比ボホールでのファブラボ会議、グッドデザイン賞に
2014/10/03
JICAの協力隊員が推進、アキノ大統領が高く評価
ファブラボ、途上国の発展モデルを変革する可能性
10月1日、2014年度の「グッドデザイン賞」(公益財団法人日本デザイン振興会主催)が発表され、「公共向けの取り組み・社会貢献活動部門」で、5月に開催されたものづくり国際会議「FAN1(FabLab Asia Network 1st Conference)」が受賞した。
この会議は、フィリピン貿易産業省(DTI)に派遣されているJICA青年海外協力隊の徳島泰隊員が設立を推進した「ファブラボ・ボホール」を起点に、 5月2日から6日間にわたって、ボホール島州立大学で開催されたもので、アキノ大統領が参加するなど、フィリピン国内でも大きな注目を集めた。
ファブラボとは、市民が自由に使える3Dプリンターなどのデジタル工作機械を備えた草の根ものづくり工房と、インターネットで相互に接続されたその世界 的なネットワークのことである。2002年に米国マサチューセッツ工科大学(MIT)のニール・ガーシェンフェルド教授が著書『ものづくり革命 パーソナ ル・ファブリケーションの夜明け』で紹介して以来、世界中に急速に広がり、2014年現在、世界に400ヵ所以上、アジアには30ヵ所以上の拠点があると いわれている。
近年のものづくりでは、3Dプリンターなどデジタル機械の価格低下の影響もあり、地域や個人の問題を自分たちで解決しようとする市民による「問題解決型 デザイン」が盛んになっている。とりわけ、ファブラボを中心として行われる、インターネットを介して共有されたデータを利用する相互的な問題解決型デザイ ンは、「オープン・イノベーション」と呼ばれ、世界的に勢いを増している。
ガーシェンフェルド教授の著書を通じてその存在を知ったという、青年海外協力隊員の徳島さんが、ボホール島州立大学にファブラボを設立しようと思い立っ たのは2012年のこと。高品質なものづくりの支援を目指しフィリピンに赴任した徳島さんの目に入ったのは、至る所に捨てられたプラスチックのごみと、そ れらを集めて生計を立てる人々の姿。ならば、プラスチックごみをそのまま売るのではなく、一度原料に戻して製品化すればもっと稼げるのでは、という発想が 源になっている。
徳島さんの奮闘を受けて、DTI、科学技術省(DOST)、ボホール島州立大学、JICAが共同で、市民工房「ファブラボ・ボホール」を設立。ボホール 州では、このファブラボを利用して、170以上に及ぶ工芸・食品セクターの地元中小零細企業の支援と、新しいコンセプトによる理科・数学・科学・技術横断 授業(STEM教育)の導入を予定している。
徳島さんが実行委員長を務めた「FAN1」は、ファブラボ・ボホールの披露も兼ねていた。会議には、オープン・イノベーションの力で問題解決を図るアジ アの「共創のプラットフォーム」づくりを目的に、アジア8カ国から200人以上のデジタル・クリエーターが集結。アキノ大統領をはじめ、グレゴリー・ドミ ンゴDTI長官など、中央政府からの参加者に加え、ボホール州政府やタグビララン市などの地元政府からも多くの関係者が参加した。
ボホール州政府は、「FAN1」期間中に、慶應義塾大学とファブラボ・ボホールが、地震や台風などの大規模災害からの復興対策として共同展示した、日本 の伝統的な建築技術を応用してベニヤ板を組み合わせて作られた建築に大きな可能性を感じ、2013年に発生したボホール地震からの復興に役立てたいと考え た。その結果、ファブラボ・ボホールと慶應義塾大学との共同プロジェクトとして、震災で倒壊した幼稚園の建築が行われた。州政府はこのプロジェクトの経験 を基に、今後もこの技術を用いて震災復興を進めていきたいと考えている。
また、タグビララン市は、「FAN1」で発表された、超小型機器による廃プラスチックリサイクル技術を用い、市内全町の15ヵ所にリサイクル設備を設立 することを決めた。放置されてごみの山となっている廃プラスチックの問題を解消すべく、年内の完成を目標に急ピッチで準備が進められている。
プロジェクトが軌道に乗れば、それぞれの施設に、廃プラスチック材を活用した3Dプリンターシステムやデジタル加工機などを追加し、タグビララン市内全 町にミニ・ファブラボを出現させる「Fab City化計画」も検討されており、ファブラボとオープン・イノベーションへの大きな期待をうかがわせる。
このような大きな価値を生んだ「FAN1」と、その後のファブラボ・ボホールの活動について、アキノ大統領自身が参加し高く評価したことや、国や分野を越えた横断的で国際的な活動である点などが評価され、2014年度グッドデザイン賞受賞に至った。
ファブラボと「FAN1」の取り組みを評価したアキノ大統領は、DTIに対し全国にファブラボの拡大を指示した。グッドデザイン賞の受賞は、この動きに より一層弾みをつけることにもなる。先進国と開発途上国とがフラットな関係で共創を行い、個人や地域の問題を自分たちの力で解決する新しい形の国際協力 は、大きな期待の下、既に動き始めている(14年10月2日のJICAニュースリリースより)。