日本企業、フィリピン版SUICAプロジェクトに関心

2013/02/04

JICAが比鉄道料金自動・共通課金システム説明会
フィリピン運輸インフラ整備参入の足掛かりを提供
 

 昨年12月、アキノ政権下での6件目の官民連携(PPP)プロジェクトとなる鉄道料金自動徴収・共通課金システム(AFCS)プロジェクト入札手続きが開始された。


 フィリピン運輸通信省と官民連携(PPP)センターは、12月18日、AFCS導入のための入札事前会議を開催した。AFCSは、SUICAやPASMOに代表される非接触型のICカードによる課金システムであり、鉄道乗車券の非接触型のスマートカード・タイプへの切り替え、それによる乗車券共通化、自動徴収化を実現、鉄道料金徴収の効率化、徴収漏れ防止、利用者の利便性向上を図ろうというものである。

 当初は、首都圏軽鉄道であるLRT1号線と2号線、及びMRT3号線の乗車券共通化を図る。この3路線乗車券共通化プロジェクトの総事業費は17億2,000万ペソと想定されている。現在、LRT1号線と2号線、MRT3号線の1日当たりの利用者は百万人以上に達しており、この3路線の乗車券共通化だけで、便益性、効率性が大幅に向上する。将来的には、MRT、LRT全線のみならず、国鉄(PNR)、バス、有料道路等との共通化を目指すとのことである。

JICAは1月10日、駐日フィリピン大使館の協力を得て、東京都内でフィリピンの鉄道共通課金システムに関する説明会を開催した。上記のように、フィリピン政府はこのシステムの導入を「PPPスキーム」で進めており、フィリピン運輸通信省の高官が訪日、入札準備の概要を説明した。

 このシステムに使用される非接触型ICカードは、世界的にも日本が強みを持つ技術である。電子マネーや商業施設などへの展開も見込めることから、日本企業の関心は高く、商社、メーカーを中心に約30人が参加した。

世界経済の先行きが不透明な中で、ASEAN諸国は比較的好調な経済成長を維持している。その中でもフィリピンは2012年7~9月期の国内総生産(GDP)成長率が7.1パーセントと高い伸び率を記録。株価も史上最高値更新が続き、日本企業による新規・追加投資の決定も相次いでいる。

 一方でフィリピン政府は厳しい財政制約から、鉄道や道路などの膨大なインフラニーズに対して、整備が十分になされていない。2010年に発足したアキノ政権は、その対応として、PPPを活用したインフラ整備を最重点政策として掲げる。2013年1月現在、PPPスキームの入札を経て事業者が決定した案件は、高速道路事業と学校校舎建設事業の2件のみだが、引き続き大統領のリーダーシップの下、PPPでのインフラ整備が加速している。

 マニラ首都圏では、人口増加による深刻な交通渋滞に対応するため、大量公共交通機関の整備が課題だ。現在、都市高架鉄道LRT1号線、LRT2号線、MRT3号線の3路線が運行されているが、相互に乗り入れていないため利便性に欠け、ネットワーク性の向上が必要とされている。

 同じASEANのタイでは、地下鉄を含む都市鉄道の整備により交通渋滞が緩和され、都市環境が改善されている。フィリピン政府もこれを喫緊の課題としてとらえ、3路線に共通の自動課金システムを導入するため、PPPスキームでの入札の準備を進めている状況である。

 JICAは2011年から、マニラ首都圏内の都市鉄道の在り方などを議論・提案する調査を実施しており、その一環で課金システムの整備についてもフィリピン政府と協議してきた。事業を進めるに当たって、広く民間事業者の提案を募りたいというフィリピン政府の意向から、今回の説明会を開催した。

 説明会では、運輸通信省のレネ・リムカオコ次官が、課金システム整備に関するPPPスキームの入札(事前資格審査)の概要を説明した。参加企業から手続きの詳細など具体的な質問が多数上がると、リムカオコ次官はPPPセンターのコゼット・カニラオ所長も交えて丁寧に回答した。

 「フィリピン政府は、引き続きPPPによるインフラ整備を積極的に推進していく方針であり、今後、日本企業の積極的な参加を期待している」と、リムカオコ次官は説明会を締めくくった。参加企業からは「フィリピン政府当局者から、直接説明を受けることができ、非常に良い機会だった」といった声が寄せられた。

 JICAの資金協力などを通じて、日本企業はフィリピンの都市高架鉄道の建設や維持管理に1990年代から携わっており、その経験と技術に対する信頼は厚い。JICAはフィリピン政府の開発計画を踏まえ、資金協力と技術協力を組み合わせ、包括的に支援している。今回の説明会は都市鉄道に関する調査という技術協力を通じて、フィリピン政府の問題意識と日本企業を結びつける機会となった。JICAは今後も同様の機会を提供していく方針である(13年2月1日のJICAトピックスなどより)。