9カ月間の経常収支黒字、40%増の72億ドル
2012/12/23
貿易赤字額の倍以上のOFW送金の威力
経常黒字対GDP比率は4.0%(前年同期3.2%)
フィリピン中央銀行(BSP)は12月21日に、12年第3四半期(12年9月末)及び年初9カ月間(12年1月~9月)の国際総合収支を発表した。
フィリピンの貿易収支は慢性的赤字にもかかわらず、赤字額を大幅に上回る海外フィリピン人就労者(OFW)送金により、経常収支は黒字というパターンが定着している。OFW送金の威力による経常収支の黒字継続がフィリピン経済の特色であり、ペソ高、株式市場の高パフォーマンスの大きな要因となっている。
[2012年第3四半期の国際総合収支動向]
下表の通り、経常収支の黒字は前年同期比33.6%増の30億7,900万米ドル、対GNI比、対GDP比はそれぞれ3.8%、5.0%へと上昇した。海外フィリピン人就労者(OFW)送金が同6.3%増の56億3,300万米ドルに達し、貿易赤字の14億3,500万米ドル(物資とサービスの合計:以下同様)の3.9倍に達したことなどで、経常収支黒字が一段と拡大した。。
ただし、国際総合収支の黒字は同4%減の45億2,600万米ドルにとどまった。これは、資本金融収支の黒字が同21%減少したことによる。もっとも、依然として高水準の黒字であり、2012年通年ベースでも大幅黒字が維持される見込みである。
[2012年年初9カ月間の動向]
年初9カ月間の経常収支の黒字は前年同期比40%増の71億5,600万米ドルへと大幅増加した。経常収支黒字の対GNI比、GDP比は3.0%、4.0%で各々前年同期の2.4%、3.2%から上昇した。
貿易赤字が同26.6%減の60億9,300万米ドルに縮小する一方、OFW送金が同5.5%増の161億1,600万米ドルに増加したことで、経常収支黒字が一段と拡大した。9カ月間でも、OFW送金額が貿易赤字の2.6倍に達しており、OFW送金の威力の大きさを物語っている。
資本金融収支の黒字が同93.6%減と急減したことで、9カ月間の国際総合収支の黒字は同40%減の58億3,100万米ドルへと減少した。対GNI比、対GDP比は2.5%、3.3%で各々前年同期の4.5%、6.0%を下回った。
[国際総合収支発表について]
中央銀行は国際収支(BOP)積み上げ方式統計に関して、2003年10月にそれまでの毎月発表から四半期毎の発表へ変更することを決定した。これは、統計内容の確認、モニター、調整を強化し、より精度の高い統計を発表することが目的である。
ただし中央銀行は、毎月、純外貨準備高(NIR)の変動から算出した国際総合収支推計速報値を発表している。ちなみに、最新数値は、12月19日に発表された2012年11月分速報値。それによると、2012年年初11カ月間の黒字は前年同期比16.5%減の85億9,600万ドルであった。しかし、上記のような積み上げ方式の国際総合収支発表は四半期に1回のみである。
2012年第3四半期及び年初9カ月間の国際総合収支内訳(単位:百万米ドル)
項目 | 第3四半期 | 12年1~9月 | ||||
年 | 12年 | 11年 | 伸び率(%) | 12年 | 11年 | 伸び率(%) |
経常収支 | 3079 | 2304 | 33.6 | 7156 | 5112 | 40.0 |
対GNI比(%) | 3.8 | 3.2 | - | 3.0 | 2.4 | - |
対GDP比(%) | 5.0 | 4.2 | - | 4.0 | 3.2 | - |
物資・サービス貿易収支 | -1435 | -2421 | 赤字40.7%縮小 | -6093 | -8304 | 赤字26.6%縮小 |
対GNI比(%) | -1.8 | -3.3 | - | -2.6 | -3.8 | - |
対GDP比(%) | -2.4 | -4.4 | - | -3.4 | -5.1 | - |
輸出 | 17832 | 16451 | 8.4 | 52705 | 48115 | 9.5 |
輸入 | 19267 | 18872 | 2.1 | 58798 | 56419 | 4.2 |
物資貿易収支 | -2619 | -3629 | 赤字27.8%縮小 | -9058 | -10912 | 赤字17.0%縮小 |
サービス貿易収支 | 1184 | 1208 | -2.0 | 2965 | 2608 | 13.7 |
OFW送金額合計 | 5633 | 5300 | 6.3 | 16116 | 15273 | 5.5 |
うち銀行経由分 | 5444 | 5121 | 6.3 | 15572 | 14757 | 5.5 |
資本金融収支 | 1962 | 2483 | -21.0 | 395 | 6209 | -93.6 |
資本収支 | 30 | 53 | -43.4 | 94 | 120 | -21.7 |
金融収支 | 1932 | 2430 | -20.5 | 301 | 6089 | -95.1 |
誤差脱漏(ネットベース) | -526 | -82 | - | -1720 | -1600 | - |
国際総合収支 | 4515 | 4705 | -4.0 | 5831 | 9721 | -40.0 |
対GNI比(%) | 5.6 | 6.5 | - | 2.5 | 4.5 | - |
対GDP比(%) | 7.4 | 8.6 | - | 3.3 | 6.0 | - |
(出所:BSP資料より作成、注:12年第3四半期は全て速報値)
[対外収支の長期的な動き]
上記のように、フィリピンの貿易収支は慢性的赤字であるものの、経常収支は2003年に黒字転換、その後黒字は拡大を続け、2009年には93億5,800万米ドルという史上最高の黒字を記録、対GNI比は4.2%、対GDP比は5.6%に達した。その後も高水準の黒字を維持している。
一方、国際総合収支は2005年以降黒字が定着、2010年に143億800万米ドル、対GNI比5.4%、対GDP比7.2%という史上最高の黒字を計上した。貿易収支の赤字をOFW送金が完全に埋め切り、経常収支や国際総合収支を黒字に維持するというパターンが定着している。
フィリピン対外収支推移(単位:百万米ドル)
年 |
03年 |
04年 |
05年 |
06年 |
07年 |
08年 |
09年 |
10年 |
11年 |
12年9カ月 |
貿易収支 |
-7814 |
-7461 |
-9113 |
-6595 |
-6142 |
-11725 |
-6728 |
-8231 |
-11947 |
-6093 |
対GNI比 |
-7.6% |
-6.6% |
-7.0% |
-4.3% |
-3.3% |
-5.3% |
-3.0% |
-3.1% |
-4.0% |
-2.6% |
対GDP比 |
-9.3% |
-8.2% |
-8.8% |
-5.4% |
-4.1% |
-6.8% |
-4.0% |
-4.1% |
-5.3% |
-3.4% |
経常収支 |
285 |
1625 |
1980 |
5341 |
7112 |
3627 |
9358 |
8922 |
6988 |
7156 |
対GNI比 |
0.3% |
1.4% |
1.5% |
3.5% |
3.8% |
1.7% |
4.2% |
3.4% |
2.4% |
3.0% |
対GDP比 |
0.3% |
1.8% |
1.9% |
4.4% |
4.8% |
2.1% |
5.6% |
4.5% |
3.4% |
4.0% |
国際総合収支 |
115 |
-280 |
2410 |
3769 |
8557 |
89 |
6421 |
14308 |
10179 |
5831 |
対GNI比 |
0.1% |
-0.2% |
1.9% |
2.5% |
4.6% |
0.0% |
2.9% |
5.4% |
3.4% |
2.5% |
対GDP比 |
0.1% |
-0.3% |
2.3% |
3.1% |
5.7% |
0.1% |
3.8% |
7.2% |
4.5% |
3.3% |