フィリピン高成長を牽引する海外からの送金事情
2013/10/11
国家予算に匹敵、国内高失業背景、雇用増急務
日商ウェブサイトに西澤JCCIP事務局長が執筆
日本商工会議所ウエブサイトの10月10日付けのニュースライン海外情報レポートに、「好調なフィリピン経済をけん引する海外出稼ぎ労働者の送金事 情(フィリピン)」という記事が次のように掲載されている。執筆者はフィリピン日本人商工会議所の西澤 正純事務局長である(以下、ほぼ原文のまま)。
『世界の経済情勢が先行き不透明な中で、フィリピン経済がアジアの中で絶好調である。フィリピン国家統計調整局(NEDA)によると、第2四半期のGDP 成長率は中国と並んで7.5%、また、上半期のGDP成長率は7.6%といずれも東南アジアの中で一番良い経済成長率の数字となっている。3年に一度行わ れる上院、下院、州知事等の選挙需要(本年5月に実施)で0.2-0.4ポイント程度成長率が押し上げられたという特殊事情を除いても、非常に好調である ことに違いない。
フィリピンのGDPの7割は消費であるが、この消費を支えるのが海外に約1,000万人いる出稼ぎ労働者からの約214億ドル(2012年)に及ぶ送金で ある。この送金額は銀行送金によるもののみをカウントしており、実際には銀行を通さずに直接本人が帰国して、家族に現金で持参する等々の方法で渡している お金を含めるとこの額の倍近くあると言われている。仮に海外送金の額が公式統計の倍の428億ドル近くあるとすると、フィリピン政府の2013年度予算が 約490億ドルであったので、国家予算にほぼ匹敵するぐらいの規模のお金が毎年、海外からフィリピンに送金されていることになる。
一般にフィリピン人は大家族主義であり、家族思いの人々である。多くの出稼ぎ労働者は海外での生活でできるだけ節制し、家族に少しでも多くの額を送 金できるように努力をしている。しかしながら、送金された側のフィリピンでは扶養家族が多いこともあって、あっという間に食費や教育費などに消えてしま う。これがこの国の消費を活発にさせている大きな要因である。なお、海外への出稼ぎ労働者と聞くと、建設現場の労働者やメイド等の単純労働者をイメージす るかもしれないが、この出稼ぎ労働者の中には医師や看護師、エンジニア、船員、秘書等専門技術を持つ高給取りの職種も含まれている。実際、この214億ド ルのうち半分以上は専門職が比較的多いと思われるアメリカ、カナダで働くフィリピン人からの送金である。
大まかに言って、フィリピンの全労働人口約4,100万人の4分の1は海外で働いているが、この大きな理由の一つには国内に雇用の場がないことが挙 げられる。ここ数年、名目GDPの額は大きく増え、経済成長が持続しているにもかかわらず、失業率は7%前後で高止まりしている。また、失業率7%という 数字はタイの0.7%、ベトナム2.0%、中国4.1%と比べて高い水準にある。加えて、今後の失業率の見通しについても、フィリピンは全人口に占める0 歳から14歳までの若年者人口の割合が35%と、中国19.1%、タイ20.2%などと比べても非常に大きく、労働人口の増加に国内雇用の増加が追いつか ない状態が続くことが見込まれる。
フィリピンに進出している日系企業の半数以上が、大きな雇用の受け皿となる製造業であることから現地でも歓迎されており、フィリピン人の間での日系企業の人気は比較的高い。今後もより一層の日系企業の進出が期待される。』
なお、西澤事務局長は、2011年11月「意外と割安なフィリピンの人件費、質は高い」、2012年5月「イメージほど悪くないフィリピンの治安」、 2012年10月「フィリピンの昨今の台風・水害事情 」、2013年5月「英語国フィリピン、日系企業にはデメリットも」など鋭い視点からの興味深い記事を執筆している(13年10月10日の日本商工会議所 ニュースラインより)。