フィリピンからのチクングニア熱輸入症例、千葉県で

2012/08/22

 日本の国立感染症研究所(NIID)は8月21日に、フィリピンから帰国後に発症し確認されたチクングニア熱輸入症例(千葉県で発生)を報告した。その概要は以下の通りである。



1.症例および疫学調査
患者は47歳の日本人男性、千葉県内の市川保健所管内在住。7月12日に、フィリピン・マニラへ出国し、14日にセブ島、15~20日までシャルガオ島周辺を観光していた。21日に再びマニラに戻り、23日からマニラから約30km北部の町に滞在し、29日に帰国した。23日から訪れた町では民家に宿泊した。この家には発熱と発疹の症状を示す患者がいたが、この患者は現地医療機関でデング熱を否定されていた。帰国後2日間は、特に症状もなく通常どおり勤務したが、8月1日より体調不良となり、市内の診療所を受診した。患者は、デング熱が疑われたため、対応可能な順天堂大学医学部付属浦安病院を紹介され、翌2日に同病院を受診した。

2.臨床症状および経過
 受診時の主訴は、38.8℃の発熱、発疹(体幹から四肢にかけて融合傾向のある斑状の丘疹)、頭痛、関節痛、筋肉痛が認められた。血液培養は陰性、胸部レントゲンにも異常はみられなかった。本人が、入院加療を希望せず、点滴と解熱剤の内服、自宅安静で経過観察を行った。
 8月7日の再受診時、解熱剤を使用しなくても発熱の改善を認め、発疹も体幹は改善し、四肢に斑状の丘疹の残存を認める程度だった翌8日の再診時にはさらに症状の改善がみられた。

3.ウイルス学的検査
 8月2日に採取された血液について、渡航先等の疫学情報を考え合わせてデング熱およびチクングニア熱の検査を実施した。各種デング熱検査は陰性であった。一方、チクングニアウイルス特異的プライマーを用いたRT-PCR(チクングニアウイルス検査マニュアル)により目的とするバンドが検出され、ダイレクトシークエンスの結果、チクングニアウイルス遺伝子であることが確認された。

4.考察
 チクングニア熱とデング熱は、臨床症状や流行地域などで類似点が多い。そのため、臨床症状のみからの鑑別は非常に困難である。加えて、ウエストナイル熱や、麻疹、風疹等の発疹を呈するウイルスによる感染症との鑑別も必要で、受診時の問診、疫学調査が非常に重要である。本症例では、医療機関の詳細な問診、保健所の迅速な疫学調査と検体搬入により、的確な検査対応をとることができた。

 患者のチクングニアウイルスの感染は、疫学情報から発症日が8月1日であることと、チクングニア熱の一般的潜伏期間(3~7日)から7月25~29日の間で、この間に滞在したマニラ北部の町であったと推定される。患者の申告から、民家に宿泊し、蚊に刺されたことがわかっている。さらに、医療機関でデング熱は否定されているが、自らと同様の症状を示す患者と生活をともにしていた。本症例のような感染者を出さないために、渡航者に対し、行政側が渡航先の感染症情報や対応策を積極的かつ分りやすく提供することの必要性があらためて示された事例であった。

 チクングニア熱は、ネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介される感染症で、ウイルスはヒト-蚊-ヒトの感染環を形成する。日本国内において、ヒトスジシマカは屋外の蚊として最も一般的な蚊であり、活動期は5~10月頃、特に7~9月に多く発生する。この時期は夏季休暇とも重なり、海外からの帰国者が多く、ウイルスの国外からの持ち込み例も増加する。以上から、帰国した患者を吸血した蚊が媒介することで、感染環が成立し、国内流行を起こす可能性が高まることが懸念される。一方、沖縄以南では冬でもヒトスジシマカ成虫が発生することから、年間を通して注意を払う必要がある(12年8月21日の国立感染症研究所速報より)。