ASEAN設立50周年、JICAが多面的継続支援

日本の経験と技術で成長支援、セブ都市開発も

2017/08/09

   国際協力機構(JICA)は、そのホームページに、特集{ASEAN設立50周年−「質の高い成長」を支える日本の経験と技術}を掲載している。その内容は次のとおり。

 2017年8月8日、東南アジア諸国連合(ASEAN)は設立50周年を迎えた。現在、加盟する10カ国が抱える総人口は約6億3000万人、GDPは2兆4320億米ドル。巨大市場としても世界を牽引する役割が期待されている。

 地理的にも近い日本とのつながりは緊密である。1973年の友好関係開始から40年以上の長きにわたり、互いに支え合い、信頼関係を築いてきた。現に、日本からASEANの直接投資は、約20年間で5.1倍に急増、日系現地法人の数は10,000社を超えている。また、2015年時点で31,000人以上もの留学生がASEAN各国から訪日している。

 今や日本の重要なパートナーであるASEAN。2015年末には「政治・安全保障」、「経済」、「社会・文化」の3本柱から成る「ASEAN共同体」が発足し、域内の関係深化に向けて大きく動き出した。

 JICAは、ASEANが一つの地域として発展し、日本と共に成長するために、「連結性」を重視した支援をASEAN共同体発足以前より継続して実施中である。例えば、各国地域をつなぐ道路や橋などのインフラ整備に加え、物流円滑化を図る通関制度支援、災害発生時における連携体制の構築などがある。

 さらに、ASEAN各国が連結性向上による恩恵を享受して潜在成長能力を高め、経済が停滞することなく持続的な成長を実現するためには、国家や産業を支える高レベルな人材育成や都市問題の解決、時代の変化に応じた社会のルール作りなどへの支援が不可欠である

 日本の経験と技術を生かし、ASEANの「質の高い成長」をより強力に支え続けるべく、JICAは以下に例示されているような多面的な支援を行ってきている。

1.発展の基礎となる「都市の未来図を描く>
<フィリピン:「メガ・セブ・ビジョン2050」実現への道、横浜市との連携で>
 美しい海などの観光資源が豊富で、人口増加も著しいフィリピン第2の都市圏メトロ・セブ。しかし、脆弱な都市基盤と度重なる洪水被害が発展の阻害要因となっている。JICAは、同じく港湾都市として多くの示唆に富む経験を持つ横浜市と連携し、都市開発ビジョン「メガ・セブ・ビジョン2050」の策定と、ビジョン実現のためのロードマップ作成を支援した。自治体と連携して海外の都市計画全体を支援する初の事例でる。

 「メガ・セブ・ビジョン2050」は「競争力」「住みやすさ」「交通」「都市圏マネジメント」の4つの戦略で構成。メトロ・セブ都市圏を構成する13市町・中央政府機関・民間セクター・市民社会が一体となって進める“未来図の実現”をJICAと横浜市が支援

 具体的な課題としてあった下水汚泥処理、廃棄物の循環利用、水供給には、JICAの「中小企業展開支援事業」を通じて、横浜市及び川崎市の中小企業が、その技術を生かした支援を実施。その他、同国・地域に個別に検討していた案件も取りまとめ、ビジョンへの整合性を持たせたアプローチで2050年を見据えた支援を展開中である。

ASEAN各国メディアが日本で都市問題への取り組みなどを取材
 JICA事業や日本への理解を深めてもらうことを目的として実施している「海外メディア招へいプログラム」。2017年6月には、ASEAN加盟10ヵ国の新聞記者が日本を訪れ、都市問題や防災への取り組みを取材した。目の当たりにした技術や知見を伝える記事が、ASEANの課題解決のきっかけになると期待される。

2.ASEANを担い、日本への架け橋となる「人」を育てる
 次世代のリーダー、国家運営を支える優秀な官僚、技術革新を担う産業人材など、ASEANのさらなる成長に求められる高レベルな人材育成において、JICAの支援が大きな成果を生んでいる。親日家を増やすことにもつながり、日本とASEANの友好関係強化にも貢献する支援である。

<日本とASEANの大学が連携、工学系人材が発展を支える>
 日本とASEANの大学間ネットワークを強化し、土木や環境など工学系10分野で、ASEAN大学教員の能力向上を図る人材育成プロジェクト「アセアン工学系高等教育ネットワーク」。学位取得でより高レベルな教育を次世代へ、研究成果は産業開発のみならず、気候変動など地域共通の課題解決にも貢献する。ASEANの持続的な発展、そして、「人的連結性」の促進にもつながるプロジェクトである。


<日越大学が開学!世界水準の人材育成拠点を目指す>
 日本とベトナム、両政府の主導で準備が進められてきた「日越大学」が2016年9月に開学した。文理横断型の教育プログラムで、両国にとって必要な人材を幅広く育成する教育機関である。JICAは修士課程6専攻の設立を支援。続いて学士・博士課程を順次設立するための調査なども実施中で、将来的には学生数6,000人規模、世界水準の総合大学を目指し、整備が進められている。

<日本での学びを生かし、ベトナムの国家体制の中枢へ>
 国家体制の中枢を担うベトナム共産党。その政策決定を担う重要な組織、党中央委員会委員に選出された100人のうち、33人をJICA・人事院・一般財団法人公務人材開発協会の支援で実施した「国家指導者候補者研修」の受講者が占めた。同国の政治と行政を担う親日家。日本との強力な架け橋としても、今後の活躍が期待される。

<2017年スタート!科学技術で国内産業を促進「イノベーティブ・アジア」>
 新しい取り組み「イノベーティブ・アジア」が2017年9月から始まる。学技術研究に従事する学生が5年間で合計1,000人来日し、イノベーションの促進を通じて、アジア諸国と日本との間の高度人材の環流と、日本との友好関係強化を目指す。

3.時代の変化、発展に対応した「ルールづくり」を
 明治維新以降、欧米の法律をカスタマイズしながら取り入れ、独自の法文化を築いてきた日本。その経験が今、近隣各国と成長を共にしようというラオス、ミャンマーの国づくりに役立てられている。JICAは、人々の生活からビジネスまで、時代の波を受け入れながらあらゆる社会活動を円滑にするための法整備を支援している。

<ラオス:今にふさわしい法律を、「解説書」でわかりやすく>
 1997年にASEANに加盟したラオスは、物・サービスが自由に取引される市場経済化を進めている。JICAは、そんな変化に十分に対応していなかった法律を変えるための支援に加え、活用のノウハウをまとめた「解説書」や「Q&A集」の作成、さらに運用できる法律家の育成まで幅広く支援。労働法、経済関連法などを含む法の整備は、ビジネスがしやすい環境づくりにもつながり、進出をめざす日本企業にとっても有益である。

<ミャンマー:不変法典からの脱却!新しい時代を生きる人々へ>
 長い軍政が終わり、2011年新政府が発足したミャンマー。今も残るのは100年以上も前の法制度。まずは、法案について広く議論できる下地をつくり、十分な知識を持った人材を育てようと2013年に始まったJICAの支援。専門家との議論や、具体的な係争を想定した研修は、条文案が今のミャンマーに適切かどうか考える機会となり、裁判官や政府職員の法に対する考え方に、徐々に変化が現れ始めている(17年8月8日のJICAトピックスより)。