上半期の経常収支黒字、倍増の56億ドル
2013/09/23
経常黒字対GDP比率4.2%(前年同期2.3%)
OFW送金の威力、貿易赤字をフルカバー
フィリピン中央銀行(BSP)は9月20日、13年第2四半期(13年6月末)及び上半期(1~6月)の国際総合収支を発表した。
フィリピンの貿易収支は慢性的赤字にもかかわらず、赤字額を大幅に上回る海外フィリピン人就労者(OFW)送金により、経常収支は黒字というパターンが定着している。OFW送金の威力による経常収支の黒字継続がフィリピン経済の特色であり、ペソやフィリピン株式市場の相対的パフォーマンスの高さの大きな要因となっている。また、有力格付機関によるフィリピン格付の投資適格への引き上げの大きな要因ともなっている。
[2013年第2四半期の国際総合収支動向]
下表の通り、経常収支の黒字は前年同期比9.1%増の24億8,400万米ドル、対GNI比、対GDP比はそれぞれ3.1%、3.6%であった。対GDP比では前年同期より僅かに縮小したが、依然として高水準の黒字が続いている。サービス収支黒字が44.8%拡大、海外フィリピン人就労者(OFW)送金が同6.3%増の61億7,300万米ドルに達したことで、22億5,500万ペソの貿易赤字を完全にカバーするだけでなく、経常収支の黒字を継続させている。
経常収支の黒字、S&Pやフィッチなど国際格付け機関の信用格付け引き上げが直接投資拡大につながるという好循環などにより、国際総合収支(BOP)の黒字は同14倍の10億4,100万米ドルへと急拡大した。
[2013年上半期の国際総合収支動向]
上半期の経常収支の黒字は前年同期比110.7%増(約2.1倍)の56億2,300万米ドルに達した。対GNI比、対GDP比は3.5%、4.2%でそれぞれ前年同期の1.9%、2.3%から急上昇した。貿易赤字が同30.8%縮小、サービス収支が同12.3%増と拡大。また、海外フィリピン人就労者(OFW)送金が同6.2%増の118億2,200万米ドルに達し、経常収支の黒字が高水準となった。
経常収支の大幅な黒字により、上半期の国際総合収支(BOP)の黒字は前年同期比約倍増の25億7,700万米ドルとなった。国際総合収支拡大などにより、上半期末の外貨準備高(GIR)は前年同期末比6.7%増の813億米ドルに達した。これは輸入の11.8カ月分に相当する水準。
[国際総合収支発表について]
中央銀行は国際収支(BOP)積み上げ方式統計に関して、2003年10月にそれまでの毎月発表から四半期毎の発表へ変更することを決定した。これは、統計内容の確認、モニター、調整を強化し、より精度の高い統計を発表することが目的である。
ただし中央銀行は、毎月、純外貨準備高(NIR)の変動から算出した国際総合収支推計速報値を発表している。ちなみに、最新数値は、9月19日に発表された2013年8月及び年初8カ月間の速報値。それによると、年初8カ月間の黒字は前年同期比10.6%増の20億0,700万ドルであった。しかし、上記のような積み上げ方式の国際総合収支発表は四半期ベースである。
第2四半期及び上半期の国際総合収支内訳(単位:百万米ドル)
項目 | 第2四半期 | 上半期 | ||||
年 | 13年 | 12年 | 伸び率(%) | 13年 | 12年 | 伸び率(%) |
経常収支 | 2484 | 2276 | 9.1 | 5623 | 2669 | 110.7 |
対GNI比(%) | 3.1 | 3.1 | - | 3.5 | 1.9 | - |
対GDP比(%) | 3.6 | 3.7 | - | 4.2 | 2.3 | - |
貿易・サービス・第一次所得収支 | -2493 | -2486 | -0.3% | -3908 | -6399 | 38.9 |
貿易・サービス収支 | -2029 | -2540 | 20.1% | -3284 | -5796 | 43.3 |
対GNI比(%) | -2.5 | -3.4 | - | -2.1 | -4.1 | - |
対GDP比(%) | -3.0 | -4.1 | - | -2.5 | -4.9 | - |
輸出 | 17016 | 16657 | 2.2 | 33328 | 31827 | 4.7 |
輸入 | 19045 | 19197 | -0.8 | 36612 | 37623 | -2.7 |
貿易収支 | -2255 | -2696 | 16.4% | -5178 | -7483 | 30.8 |
サービス収支 | 226 | 156 | 44.8 | 1895 | 1687 | 12.3 |
第一次所得収支 | -465 | 54 | 赤字転落 | -624 | -603 | -3.5 |
第二次所得収支 | 4977 | 4762 | 4.5 | 9531 | 9068 | 5.1 |
資本収支 | 24 | 30 | -20.4 | 46 | 55 | -16.3 |
金融収支 | -127 | 722 | 赤字転落 | -804 | -4099 | 80.4 |
直接投資 | 139 | 80 | 74.0 | -1417 | -818 | -73.2 |
証券投資 | -337 | -363 | 7.2% | -2091 | -1611 | -29.8 |
金融派生商品 | -27 | 2 | 赤字転落 | 23 | -58 | 黒字転換 |
その他投資 | 97 | 1003 | -90.3 | 2681 | -1612 | 黒字転換 |
誤差脱漏(ネットベース) | -1594 | -1511 | -5.5 | -3897 | -5507 | 29.2 |
国際総合収支 | 1041 | 73 | 1325.7 | 2577 | 1316 | 95.8 |
対GNI比(%) | 1.3 | 0.1 | - | 1.6 | 0.9 | - |
対GDP比(%) | 1.5 | 0.1 | - | 1.9 | 1.1 | - |
OFW送金額合計 | 6173 | 5808 | 6.3 | 11822 | 11127 | 6.2 |
うち銀行経由分 | 5588 | 5286 | 5.7 | 10700 | 10128 | 5.6 |
(出所:BSP資料より作成、注:13年は全て速報値)
[対外収支の長期的な動き]
上記のように、フィリピンの貿易収支は慢性的赤字であるものの、経常収支は2003年に黒字転換、その後黒字は拡大を続け、2009年には93億5,800万米ドルという史上最高の黒字を記録、対GNI比は4.2%、対GDP比は5.6%に達した。その後も高水準の黒字を維持している。
一方、国際総合収支は2005年以降黒字が定着、2010年に143億800万米ドル、対GNI比5.4%、対GDP比7.2%という史上最高の黒字を計上した。貿易収支の赤字をOFW送金が完全に埋め切り、経常収支や国際総合収支を黒字に維持するというパターンが定着している。
フィリピン対外収支推移(単位:百万米ドル)
年 | 03年 | 04年 | 05年 | 06年 | 07年 | 08年 | 09年 | 10年 | 11年 | 12年 |
貿易・サービス収支 | -7814 | -7461 | -9113 | -6595 | -6142 | -11725 | -6728 | -8231 | -11492 | -11124 |
対GNI比 | -7.6% | -6.6% | -7.0% | -4.3% | -3.3% | -5.3% | -3.0% | -3.1% | -3.9% | -3.4% |
対GDP比 | -9.3% | -8.2% | -8.8% | -5.4% | -4.1% | -6.8% | -4.0% | -4.1% | -5.1% | -4.4% |
経常収支 | 285 | 1625 | 1980 | 5341 | 7112 | 3627 | 9358 | 8922 | 7125 | 7177 |
対GNI比 | 0.3% | 1.4% | 1.5% | 3.5% | 3.8% | 1.7% | 4.2% | 3.4% | 2.4% | 2.2% |
対GDP比 | 0.3% | 1.8% | 1.9% | 4.4% | 4.8% | 2.1% | 5.6% | 4.5% | 3.2% | 2.9% |
国際総合収支 | 115 | -280 | 2410 | 3769 | 8557 | 89 | 6421 | 14308 | 11400 | 9236 |
対GNI比 | 0.1% | -0.2% | 1.9% | 2.5% | 4.6% | 0.0% | 2.9% | 5.4% | 3.8% | 2.8% |
対GDP比 | 0.1% | -0.3% | 2.3% | 3.1% | 5.7% | 0.1% | 3.8% | 7.2% | 5.1% | 3.7% |
(出所:中央銀行資料より作成 11年は改定値、12年は速報値)