三菱東京UFJ銀行マニラ支店が経済・為替講演会

2011/11/19

今後1年間でペソ1ドル=41.00~45.00ペソと予想

主たるレンジ42~44ペソ、来年第2四半期から再上昇

  三菱東京UFJ銀行マニラ支店は11月18日に、毎年恒例の経済・為替関連講演会を開催した。

 この講演は2部構成で、第1部が東京本社金融市場部シニアアナリストの内田稔氏による「為替相場の現状と展望~ドル安円高シナリオの検証」、第2部がマニラ支店為替資金課の善木茂雄課長による「フィリピン経済概況並びに今後のドルペソ為替相場見通し」という構成であった。

 内田氏は、「相対的購買力平価の観点からは、米ドル円相場の適正水準は概ね1米ドル=72円~98円」、「経常収支と対米ドル変化率との間には『正の相関関係』が認められる。経常収支黒字国通貨は対米ドルで上昇し、赤字国通貨は下落する関係(資源国通貨は除く」、「ドル円相場は世界有数の経常収支黒字国通貨である『円』と同赤字国通貨である『米ドル』の組み合わせであるため、米ドル安円高圧力が加わりやすいと考えられる」との見解を示した。また、欧州債務危機に関しては、打開策に乏しく、楽観できる状況ではないとの見解も示した。
 
 しかし、「国際競争の激化や資源価格の上昇などにより、日本の交易条件は過去最低水準にまで低下している」、「日本国内の投資環境悪化にともなう対外直接投資の活発化が円高抑制要因や円安要因になりうる」、「日本国債の『シングルA』への格付け引き下げの場合は円に対する売り圧力も予想される」などとして、円高が一方的に進行する状況でもないことを説明した。そして、今後1年間の円、ドル、ユーロの動きに関して、以下のような予想(中心値)が示された。
 
為替相場予測(中心値、11年11月4日時点)

2011年 2012年
11~12月 1~3月 4~6月 7~9月
ドル円 77 77 78 80
ユーロ 対ドル 1.34 1.28 1.30 1.35
対円 103 99 101 108


 第2部の「フィリピン経済概況並びに今後のドルペソ為替相場見通し」では、フィリピンの景気は輸出急減などで息切れ気味であるが、海外からの資金流入継続などにより株式市場やペソは堅調に推移、国際収支や外貨準備高も堅調であることなどが紹介された。

 ペソは、欧州債務危機にともなう新興国からの資金流出により多くのアジア通貨対ドルレートが昨年末比下落するなかで、インドネシア・ルピー、韓国ウオンとともに対ドルで上昇している数少ない通貨の一つとなっている(11月9日現在)。また、10月末の株価に関しても、多くの新興国市場が下落する中で、フィリピンは対前年末比で3.2%で上昇、インドネシアの2.4%上昇を抑えて、アセアンで最高のパフォーマンスとなっている。

 そのような状況下での来年度ドル相場予想に関して、「主たるレンジは1米ドル=42~44ペソ」、「2011年年末までは欧州債務問題に一喜一憂しながらの展開。年末に向けたOFW送金がペソ買い要因になるが、前者の影響度が勝る」、「経済成長鈍化するも、外貨準備や国際収支等支払い能力の向上から、ペソ大崩れの可能性は小さい」、「先進国経済の回復が見えてくるに従い、新興国通貨が選好される」とのメインシナリオや、以下のような、期間別米ドルペソ相場予想が示された。
・2011年第4四半期(10月~12月):1ドル=42.00~44.50ペソ(欧州問題を睨みながらもペソ横這い)
・2012年第1四半期(01月~03月):1ドル=42.00~45.00ペソ(国内景気減速も踏みとどまる)
・2012年第2四半期(04月~06月):1ドル=41.50~44.50ペソ(ペソ上伸への足がかり)
・2012年第3四半期(07月~09月):1ドル=41.00~44.00ペソ(ペソ堅調)


 リスク要因としてはミンダナオ問題(モロ・イスラム解放戦線/MILFの活動激化)、欧州債務危機の更なる拡大・深刻化が挙げられたが、欧州債務危機がフィリピン銀行業界に与える影響は比較的軽微であろうとの以下のような見解も示された。

 テタンコ中央銀行総裁は「欧州向けエクスポージャーは6月末時点でフィリピンの銀行総資産の1.4%で、1月末の2.9%から低下した」と説明している。仮にそのエクスポージャーが政府債務残高シェアどおりと仮定しても、PIIGS諸国(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)向けエクスポージャーは8憶2000万ドル(約353億ペソ)。実際には、安全資産としてドイツ国債投資比率が相応に高そうであり、8億2000万ドルよりは遥かに少ないと推察され、フィリピン銀行業界への直接的影響は限定的と見られる(11年11月18日の三菱東京UFJ銀行マニラ支店講演会やその資料などより。