フィリピンの大手コンビニエンスストアの2017年9カ月間(1月~9月)の業績動向が明らかになってきた。フィリピン証券取引所(PSE)上場のフィリピンセブン(セブンイレブン運営企業)が11月10日に9ケ間決算を発表したほか、その他の企業の収益動向は現地パートナー企業の事業報告書等に部分的に記載されている。
比の日系コンビニ店舗数(年末・月末値、比セブンイレブンは直接的には台湾プレジデント・チェーン・ストア傘下 )
年・月 |
12年 |
13年 |
14年 |
15年 |
16年 |
17年 |
3月 |
6月 |
9月 |
12月 |
3月 |
6月 |
9月 |
10月 |
セブンイレブン |
829 |
1,009 |
1,282 |
1,602 |
1,655 |
1,740 |
1,840 |
1,995 |
2,031 |
2,087 |
2,172 |
N.A. |
ミニストップ |
337 |
386 |
454 |
519 |
518 |
513 |
501 |
499 |
493 |
491 |
489 |
489 |
ファミリーマート |
0 |
31 |
87 |
120 |
104 |
102 |
101 |
99 |
81 |
72 |
68 |
67 |
ローソン |
0 |
0 |
0 |
16 |
17 |
19 |
24 |
29 |
30 |
32 |
33 |
33 |
(出所:各社資料より作成、ミニストップ、ファミリーマートは日本側発表数値、ローソンはサイト等からの推計値)
首位のセブンイレブンは、台湾系のプレジデント・チェーン・ストア(ラブアン)ホールディングスが52.216%2017年9末現在)を所有するフィリピン・セブン社 (PSC)によって運営されている。2017年も店舗数が順調に増加、3月8日に2千店を突破した。9カ月間では177店純増(新規出店199店、閉鎖22店)、9月末で2,172店となり、前年同月末の1,840店から332店、率にして18%増加した。2016年以降は店舗数の減少が続くミニストップ(2017年9月末489店)やファミリーマート(同68店)との差を拡大させている。
このようなPSCの2017年9カ月間(1月~9月)業績は、グループ全売上高(システムワイドセールス)が前年同期比18.1%増の271億7,928万ペソ、商品売上高は同11.1%増の230億6,666万ペソ。税引前利益は同0.7%増の9億2,568万ペソ、純利益は同0.8%増の6億4,83万ペソとなった。下表の様に、PSCの純利益は年間ベースでは順調に増加してきたが、今9カ月間はやや伸び悩みというペースとなっている。2016年は上半期に総選挙(投票日5月)特需があり既存店の売上高が高い伸びを見せたが、今年はその反動で既存店売上高の伸びが鈍くなっていることが響いている。ただし、コンビニ業界の中では断トツの収益力を維持している。
フィリピンのセブン・イレブン店舗数(年末)とPSC年間純利益推移(単位:百万ペソ、17年は9カ月間のみ)
時期 |
06年 |
07年 |
08年 |
09年 |
10年 |
11年 |
12年 |
13年 |
14年 |
15年 |
16年 |
17年9カ月間 |
店舗数 |
287 |
311 |
368 |
447 |
551 |
689 |
829 |
1,009 |
1,282 |
1,602 |
1,995 |
2.172 |
純利益 |
20.1 |
54.8 |
84.3 |
155.8 |
276.9 |
356.3 |
465.2 |
682.6 |
873.3 |
1,008.3 |
1,175.5 |
648.3 |
(出所:フィリピン・セブン資料などより作成)
一方、当地第2位のミニストップは、ロビンソンズ・コンビニエンス・ストアーズ(RCSI)によってフランチャイズ展開されている。RCSIは、三菱商事、ミ ニストップ株式会社、ゴコンウェイ・ファミリー傘下のロビンソンズ リテイル(RRHI)グループとの共同事業である。2000年にRCSIとミニストップ本社との間でカントリー・フランチャイズ契約が正式締結され、2000年12月にミニストップのフィリピン1号店がオープンした。RRHIは2013年11月にフィリピン証券取引所(PSE)に新規上場された。
フィリピンでのミニストップ店舗数は、2012年末337店、 2013年末386店、2014年末454店、2015年末519店(店舗数は日本側発表数字、以下同様)と順調に増加してきた。しかし、2016年に入るとブレーキがかかり、12月末は499店となり前年同月比で20店、率にして4%減少となった。2017年も小幅ながら減少傾向が続き、9月末で489店となっている。
11月10日に発表されたRRHIの事業報告書などによると、フィリピンのミニストップのグループ総売上高(システムワイドセールス)は前年同期比1.2%増の63億8,500万ペソ、商品売上高は同0.2減の45億5,102万ペソとで、額、伸び率ともにセブンイレブンに大きな差をつけられている。仕入れコストや営業費用も減少したことなどで、税引前損益は4,182万ペソの黒字となり、前年同期の1,204万ペソの赤字からは改善したが、セブンイレブンの20分の1以下の水準にとどまっている。2位のミニストップさえ、セブンイレブンに大差をつけられている。
2017年9カ月間の主要コンビニエンスストア比較(前年同月比、単位:万ペソ)
項目
|
比セブンイレブン
|
比ミニストップ
|
比ファミリーマート |
企業目名
|
PSC
|
RCSI
|
PFM |
9月末店舗数
|
2,172店
|
489店
|
68店 |
店舗数増加率
|
18%
|
-2%
|
-33% |
グループ全売上高
|
2,717,928
|
638,500
|
N.A. |
商品売上高
|
2,306,666
|
415,102
|
N.A. |
商品売上高増加率
|
11%
|
-0.2%
|
N.A. |
税引前利益
|
92,568
|
4,182
|
N.A. |
税引前利益増加率
|
0.7%
|
黒字転換
|
N.A. |
(出所:フィリピン セブンとロビンソンズ・リテール事業報告書などより作成)
一方、ルスタンで知られる高級小売り企業のSSIグループ(SSI)とアヤラ・グループの折半合弁企業であるSIAL CVSリテイラーズ社(SIAL)は、2012年、ファミリーマート、伊藤忠商事とともに、フィリピンにおけるファミリーマート店舗の展開を目的に、「フィリピンファミリーマートCVS社」(PFM)を設立した。すなわち、PFMへの出資比率はSIAL60%、ファミリーマート37%、伊藤忠商事3%である。前述のように、SIALはSSIとアヤラ・グループの折半合弁企業であることから、SSIのPFM出資比率は30%ということになる。
フィリピンファミリーマート1号店は、2013年4月にマニラ首都圏マカティ市にオープンした。店舗網は2015年前半までは順調に増加、2015年5月に100店の大台に到達した。ただし、業界の競争激化や出店政策の見直しなどにより、2015年後半以降は出店ピッチが急鈍化、2016年から減少傾向となっている。2017年9月末の店舗数は68店(日本側発表数字、以下同様))で、前年同月末の101店から33店減少、ピークの2015年末の120店からは52店減少している。
SSIは、2017年9カ月間(1月~9月)事業報告書において、PFM事業の損失は4,930万ペソ(SSI出資分)と報告している。SSIのPFMへの出資比率は30%であることから、今9カ月間のPFM全体の損失額は約1億6,400万ペソ程度であったと推定される
このような状況下において、SSIやアヤラグループはPFM株式売却、すなわち、比ファミリーマート事業からの撤退も検討してきた。そして、10月30日、石油製品販売大手フェニックス・ペトロリアム・フィリピンズ(PNX、本社:ダバオ市、フィリピン証券取引所{PSE}上場)が、「SIAL、ファミリーマート、伊藤忠商事からPFM全株式(100%)を取得するとの覚書を締結した」と発表した。
PNXによるPFM株式100%取得はフィリピン競争委員会(PCC)の承認が前提となるが、承認されれば、PNXがPFMを完全子会社化、ファミリーマートはフィリピンでのコンビニ出資・運営からは撤退する。また、SSIとアヤラグループも比ファミリーマート事業から撤退することになる。ファミマ—トは、PFMとの間で来年1月末にも新ライセンス契約を締結、フィリピン事業をライセンス展開へと転換する計画である。