見かけより割安なフィリピン人件費、賃上げ率も緩やか

2012/05/20

マニラの最低賃金10ドル超、単純比較では高水準
バンコク9.6ドル、ジャカルタ5.5ドル、ベトナム3.2ドル

 別項の通り、マニラ首都圏の1日当たり最低賃金が、2段階方式で30ペソ引き上げられる。

 

 首都圏の非農業セクター労働者の一般的同最低賃金は間もなく現行の426ペソからと446ペソへと引き上げられる。そして、今年11月からは456ペソへと引き上げられる。合計の引き上げ率は7%となる。農業セクターや零細企業などの同最低賃金も間もなく389ペソから409ペソへ、11月からは419ペソへと、合計7.7%引き上げられることになる。


 フィリピン労働雇用省傘下の国家賃金・生産性委員会によるアジア各国賃金比較(2012年4月30日現在)によると、現行のマニラ首都圏の一日当り最低賃金389~426ペソを米ドル換算(1米ドル=約42.34ペソ、以下同様)すると、下表のように9.19~10.06米ドル。新最低賃金(11月からのフル改定ベース)419~456ペソは9.89~10.77米ドルとなる。

 マニラ首都圏の現行10.06米ドル(上限、以下同様)は、バンコクの9.60米ドル、ジャカルタの5.544米ドル、北京の7.89米ドル、ベトナムの3.17米ドル、カンボジアの2.03米ドルなどを上回っている。ASEAN諸国で、マニラを上回っているのはシンガポールとマレーシアのみ。
 これまでも指摘されているように、周辺国との単純比較ではマニラ首都圏の法定最低賃金は非常に高水準であるし、11月のフル改定で9.89~10.77米ドルとなり割高感が強まることになる。

 しかし、フィリピンの実質雇用コストは見かけほど高くないし、質の高い労働力が豊富に確保できるという見方が支配的である。フィリピン日本人商工会議所事務局は以下のような見解を表明している。

<意外と割安なフィリピンの人件費>
 ASEAN各国を比較すると、最初に進出候補地にあがるタイやベトナムは、労働力の需給がひっ迫しており、賃金が上昇するなど、労働者の確保が難しくなっている。フィリピンの場合、法定最低賃金は他のASEAN各国と比べて高いが、他のASEAN各国に進出した企業が最低賃金で雇えているかと言うと必ずしもそうではない。これに対して、フィリピンの一般労働者は、最低賃金で確保することができることから、他のASEAN各国と月額賃金を比べてみても割安である。

<フィリピン労働者の3つのメリット>
 フィリピン労働者のメリットは、①労働力が確保しやすい、②英語でのコミュニケーションが可能、③労働者がマネジメントしやすい、といった3点が挙げられる。
①現在、フィリピンの人口は約9,600万人超で、ASEANではインドネシアに次いで2番目の規模である。また、失業率は7%程度であり、毎年100万人以上の新卒者が輩出されるのに対して、職はほとんどないのが実情である。加えて、15歳以下の若年人口が約4割を占めるため、今後、フィリピンでオペレーションを継続していくうえで、労働力供給のソースを不安視する必要はないと言えよう。現地で長年事業を営む経営者に話を聞くと、「とにかく若い人材が豊富に採用できるのが魅力」という。

②英語でコミュニケーションが可能というのも特筆すべき点である。フィリピンは世界で3番目に英語を話す人口が多い国である。最近、人件費の安さに目をつけて、コールセンターなどの事業をフィリピンで展開する欧米系の企業なども増えている。他のASEAN各国とは違い、一般労働者のレベルまで英語でコミュニケーションが図れることも、グローバルに展開する企業にはまたとない魅力となっている。
 
③労働者のマネジメントのしやすさについては、フィリピンに進出した企業のみが実感している大きなメリットである。
 フィリピンは、親日国であり対日感情も良好なことから、フィリピンの労働者は、日本人の経営者・駐在員にとっては非常にマネジメントしやすい。加えて、明るくホスピタリティあふれる国民性、仕事上、ボスの言うことにも忠実な点など、進出している企業の日本人経営者・駐在員の評価も高い。ストライキなどの件数も、以前と比べてかなり減ってきており、組合問題も下火となっている。

 下表のように、4月30日現在の米ドル換算の最低賃金は、ベトナム、北京、ジャカルタ、バンコクなどでは前年同日比40%以上急騰(ドル換算平均値を単純比較)しているが、マニラ首都圏は7.4%の上昇に過ぎない。そして、最低賃金でどのくらいの雇用が可能か、社会保障など法定経費、英語力を含む質の高さなどを勘案すると、フィリピンでの(12年5月18日のフィリピン労働雇用省発表、全国賃金・生産性委員会資料、日本商工会議所資料などより)。

労働雇用省各国賃金比較(2012年4月30日現在:ペソ対米ドルレートは42.34ペソ、前年同日は43.04ペソ)

国家・都市(通貨)

一日当り最低賃金

現地通貨建て

米ドル換算(ドル)

前年同日比

ベトナム (ドン)

46,667-66,667

2.22-3.17

+46.9%

カンボジア(リエル)

8,237.03

2.03

+21.6%

中国・北京 (人民元 )

25.33-50.00

4.00-7.89

+53.6%

インドネシア・ジャカルタ(ルピア)

27,917-50,972

3.03-5.54

+41.7%

タイ・バンコク(バーツ)

222-300

7.11-9.60

+40.3%

台湾(台湾ドル)

596

20.36

-2.0%

韓国 (ウォン)

36,640

32.32

+5.5%

日本(円)

5,160-6,696

64.20-83.31

+5.7%
フィリピン首都圏・現行(ペソ) 389-426 9.19-10.06 +7.4%

フィリピン首都圏・11月フル改定後(ペソ)

419-456

9.89-10.77

-
(出所:フィリピン国家賃金・生産委員会資料より作成、前年同日比はドル換算平均値を単純比較)