ストライキ8年連続で1ケタ台に、政・労・使対話活発
2014/04/09
日系企業の労働組合組織率10%、全営利企業では8.5%
日本厚生労働省、フィリピン等7カ国の労使情報を特集
日本厚生労働省は、4月7日、「2013年 海外情勢報告」を公表した。その内容は、日本厚生労働省のウエブサイトにて閲覧可能となっている(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000042803.html)
「海外情勢報告」は、諸外国の労働情勢と社会保障情勢全般に関する情報を、毎年取りまとめているもので、「特集」と「定例報告」で構成されている。 今回の「特集」では、アジア7か国(フィリピン、中国、インド、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム)の労使紛争とその解決制度について取り上げている。
これらの国々に対しては、企業の海外展開を促進する日本政府による成長戦略などを背景に、日本企業の進出が活発である一方で、いくつかの国では、ここ数年、デモやストライキなどの労働紛争が多発し、企業の間では、その実情に対する懸念や解決制度に対する関心が高まっている。
労使紛争は、中国、インド、インドネシア、ベトナムでは激化した時期があったが、直近では大きな動きは収まりつつあるように見える。紛争の多くは、賃金の引上げを含む処遇の改善、解雇の正当性を争うものである。一方、フィリピン、マレーシア、タイでは、多くの規制などもあって、紛争は比較的少ないとされている。 なお、フィリピンについては、以下のように説明されている。
フィリピンの労使紛争の主な原因としては、最低賃金が遵守されないことも含む賃金の不払い、労使が合意した労働協約(CBA)違反によるトラブルの他、セクシャルハラスメント及び職場内の暴力行為等が挙げられる。賃金を原因とした労使紛争は、賃金交渉を行う際の目安として、最低賃金の動向や消費者物価上昇率等を考慮して交渉が行われることが通例であるが、最低賃金が生活可能な賃金となっていないという理由から、最低賃金や消費者物価上昇率を大幅に超える要求が提出され、労使紛争となる例が散見される。
いずれの理由から発生する労使紛争であっても、労使紛争の結果ストライキ等の争議行為に発展することはほとんどない。労使紛争からストライキ等に発展しない理由として、憲法を根幹とした政労使が社会対話を行うことでトラブルを解決する土壌や、国が労使紛争の解決に積極的に介入することができる制度が背景にある。
憲法により、「国は、労使の間における責任分担の精神を推進するとともに、調停を含む紛争解決による自主的解決を優先し、労使双方に規則の遵守を求め産業の平和を目指す。」と定められており、労使間の自主的解決を基本理念とし、様々な労使又は政労使の対話の場を国が整備し、国は争議行為や裁判となる前に解決すべく裁判外紛争解決制度の充実に力を入れている。
裁判外紛争解決制度を利用しても解決しない労使紛争は、ストライキ等に移行することになるが、政府の裁判外紛争解決制度の促進施策は成果を挙げており2012年におけるストライキ通告件数は184件で、うち実際にストが決行されたのは、3件のみであり、2007年から6年連続で一桁台となっている。
フィリピン労働雇用統計によると、2013年も9月末時点でのストライキ通告件数は105件で、うち実際にストが決行されたのは、1件のみであり、7年連続での一桁台ペースとなっている。
ただし、積極的な政府の介入故に表面化しない労働者の不満や、当該事業所の従業員が労働条件に満足している場合でも上部団体等による指示から労働争議や訴訟に発展させるケースもあることから、企業内における労使協議会(LMC)等を活用し、積極的に労使の対話を図ることが大規模な労使紛争を未然に防ぐことに役立つと言える。
フィリピンの労働者団体の主要なナショナルセンターとしては、フィリピン労働組合会議(TUCP)、労働者諮問協議評議会(LLACC)、5月1日運動(KMU)、自由労働者連盟(FFW)等がある。また、営利企業における労働組合員数及び組織率は近年ほぼ横ばいであり、2013年においては8.5% となっている。
日系企業における労働組合の組織率は10%程度とフィリピン全土の営利企業における平均(8.5%)よりもやや高い傾向にある。一部の日系企業では上部組合の意向を受け過激な活動を行う労働組合も存在する模様であるが、定期的に使用者と労働者が話し合う場を設けるなど、円滑なコミュニケーションに努力している企業が多い(14年4月7日の日本厚生労働省ニュースリリースより)。
フィリピンでのストライキ・ロックアウト件数
年 | 2008年 | 09年 | 10年 | 11年 | 12年 | 13年9カ月間 |
通告件数 | 362 | 286 | 276 | 240 | 184 | 105 |
実行件数 | 5 | 4 | 8 | 2 | 3 | 1 |
(出所:フィリピン労働雇用統計より作成)