在フィリピン日系製造業の賃上げ率は5%台
2012/12/18
ベトナムやインドネシアでは約20%の急騰
営業黒字企業比率71.9%(前年63.5%)
ジェトロが在アジア日系企業調査発表
日本貿易振興機構(ジェトロ)は、2012年10月~11月に、北東アジア5カ国・地域、ASEAN9カ国、南西アジア4カ国、オセアニア2カ国の計20カ国・地域に進出する日系企業に対し、現地での活動実態に関するアンケート調査を実施した。
ジェトロは12月18日にその結果を「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」として発表した。有効回答は3,819社(有効回答率47.1%)。フィリピン進出日系企業の有効回答は115社(有効回答比率54.0%)。調査結果のポイント・要旨、及びフィリピン進出日系企業動向は以下の通り。
1.業績動向
(1)全体では黒字見込み企業減少、フィリピンでは黒字見込みが71.9%へ上昇
2012年の営業利益(見込み)を「黒字」とした企業の割合は全体で63.9%で、前年調査から3.9ポイント減少。 「赤字」とした企業の割合は19.8%で、前年から5.6ポイント増加した。
フィリピン進出日系企業の2012年営業利益黒字予想比率は71.9%(前年63.5%)、赤字予想が13.2%(前年14.3%)、収支均衡予想が14.9%(前年22.2%)であった。ASEAN5カ国中で、黒字企業の割合が前年を上回ったのはフィリピンのみであった。
(2)2013年の営業利益は新興国を中心に力強く改善
2013年の見通しについては、全体では「改善」するとした企業の割合が46.8%に達する一方、 「悪化」は12年見込みから半減し、14.7%となった。改善の理由は「現地市場での売上増加」が最大。とりわけバングラデシュ、カンボジア、インド、ラオスなどの新興国で力強い改善が見込まれている。
フィリピン進出日系企業の2013年営業利益の前年比改善予想比率は42.0%、悪化予想比率は13.4%、横這い予想比率が44.6%となっている。
2.事業戦略の方向性
(1)事業拡大意向企業57.8%、フィリピンでは48.2%、中国では拡大意向が2ケタ減少
今後1~2年の事業展開の方向性を「拡大」と回答した企業の割合は全体で57.8%と、前年(63.6%)から5.8ポイント減少。中国では、「拡大」の割合が前年比14.5ポイント減の52.3%と、国・地域別で最大の減少幅となった。タイ、マレーシア、シンガポールなどのASEAN主要国でも、同割合は前年から減少した。他方、インド、インドネシアに加え、ラオス、バングラデシュ、カンボジア、ミャンマーなどの新興国において事業拡大志向が強く示された。
フィリピン進出日系企業に関しては、拡大意向比率が48.2%で前年の43%から上昇した。現状維持意向比率が50%(前年49.6%)、縮小意向比率が1.8%(前年5.0%)であった。
(2)販売先のターゲットは地場企業へ
今後の販路開拓では、インドや韓国、インドネシア、中国などを中心に、現地市場を輸出市場よりも優先する傾向が強い。現地市場でのターゲットは、進出日系企業から地場企業、外資系企業へシフト。
フィリピン進出日系企業に関しては、現地市場開拓を優先するとの比率が29.8%、輸出と同じ優先度比率が24.6%、輸出優先比率が21.9%、現地市場に関心なしの比率が20.2%であった。現地市場開拓におけるターゲット層(複数回答)は、現地日系企業向けが87%、地場企業向けが42.6%、地場外資系企業向けが25.9%。現地消費者向け販売におけるターゲット層(複数回答)は富裕層66.7%、ニューリッチ・中間層が77.8%、低所得層が27.8%であった。
3.経営課題と対応策
(1)最大の経営課題は人材とコスト、フィリピンでは原材料・部品の現地調達の難しさ
経営上の最大の問題は「従業員の賃金上昇」。賃金上昇を問題点として挙げる企業は、中国、インドネシア、ベトナム、ミャンマーで8割以上、全体でも71%に達している。その他の問題点では、「競合相手の台頭(コスト面で競合)」(回答率53%)、「現地人材の能力・意識」(同49.6%)、「調達コストの上昇」(同46.9%)、「従業員の質」(同45.6%)などが上位に挙がっており、進出企業にとっての経営課題は、コスト面と人材面に集約される。
フィリピン進出日系企業で回答率が高かったのは、原材料・部品の現地調達の難しさ(回答率67.7%)、現地人材の能力・意識(59.5%)、賃金上昇(48.4%)、競合相手の台頭(47.8%)、賃金上昇(47.8%)、従業員の質(47.8%)など。
(2)ベトナム、中国、インド、インドネシア、タイの賃金上昇率2ケタに、フィリピン5%台
ここ数年、10%を超えるペースでの賃金上昇が続くベトナム(2012年度19.7%)、中国(同11.0%)、インド(同12.4%)に加え、インドネシア(同14.7%)やタイ(10.9%)など10カ国・地域で、2012年度の賃金ベースアップ率(前年度比、平均)が2ケタを記録した。
2013年度についても、インドネシアやベトナムの製造業で20%前後の上昇が見込まれるなど、各国・地域の最低賃金引き上げなどを背景とする賃金上昇圧力は当面弱まる気配なし。
フィリピン進出日系企業での賃金上昇率は2012年が5.9%、2013年見込みが5.2%と比較的穏やかである。製造業が12年5.5%、13年見込み5.0%、非製造業が12年6.6%、13年見込み5.5%にとどまっている。基本月給も、製造業ワーカーの場合253米ドルで、タイの345米ドル、中国の328米ドル、インドの290米ドルなどをかなり下回っている。
(3)部材の現地調達化によるコスト削減を推進
製造コストに占める材料費の比率は全体で平均63.3%、人件費の比率は平均17.2%と、材料費はコストの大半を占める。コスト削減を目的とする部材の現地調達化は中国や台湾、タイなどを中心に進展。今後、「現地調達率を引き上げる」との方針を示した企業の割合は全体で75%を超えた。また、現地調達率を引き上げる上では、調達先として進出日系企業よりも地場企業が重視されている。
(4)FTA活用比率40.3%、フィリピン進出日系企業は29.6%
貿易を行っている企業のうちFTA/EPAを活用との回答比率は、全体では40.3%であった。特にASEAN進出企業に多い。ASEAN国別では、インドネシア(58.5%)、ラオス(54.5%)、タイ(50.1%)、シンガポール(48.2%)、マレーシア(42.0%)、ベトナム(33.5%)、フィリピン(29.6%)、カンボジア(27.3%)という順位なっている。
フィリピン進出日系企業のFTA/EPA利用は、輸出に関しては、対ASEANが11社(利用率33.3%)、対日本が7社(同12.3%)。輸入に関しては、対ASEANが13社(同36.1%)、対日本が15社(同25.4%)、対中国が6社(同23.1%)となっている(12年12月18日の日本貿易振興機構発表より)