フィリピンの国民食ジョリビー、新たな時代に

2013/08/29

創業者トニー・タン氏、社長とCEO職退任決定
業績は絶好調、国内ではマクドナルドを圧倒

 

 フィリピンでは、ハンバーガーのジョリビーが、国民食とまで称されるほどの圧倒的な支持を得ている。マクドナルドがハンバーガー市場でトップになれない唯一の主要国がフィリピンでもある。

 ジョリビーのフィリピンの外食ハンバーガー市場でのシェアは50%と推定される。2013年6 月末のフィリピン国内店舗数もジョリビーが791店で、フィリピン・マクドナルドの393店の2倍強に達している。
 
 フィリピンにおいて、ジョリビーがマクドナルドを圧倒している理由は、フィリピン人の食習慣や嗜好を的確に把握したメニューを開発、提供していることである。まず、フィリピン人は甘い味付けを好むが、ハンバーガーのドレッシング、スパゲティー類などは、マクドナルドよりかなり甘い。外国人には甘すぎる味付けと感じられるが、フィリピン人には、基本的には、味や規格が世界標準で統一されたマクドナルドのメニューよりは遥かに好まれていると思われる。マクドナルドも、一部ローカル好みのメニユーを取り入れるようになってはいるが、フィリピンの大衆を虜にするには至っていない。
 
 また、フィリピン人はコメが大好きで三食ともに米食というパターンが多い。また、ファースト・フードレストランといえども、スナックではなく本格的な食事を好む消費者が多い。そこで、ジョリビーはライス付きの割安なセットメニューを数多く用意し、コメ好きのフィリピン人の心をしっかり捉えている。
例えば、チキンジョイというフライド・チキン1本、ライス、グレービーソースのセットは69ペソ(約155円)、ドリンク付きで79ペソという価格で提供されている。フライド・チキン2本のセットは120ペソ、ドリンク付きで130ペソである。

 このほか、ライスと、バーガーステーキ、ミルクフィッシュのグリル、ポークのグリル、揚げ春巻きなどとの割安セットが豊富に用意されている。最近、導入されたクリスピー・ポークステーキ(豚カツ)とライスのセットは39ペソ(約88円)、ドリンク付きでも49ペソで提供されている。

 もちろん、看板商品の各種ハンバーガー類のほか、スパゲティー、ホットドッグやそのセットメニュー、ソフトクリーム、サンデー、フロートなどのデザート類も豊富である。バニラ・ソフトクリームは10ペソ(約22円)という安さである。
 
 食の基本である味付けでは、フィリピン人の嗜好を徹底的に重視する一方で、セントラル・キッチンの高度活用、店舗スタッフの作業や顧客対応などは米国方式のマニュアルに沿うなど効率性を追求していることもジョリビーの強かさであるといえよう。
 さらに、子供達の誕生パーティーなどイベント会場を提供、宅配、海外フィリピン人就労者(OFW)から留守宅や知人・友人へのプレゼント宅配、グループ内異業種チェーンとのシナジー効果最大化、海外展開拡充、蜜蜂を模したマスコットフル活用などのマーケティング戦略強化に余念がないことも成功につながっている。

 ジョリビーはフィリピン最大のファストフード企業ジョリビー・フーズ(JFC)によって運営されている。JFCは現会長兼社長兼CEOであるトニー・タン・カクティオン氏(トニー・タン氏)がアイスクリーム販売で起業、1978年1月にJFCを創設、一代でJFCをフィリピン最大のファーストフード・チェーンに育て上げた。そして、1993年7月には取引所へ上場させるに至った。

 トニー・タン氏は、2004年のフィリピン初代年間最優秀起業家(アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー)に選出された。そして、2004年5月のモナコ・モンテカルロでの世界アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー(EOY)大会において2004年の世界アントレプレナー・オブ・ザ・イヤーに選出されたという経緯がある。

 このように、国内ではマクドナルドを圧倒し海外展開も成功させているJFCの会長兼社長兼CEOであるトニー・タン氏(60歳)は、フィリピンを代表する起業家という評価のみならず、フィリピンを代表する優秀な経営者の一人として評価されるに至っている。

 さる8月6日のJFC取締役会において、このトニー・タン氏が、来年6月30日付けで社長とCEO職から退くことが決定された。トニー・タン氏は来年7月以降も会長職にはとどまるが、新社長兼CEOとして、エメスト・タンマンティオン氏(55歳)が選出された。タンマンティオン氏は、1978年、JFCのストア・マネージャーとして入社、その後、JFCの多くのブランドを育て上げ、ついにCEOに上りつめることになった。

 JFCを起業し、会長兼社長兼CEOとして君臨、強力なリーダーシップでJFCを率いてきたトニー・タン氏が経営の最前線から身を引く時期を迎えつつあるといえる。それとともに、JFCも新たな時代の幕開けを迎えつつあるといえる(ジョリビー・フーズの第2四半期報告書などより)。