9カ月間の経常収支黒字、84%増の91億ドル
2013/12/21
対GDP比率は4.6%に上昇(前年同期2.8%)
OFW送金の威力、貿易赤字の2倍の規模に
フィリピン中央銀行(BSP)は12月20日、13年第3四半期(13年9月末)及び年初9カ月間(1~9月)の国際総合収支を発表した。
フィリピンの貿易収支は慢性的赤字にもかかわらず、赤字額を大幅に上回る海外フィリピン人就労者(OFW)からの送金により、経常収支は黒字というパターンが定着している。OFW送金の威力による経常収支の黒字継続がフィリピン経済の特色であり、景気の押し上げ要因となっている。また、フィリピン格付けの投資適格への引き上げの大きな要素でもある。
[2013年第3四半期の国際総合収支動向]
下表の通り、経常収支の黒字は前年同期比42.5%増の32億0,400万米ドルに拡大した。対GNI比、対GDP比は4.2%、5.0%で、ともに前年同期比上昇となった。海外フィリピン人就労者(OFW)送金が同7.2%増の63億4,800万米ドルに達し、31億0,300万ペソの貿易赤字をカバーするだけでなく、経常収支の黒字を継続させている。
経常収支の黒字、S&Pやフィッチ、ムーディズなど国際格付け機関の信用格付け引き上げを背景にした金融収支黒字の大幅拡大により、国際総合収支(BOP)も黒字が継続した。ただし、その黒字額は前年同期比72.4%減の12億4,700万ドルへと減少した。
国際総合収支の継続的黒字などにより、第3四半期末の外貨準備高(GIR)は前年同期末比1.8%増の835億米ドルに達した。これは輸入の12カ月分に相当する水準。また、原本ベース短期対外負債の約8.9倍、残存ベース短期対外負債の5.9倍に相当する水準である。
[2013年年初9カ月間の国際総合収支動向]
9カ月間の経常収支の黒字は前年同期比84.2%増の90億5,700万米ドルと大幅増。対GNI比、対GDP比は3.8%、4.6%でそれぞれ前年同期の2.3%、2.8%から急上昇した。貿易赤字が同11.4%縮小したうえ、OFW送金が同6.6%増の181億7,000万米ドルと、貿易赤字93億0,400万ドルの約2倍に達したことで、経常収支の黒字が一段と拡大した。
9カ月間の国際総合収支(BOP)は38億3,400万米ドルの黒字となった。前年同期より34.4%縮小したが、OFW送金の威力などにより黒字を維持した。
[国際総合収支発表について]
中央銀行は国際収支(BOP)積み上げ方式統計に関して、2003年10月にそれまでの毎月発表から四半期毎の発表へ変更することを決定した。これは、統計内容の確認、モニター、調整を強化し、より精度の高い統計を発表することが目的である。
ただし中央銀行は、毎月、純外貨準備高(NIR)の変動から算出した国際総合収支推計速報値を発表している。ちなみに、最新数値は、12月19日に発表された2013年11月及び年初11カ月間の速報値。それによると、年初11カ月間の黒字は前年同期比45.7%減の46億6,600万ドルであった。しかし、上記のような積み上げ方式の国際総合収支発表は四半期ベースである。
第3四半期及び9カ月間の国際総合収支内訳(単位:百万米ドル)
項目 | 第3四半期 | 1~9月 | ||||
年 | 13年 | 12年 | 伸び率(%) | 13年 | 12年 | 伸び率(%) |
経常収支 | 3204 | 2249 | 42.5 | 9057 | 4918 | 84.2 |
対GNI比(%) | 4.2 | 3.1 | - | 3.8 | 2.3 | - |
対GDP比(%) | 5.0 | 3.7 | - | 4.6 | 2.8 | - |
貿易・サービス・第一次所得収支 | -2032 | -2616 | 22.3% | -5715 | -9015 | 36.6 |
貿易・サービス収支 | -2307 | -2244 | -2.8% | -5421 | -8040 | 32.6 |
対GNI比(%) | -3.0 | -3.1 | - | -2.3 | -3.8 | |
対GDP比(%) | -3.6 | -3.7 | - | -2.7 | -4.5 | |
輸出 | 18753 | 16945 | 10.7 | 51330 | 48772 | 5.2 |
輸入 | 21060 | 19189 | 9.7 | 56751 | 56812 | -0.1 |
貿易収支 | -3103 | -3021 | -2.7% | -9304 | -10504 | 11.4 |
サービス収支 | 796 | 777 | 2.5 | 3883 | 2464 | 57.6 |
第一次所得収支 | 275 | -372 | 173.8 | -294 | -975 | 69.8 |
第二次所得収支 | 5236 | 4865 | 7.6 | 14772 | 13933 | 6.0 |
資本収支 | 26 | 33 | -21.4 | 72 | 88 | -18.2 |
金融収支 | 1183 | 510 | 132.0 | 1363 | -3589 | 138.0 |
直接投資 | -589 | -42 | -1302.9 | -1423 | -860 | -65.5 |
証券投資 | 217 | -61 | 455.0 | -1735 | -1672 | -3.8 |
金融派生商品 | -62 | 18 | -445.6 | -40 | -40 | 0.9 |
その他投資 | 1618 | 595 | 172.0 | 4561 | -1017 | 548.5 |
誤差脱漏(ネットベース) | -800 | 2743 | -129.1 | -3942 | -2764 | -42.6 |
国際総合収支 | 1247 | 4515 | -72.4 | 3824 | 5831 | -34.4 |
対GNI比(%) | 1.6 | 6.2 | - | 1.6 | 2.7 | - |
対GDP比(%) | 1.9 | 7.4 | - | 1.9 | 3.3 | - |
OFW送金額合計 | 6348 | 5922 | 7.2 | 18170 | 17049 | 6.6 |
うち銀行経由分 | 5781 | 5444 | 6.2 | 16480 | 15572 | 5.8 |
(出所:BSP資料より作成、注:13年は全て速報値)
[対外収支の長期的な動き]
上記のように、フィリピンの貿易収支は慢性的赤字であるものの、経常収支は2003年に黒字転換、その後黒字は拡大を続け、2009年には93億5,800万米ドルという史上最高の黒字を記録、対GNI比は4.2%、対GDP比は5.6%に達した。その後も高水準の黒字を維持している。
一方、国際総合収支は2005年以降黒字が定着、2010年に143億800万米ドル、対GNI比5.4%、対GDP比7.2%という史上最高の黒字を計上した。貿易収支の赤字をOFW送金が完全に埋め切り、経常収支や国際総合収支を黒字に維持するというパターンが定着している。
フィリピン対外収支推移(単位:百万米ドル)
年 | 03年 | 04年 | 05年 | 06年 | 07年 | 08年 | 09年 | 10年 | 11年 | 12年 |
貿易・サービス収支 | -7814 | -7461 | -9113 | -6595 | -6142 | -11725 | -6728 | -8231 | -11492 | -11124 |
対GNI比 | -7.6% | -6.6% | -7.0% | -4.3% | -3.3% | -5.3% | -3.0% | -3.1% | -3.9% | -3.4% |
対GDP比 | -9.3% | -8.2% | -8.8% | -5.4% | -4.1% | -6.8% | -4.0% | -4.1% | -5.1% | -4.4% |
経常収支 | 285 | 1625 | 1980 | 5341 | 7112 | 3627 | 9358 | 8922 | 7125 | 7177 |
対GNI比 | 0.3% | 1.4% | 1.5% | 3.5% | 3.8% | 1.7% | 4.2% | 3.4% | 2.4% | 2.2% |
対GDP比 | 0.3% | 1.8% | 1.9% | 4.4% | 4.8% | 2.1% | 5.6% | 4.5% | 3.2% | 2.9% |
国際総合収支 | 115 | -280 | 2410 | 3769 | 8557 | 89 | 6421 | 14308 | 11400 | 9236 |
対GNI比 | 0.1% | -0.2% | 1.9% | 2.5% | 4.6% | 0.0% | 2.9% | 5.4% | 3.8% | 2.8% |
対GDP比 | 0.1% | -0.3% | 2.3% | 3.1% | 5.7% | 0.1% | 3.8% | 7.2% | 5.1% | 3.7% |
(出所:中央銀行資料より作成 11年は改定値、12年は速報値)