2011年GDP成長率、3.7%に鈍化(前年7.6%)

2012/01/30

農林水産2.6%、鉱工業1.9%、サービス5.0%
GNI成長率は2.6%へ急鈍化(前年8.2%)
第4四半期成長率:GDP3.7%、GNIは3.5%

  国家統計調整委員会(NSCB)は、1月30 日に、2011年第4四半期及び2011年年間のフィリピン国民経済計算統計(2000年基準)を発表した。2010年までこの統計の尺度は、国内総生産(GDP)と国民総生産(GNP)の2本立てとなっていたが、2011年発表からGDPとGNI(国民総所得)という体系に変更された。さらに、GDP統計などにおける物価変動を除いた実質ベース産出のための基準年が従来の1985年から2000年へと変更されている。

 [2011年第4四半期動向]
 2011年第4四半期GDP成長率(前年同期比実質ベース:以下同様)は3.7%で、前年同期の6.1%から鈍化した。季節調整済み前期比では0.9%の成長となった。

 好調であった前年同期の反動、東日本大震災の後遺症、欧州債務問題などの影響やそれにともなう輸出不振、さらには大型台風襲来などにより、成長率が急ピッチで鈍化した。

 一方、第4四半期のGNI成長率も3.5%にとどまり、前年同期の5.6%から鈍化した。GDP成長率鈍化にくわえ、海外景気減速や中東や北アフリカ地域における政治的混乱の影響などでOFW送金等の海外からの純所得(NPI )が2.9%と低い伸びにとどまったことが響いた。

 セクター別成長率は、農林水産業がマイナス2.5%と不振、鉱工業が2.5%と伸び悩んだ。サービス産業は5.9%と堅調ながらも前年同期の6.4%成長からは鈍化した。

 一方、支出項目別成長率は、家計最終消費支出が6.7%(前年同期4.9%)、政府最終消費支出も5.8%(前年同期マイナス6.6%)底堅く推移。しかし、固定資本形成が5.2%へと鈍化した(前年同期は15.7%)。すなわち、設備投資意欲は減退した。また、輸出がマイナス5.5%へと急悪化した(前年同期はプラス16.8%)。一方、GDPのマイナス勘定となる輸入はマイナス3.3%(前年同期はプラス21.9%)。輸出大幅減少が、GDP成長率鈍化の大きな要因の一つとなった。

 [2011年通年動向]

 2011年のGDP成長率は3.7%で、前年の7.6%から鈍化した。国家経済開発庁(NEDA)の事前推定値3.6%~4.0%のほぼ下限にとどまり、政府の再改訂目標4.5~5.5%の下限に届かなかった。海外からの純所得(NPI )がマイナス0.9%であったことから、GNI成長率は2.6%で、前年の8.2%から急鈍化した。

 セクター別成長率は、鉱工業が1.9%で前年の11.6%から大幅に鈍化。特に建設のマイナス6.4%への悪化(前年はプラス14.3%)が響いた。主力の製造業は4.7%へと大幅鈍化(前年11.2%)。また、サービス産業は5.0%に鈍化(前年同期7.2%)。一方、農林水産業は2.6%で、前年のエル・ニーニョ現象による落ち込み(マイナス0.2%)からプラス成長へと復帰したが、鉱工業やサービスセクターの鈍化を相殺するには程遠かった

 支出項目別伸び率は、家計最終消費支出が6.1%で前年の3.4%を上回った。政府最終消費支出はマイナス0.7%(前年プラス4.0%)。 資本形成は11.1%(前年31.6%)、そのうち固定資本は2.7%(前年19.1%)であった。また、輸出はマイナス3.8%と低迷(前年プラス21.0%)。一方、GDPのマイナス勘定となる輸入の伸び率は1.9%(前年プラス22.5%)であった。NEDAは、輸出減少がGDP成長率を2.2%押し下げたとしている。

 [2012年の政府見通し]
 フィリピン政府は、2012年の成長率は、2011年に比べかなり高くなると楽観的に見ている。その根拠として、まず、公共事業拡大や官民連携(PPP)事業の本格化による建設・インフラ投資の増加が挙げられている。民間ベースでも、BPO(アウトソーシング)ビルや住宅建設が一段と活発化すると見込まれるとのこと。

 さらに、2013年の選挙特需が年後半から顕在化し、飲食料、広告支出などが増加しそうなこと、インフレ沈静化にともなう家計支出の一段の拡大、主要国景気の底打ちに伴うエレクトロニクス等の輸出回復期待なども挙げられている。


セクター・支出項目別GDP実質成長率(前年同期比)などの推移(2000年基準:単位:%)

構成比 四半期成長率  年間成長率
11年 10年 11年 10年 11年
四半期 年間 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 年間 年間
GNI(国民総所得) 100.0 11.5 9.2 6.9 5.6 3.3 1.5 2.1 3.5 8.2 2.6
GDP(国内総生産) 76.2 8.4 8.9 7.3 6.1 4.6 3.1 3.6 3.7 7.6 3.7
NFIA(海外からの純所得) 23.8 21.2 10.0 5.7 3.9 -0.5 -3.4 -2.5 2.9 10.0 -0.9
セクター別内訳
 農林水産業 8.8 -1.8 -2.0 -2.0 4.1 4.3 8.2 2.1 -2.5 -0.2 2.6
   農林産業 7.1 -1.9 -2.1 -3.1 5.4 6.2 11.5 4.3 -2.1 -0.1 4.3
     米 1.7 -9.2 -7.3 -23.8 19.6 15.6 13.2 19.7 -8.7 -2.4 5.9
     コーン 0.5 -15.7 -36.1 -0.4 10.5 19.4 71.5 -6.0 -9.7 -8.9 9.5
   水産業 1.7 -1.1 -1.6 2.8 -1.4 -3.1 -2.4 -6.6 -4.2 -0.5 -4.0
 鉱工業等 24.4 15.4 15.7 9.8 6.5 7.3 -2.3 0.8 2.5 11.6 1.9
  鉱業 0.9 2.4 24.4 6.8 6.9 19.8 3.0 1.7 -6.5 11.4 4.1
  製造業 17.1 18.3 13.2 8.4 6.5 8.8 4.7 3.5 2.2 11.2 4.7
  建設 3.9 9.7 24.7 15.6 4.6 3.5 -23.3 -8.5 11.2 14.3 -6.4
  光熱水道 2.5 9.8 10.2 10.1 9.4 -1.2 -3.4 -0.7 -6.2 9.9 -2.8
 サービス産業 43.0 7.2 7.3 7.8 6.4 3.2 5.4 5.4 5.9 7.2 5.0
  運輸倉庫通信 5.7 -2.2 2.2 3.0 1.4 4.2 4.2 4.6 2.7 1.0 3.9
  商業・自動車修理等 12.6 11.6 6.8 11.0 5.0 0.3 1.9 3.8 3.9 8.4 2.6
  金融 5.2 8.3 5.8 13.1 13.6 6.4 11.6 1.4 6.8 10.1 6.6
  不動産等 8.2 5.2 8.6 6.6 9.4 6.1 6.9 8.6 9.2 7.5 7.7
支出別内訳
 家計最終消費支出 54.0 4.0 1.9 2.4 4.9 5.3 5.5 6.8 6.7 3.4 6.1
 政府最終消費支出 7.3 21.4 7.4 -6.5 -6.6 -17.2 4.3 7.1 5.8 4.0 -0.7
 資本形成 17.0 31.9 38.0 34.5 25.7 42.3 -7.7 28.0 -4.3 31.6 11.1
   固定資本 15.6 18.9 26.6 15.4 15.7 12.7 -9.9 3.3 5.2 19.1 2.7
    建設 6.1 11.4 25.2 17.1 14.0 7.4 -21.0 -8.0 11.4 17.5 -4.1
    耐久設備 8.0 29.2 35.9 17.6 21.6 18.7 1.0 13.4 1.2 25.5 8.7
 輸出等 35.8 18.8 24.0 23.1 16.8 2.0 1.4 -11.9 -5.5 21.0 -3.8
 輸入等(控除勘定) 37.9 24.2 22.1 22.1 21.9 11.3 0.4 0.4 -3.3 22.5 1.9

       (出所:国家統計調整委員会資料より作成)