旅行・観光産業、フィリピンの新成長エンジンに

2013/12/09

2012年は10%成長、GDPシェア6.0%に上昇
就業者数10%増の422万人、雇用シェア11.3%に

 

 

  7千以上の島々からなるフィリピンは、島の数だけ違った魅力を持つ楽園リゾートである。


  素晴らしい自然を背景に魅力のある多くの観光資源と、陽気で親切で親しみやすい国民性との相乗効果で、世界屈指の観光立国になりうる潜在力を有する国である。実際、ボラカイ島などは、各種の世界人気リゾート・ビーチランキングにおいて、トップ、あるいは上位を占めるようになっている。そのほかの主な観光地としては、マニラ首都圏及びその周辺、セブとその近接地のボホール、パラワン、避暑地でもあるタガイタイ、バギオなどが挙げられる。

 また、非常に陽気で英語力に優れるフィリピン人は、ホテルなどの観光・旅行産業に向いており、人的資源という観点からも豊かな観光資源を有する国であるといえる。

 このような有望なフィリピン旅行・観光産業(以下、旅行産業と記す)に関して、国家統計調整委員会(NSCB)が、12月5日に、2012年の動向を発表した。

 それによると、2012年の旅行産業の直接粗付加価値額(TDGVA:名目ベース、以下同様)の名目GDP(国内総生産)に対する寄与度は6.0%、すなわち、GDPにおける旅行業界GDPのシェアは6.0%であり、2011年の5.9%、2010年の5.8%から小幅ながら上昇傾向を辿った。また、 GDPシェア6.0%は、建設業の5.9%、公益事業(電力・ガス・水の供給)の3.5%、鉱業の1.1%などを上回っている。

 2012年の観光直接粗付加価値額は前年比10.3%増の6,311億ペソに達し、2011年の同9.2%増を上回る高い伸びとなった。一方、名目 GDPは同8.8%増の10兆5,649億ペソであり、旅行産業のGDPシェアが上昇という結果となった。

 2012年のフィリピン訪問者(外国人旅行者及び在外フィリピン人)の支出が前年比28.7%増の1,602億ペソへと急増したことが、TDGVAの二桁増に寄与した。そのうち、宿泊、飲食、買い物への支出が上位を占め、それぞれフィリピン訪問者支出全体の28.9%、25.6%、23.2%を占めた。一方、居住者の国内旅行支出は前年比15.2%増の6,627億ペソであった。これは、家庭最終消費の8.5%に相当する水準である。

 旅行関連産業における就労者数は前年比10.4%増の420万人に達し、国内の総就業者数3,727万人の11.3%を占め、前年の10.3%からかなりの上昇となった。この就業者シェアは、2000年~2006年まで9%台、2007年から2013年までは10%台前半で推移しており、雇用面でも旅行産業の重要性が高まっているといえる。

 以上の数値はフィリピンサテライト勘定(PTSA)の最新データに基づいている。PTSAは国家統計調整委員会(NSCB)が観光省(DOT)、 NSCB観光統計庁間委員会の協力を得て作成されている。


 フィリピン旅行・観光業界の付加価値額や就業者数などの推移

2010 2011 2012
旅行・観光粗付加価値額(TDGVA) 5,239億ペソ 5,722億ペソ 6,311億ペソ
GDPシェア 5.8% 5.9% 6.0%
旅行・観光関連就業者数 369万人 382万人 422万人
比就業者総数に対する割合 10.2% 10.3% 11.3%

(出所: フィリピン国家統計調整委員会資料より作成)


 フィリピンの観光粗付加価値(GVA)成長率 (単位:%)

年度 2011年 2012年
旅行・観光特定生産物 10.8 12.1
宿泊施設サービス 15.1 8.9
飲食サービス 8.8 12.0
旅客輸送サービス 9.0 9.9
  陸路輸送サービス 9.1 10.9
  水路輸送サービス 11.7 12.2
  空路輸送サービス 7.8 5.1
旅行代理店・その他予約サービス 19.4 11.5
娯楽・レクリエーション・文化 7.1 19.6
土産品買い物 8.8 11.0
その他の観光サービス 9.2 14.6
  金融・保険 9.9 11.6
  ウェルネス・ヘルスケア 8.9 16.0
その他生産物 17.1 7.6
観光粗付加価値総額(TDGVA) 9.2 10.3

(出所: フィリピン国家統計調整委員会資料より作成)

フィリピン就業者動向(単位:%)

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
フィリピン就業者総数 3.1 1.9 3.2 2.2 2.0 1.8 1.6 2.8 2.8 3.2 0.2
観光関連産業 2.8 5.0 4.7 1.9 2.6 4.4 1.7 3.9 4.1 3.5 10.4
   宿泊施設(ホテル他) 3.8 8.2 7.5 6.8 2.9 2.3 5.1 5.9 3.5 6.8 15.1
   旅客輸送 2.1 6.9 5.1 1.0 1.3 4.7 -0.3 3.4 1.8 2.3 -2.2
   旅行代理店・案内人 1.8 0.5 8.2 3.6 14.5 5.9 2.8 -0.8 2.9 2.3 -2.2
   娯楽・遊興サービス   1.8 6.2 4.9 -7.2 3.4 16.3 -0.4 -0.1 17.3 3.2 49.5
   観光土産販売 6.8 -0.2 4.8 4.7 2.2 1.1 1.5 4.3 5.1 0.2 0.5
   その他 1.6 -3.9 -5.3 -1.4 1.1 0.7 2.3 6.1 4.0 2.0 23.7

 (出所: フィリピン国家統計調整委員会資料より作成)

 なお、2013年は大きな災害に見舞われたことで、フィリピン訪問客数がやや伸び悩み、2013年フィリピン訪問者数500万人という目標は難しくなりつつある(詳細は別掲)。しかし、今後は、フィリピンの旅行・観光産業が飛躍的に発展する可能性がある。その理由は以下の通りである。

1.フィリピンのイメージが変わりつつある。
これまで、フィリピンへの投資、観光等を妨げていた大きな要因として、危険、汚いというイメージが強かったが、経済の安定、ボクシングのパッキャオ選手などのような世界的ヒーローの出現、現政権の不正防止努力等により、本来の陽気で明るいというイメージが戻りつつある。イメージが改善するだけで、潜在能力の高さが顕在化することになる。

2.政府が旅行・観光産業育成に注力
 政府が産業育成のための制度改革やインフラ整備に真剣になり始めた。昨年、地方空港への外国航空会社乗り入れに関する規制が緩和されたり、地方の空港改修・整備、新空港建設などの動きが活発化している。

3.大手企業が観光事業に積極参入
 最大の不動産企業であるアヤラランドが、数年前に著名リゾートのエルニドを買収したのをはじめ、SMグループ、AGIグループなど有力財閥が旅行・観光事業に注力している。
 さらに、サンミゲルがフィリピン航空に資本参加し、経営強化を図るとともに、独自の巨大空港建設構想を打ち出している。一方、最大の格安航空セブ・パシフィックなども新規路線に積極就航したり、便数を大幅に増加させたりして、旅行客の利便性を高めている。

4.ブランド・ホテル開業が相次ぐ
 これまで、特に、マカティ市周辺の高級ホテル不足が指摘されていたが、昨年12月に、フェアモント・マカティ(280室)、ラッフルズ・マカティ(32 室)がオープンした。このほか、ボニファシオ・グローバルシティに、シャングリラ・フォートが2014年、グランド・ハイアットが2015年にオープンする予定である。

5,新しいタイプの旅行・観光が出現
既に、注目を集めているメディカル・ツアーやスポーツ・ツアーにくわえ、フィリピンは、語学留学や社内研修地としての人気を集めており、教育ツアーのメッカとなることも期待できる(13年12月5日のフィリピン国家統計調整委員会発表などより)。