ港に寄港する船の運航遅延も顕在化。
*2014年6月10日:トラック通行規制の影響低減に向けたトラック専用レーンの設置
フィリピン政府は、マニラ市が実施するトラック通行規制の影響を低減するため、マニラ港に通じる道路の一部に24時間、トラックが通行可能な専用レーンを設置(空コンテナ積載のトラックも通行可能。以降も設置拡充)。しかしコンテナ貨物遅延の全面的な解決には至らず、マニラ港のコンテナヤードは満杯状態 に達する。
*2014年6月19日:陸運許認可規制委員会(LTFRB)がトラックの正規登録認可を義務化
LTFRBは、公共交通車両としてトラックの正規登録認可を義務化。ただ登録申請中のトラックは暫定的に許可(2015年1月15日まで)。しかし多くのトラックが未登録のため、運行の手控えが発生し、トラック不足に拍車がかかる。マニラ港の混雑のため、マニラ港への寄港を回避する抜港も発生。
*2014年7~8月:バタンガス港への寄港シフトと空コンテナのマニラ港からの回収
マニラ港の混雑が継続する中、その混雑回避のため日本郵船(NYK)をはじめ、数船社がマニラ港に代わって、バタンガス港への寄港を暫定的に実施。また マニラ港に滞留する空コンテナの回収が船社により行われる。ICTSIはスービック港を空コンテナ置き場にも提供。なお、バタンガス港の貨物量は上半期 (15,820TEU)で昨年実績(11,020TEU)を超えたが、急増する貨物への対応のため最近はバタンガス港も混雑。
*2014年9月13日:マニラ市がトラックの通行規制を解除
フィリピン政府からの要請を受けて、マニラ市長は2月から実施してきたトラックの通行規制を解除する旨の行政命令に署名。
*2014年9月13日:バタンガス港とスービック港をマニラ港の外港にする大統領令が発効
「マニラ港の混雑時及び非常時にはバタンガス港とスービック港をマニラ港の外港とする大統領令172号」が大統領により署名され、9月13日付けで発効。
これはマニラ港の混雑がマニラ首都圏のみならず、全国の産業活動を阻害し、フィリピン経済に悪影響を与えていることに鑑みて、今後、同様な事態が発生し た場合は、マニラ港の混雑を早急かつ効果的に緩和するため、バタンガス港とスービック港をマニラ港の外港として指定するというものである。 具体的にはフィリピン港湾庁(PPA)理事会の提言を受けて、運輸通信大臣がマニラ港の非常事態を宣言し、マニラ港を停泊先とする外国貨物船は、バタンガス港及びスービック港のいずれかに停泊するよう求められることになる。
<在比外国商工会議所がマニラ港の混雑について対策を提案>
欧州、カナダ、アメリカ、日本の在比商工会議所とフィリピン半導体・電子工業会そしてトラック業者協会は、10月15日に連名でマニラ港の混雑とトラック輸送問題に対する対策をフィリピン政府に提案した。
提案ではマニラ港の混雑により大幅な物流コスト増と配送遅延を余儀なくされている中、物流量が増加するクリスマスに向けてはフィリピンのサプライチェーンと経済のさらなる悪化が懸念されるとして、以下の7つの対策を求めている。
1. 地方自治体独自のトラック規制の禁止。
2. 陸運許認可規制委員会(LTFRB)による規制(公共交通車両対象)からトラックを除外。
3. コンテナトラックに対するマニラ港への入港許可証の有効期限撤廃。
4. 政府によるコンテナの滞船料金と遅延料金の適正化。
5. コンテナのマニラ港からバタンガス港、スービック港への移替えの取消し。
6. バタンガス港、スービック港におけるクレーン等の港湾施設の早期増設。
7. マニラ港と南北高速道路を直接結ぶアクセス道路の建設。
この提案に関してフィリピン日本人商工会議所の藤井伸夫副会頭は、「フィリピンに進出している企業にとって物流の改善は大きな問題の一つ。基幹港であるマニラ港の混雑を早急に改善し、またバタンガス港及びスービック港がより活用されるようにすることが大事」と説明している。
<「バタンガス・スービック・ポート・ニュース」発行の趣旨と申込み方法など>
なお、バタンガス港及びスービック港は、ルソン島の成長回廊であるスービック~クラーク~マニラ~バタンガス地域の経済発展を促進させる重要な港湾とし て、日本の支援で建設されたものである。両港の発展は、またマニラ港に集中するコンテナ貨物を分散させ、深刻化するマニラ首都圏の交通混雑の緩和にも寄与 する。
しかしながら、新しい港湾であるがゆえにまだ両港は十分に利用されるに至っていない。このため、バタンガス港及びスービック港の一層の発展や利用振興を目的に、最新の港湾事情、調査結果、政策決定などの情報を提供することとなった。港湾物流がグローバル化する中、物流の効率化、そして両港の利用への意思決定に寄与することを願っている。
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