日系企業が急ピッチでフィリピンへ進出
2012/12/20
依然周辺国に遅れ、一段の誘致努力が不可欠
最近は円高、電力不足などの問題を抱える日系企業の海外進出の動きが一段と活発化している。そのような状況の中、ASEAN第2位の人口有するフィリピンが、英語力・コミュニケーション力の高さ、豊富な労働力、距離的な近さ、意外と打たれ強い経済構造、中国一極集中リスクなどの観点から、進出候補地の1つとして注目を集めるようになっている。
そして実際に、2011年頃から新規進出、新規進出決定例が大幅増加している。フィリピン進出日系企業数も2010年に1千社の大台を突破、2011年10月1日現在で1,171社に達し、その後も増加傾向を辿っている。
製造業では、キャノン、ブラザーがプリンター・複合機及びその部品製造でバタンガス州に進出。既に、進出しているエプソンも生産能力を大幅増強したことから、バタンガス州が日系プリンターの一大拠点となりつつある。また、有力部品メーカーの村田製作所も進出したことから、エレクトロニクス製品の技術集積が進むと期待される。
一方、バンダイのフィギュア、カプセル玩具、セメダインの接着剤、ライオンの歯磨きなど多様な非エレクトロニクス製品の生産開始も決定された。ライオンは、合弁相手の現地企業のネットワーク活用で現地向け販売を目指しており、旺盛なフィリピン内需を狙うタイプの進出と言える。
さらに、ユニクロ、ファミリーマートという大手小売企業が、現地のトップ企業と合弁で、それぞれの事業を本格展開しようとしている。単なるフランチャイズ展開ではなく、かなりの出資を行っており、本気で旺盛なフィリピンの内需を活用しようとしている。フランチャイズ展開ではあるが、和民や洋麺屋五右衛門などのレストラン事業進出も目立つ。
フィリピン進出企業は増加しているが、インフラ整備の遅れ、電力料金が高いこと(アジアで最高水準)、政策の一貫性への懸念、治安が非常に悪いというイメージなどにより、結局はフィリピンへの進出を見合わせ、他国を選択するというケースも少なくない。したがって、アジア地域における国別の日系企業数で、フィリピンのシェアは2%台にとどまっているし、インドネシア、タイ、ベトナムにとって替るという状況には程遠い。
BRICsとして注目されてきたブラジル、インド、中国の成長率の鈍化、労働力不足で最低賃金急上昇のタイ、賃上げストライキの頻発するインドネシア、ファンダメンタルズ悪化や工業用地不足という問題をかかえるベトナムなど、ライバル国ではこれまでの急成長の歪が顕在化してきている。
それにくらべ、フィリピンは労働争議がほとんどなくなり(昨年のストライキ実施は一件のみ)、過去10年間の平均値案上げ率が約5%(BOI調べ)、豊富な労働力、便利でコストの安い工業団地が用意されている等、多くの優位性があり、外資誘致の千載一偶のチャンスである。しかし、外資直接投資額は上記のライバル国に比べ非常に低水準である。
12月7日に発表された毎年恒例の国際協力銀行(JBIC)の 「日本製造業企業の海外事業展開動向」レポートにおける中期的有望事業展開先国調査において、下記のように、インドネシア、ベトナム、タイ等が上位を占めるなか、フィリピンは2001年度にベストテン入りを逃して以来、低い評価のままである。中国やタイへの過度の投資集中による弊害などもあって、フィリピンが投資対象国として見直されている現在、フィリピンは投資誘致の障害除去や実体以上に悪いイメージの改善などに全力で取り組み、フィリピン進出の流れを一過性のものにしないようにすべきであろう。
日本製造業企業の中期的有望事業展開先国・地域の推移(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
中期的(今後3年程度) | |||||
調査年度 | 09年度 | 2010年度 | 2011年度 | 2012年度 | |
総回答社数 | 480社 | 516社 | 507社 | 514社 | 得票率 |
1位(票数) | 中国(353社) | 中国(399社) | 中国(369社) | 中国(319社) | 62.1% |
2位 | インド(278社) | インド(312社) | インド(297社) | インド(290社) | 56.4% |
3位 | ベトナム(149社) | ベトナム(166社) | タイ(165社) | インドネシア(215社) | 41.8% |
4位 | タイ(110社) | タイ(135社) | ベトナム(159社) | タイ(165社) | 32.1% |
5位 | ロシア(103社) | ブラジル(127社) | インドネシア(145社) ブラジル(145社) |
ベトナム(163社) | 31.7% |
6位 | ブラジル(95社) | インドネシア(107社) | ブラジル(132社) | 25.7% | |
7位 | 米国(65社) | ロシア(75社) | ロシア(63社) | メキシコ(72社) | 14.0% |
8位 | インドネシア(52社) | 米国(58社) | 米国(50社) | ロシア(64社) | 12.5% |
9位 | 韓国(31社) | 韓国(30社) | マレーシア(39社) | 米国(53社) | 10.3% |
10位 | マレーシア(26社) | マレーシア(26社) 台湾(26社) |
台湾(35社) | ミャンマー(51社) | 9.9% |
フィリピン順位 | 13位(14社) | 14位(14社) | 14位(15社) | 15位(21社) | 4.1% |
日本製造業企業の長期的有望事業展開先国・地域の推移・詳細(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
長期的(今後10年程度) | |||||
調査年度 | 09年度 | 2010年度 | 2011年度 | 2012年度 | |
総回答社数 | 404社 | 438社 | 420社 | 387社 | 得票率 |
1位(票数) | 中国(284社) | インド(328社) | インド(333社) | インド(251社) | 64.9% |
2位 | インド(274社) | 中国(314社) | 中国(299社) | 中国(218社) | 56.3% |
3位 | ロシア(135社) | ブラジル(151社) | ブラジル(196社) | インドネシア(149社) | 38.5% |
4位 | ブラジル(133社) | ベトナム(134社) | インドネシア(147社) | ブラジル(140社) | 36.2% |
5位 | ベトナム(97社) | ロシア(108社) | ベトナム(146社) | ベトナム(110社) | 28.4% |
6位 | タイ(60社) | インドネシア(83社) | タイ(114社) | タイ(103社) | 26.6% |
7位 | インドネシア(54社) | タイ(84社) | ロシア(95社) | ロシア(78社) | 20.2% |
8位 | 米国(48社) | 米国(38社) | 米国(36社) | ミャンマー(65社) | 16.8% |
9位 | 南アフリカ(19社) | マレーシア(20社) | メキシコ(25社) | メキシコ(46社) | 11.9% |
10位 | マレーシア(18社) メキシコ(18社) |
台湾(18社) | マレーシア(21社) | 米国(34社) | 8.8% |
フィリピン順位 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 記載なし | N.A. |