JICA、バンサモロ政府設立へ大きな役割
フィリピン和平プロセスを多面的継続支援
2018/07/29
2018年7月26日、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)との間で2014年に合意された包括和平合意に基づき、新自治政府を新たに設立するために必要となる法律「バンサモロ基本法」が成立した。バンサモロ政府設立に向けたプロセスが一段と加速されることが期待される。
国際協力機構(JICA)は、ミンダナオのすべての人々が将来に希望を持ち、平和に暮らすことができるよう、フィリピン政府とMILFとの和平プロセスに対し、長年支援を続けてきた。今後も、バンサモロ政府の設立に向け、引き続き支援していく方針である。
フィリピンでは人口約1億のうち、約5パーセントに相当するイスラム教徒は「モロ」と呼ばれ、その多くは、ミンダナオ島南西部の「バンサモロ(モロの地という意味)」と呼ばれる地域で暮らしている。ミンダナオ島では、14世紀からイスラム教が根付き、独自の社会や文化を作ってきたことから、長らく自治・独立を求めフィリピン政府との間で時として激しい武力衝突が起きてきた。1970年代以降の紛争における犠牲者は数十万人とも言われている。
<武器を手放した兵士たちの生活を支える>
40年以上に渡り紛争の影響を受けてきたバンサモロは、国の社会経済開発から大きく取り残されてきたため、フィリピンの他の地域と比べてインフラや教育、医療など社会サービスの整備が立ち遅れ、貧困率も高くなっている。MILFの軍事部門バンサモロ・イスラム軍の兵士たちはこれまで先祖伝来の土地を守るため、農業をしながら半農半兵で生計を立ててきた。
JICAが支援してきた農業技術研究機関「稲作研究所」が管理するMILFのコミュニティ内にある実験農園での農業技術研修は、売値の高い陸稲の栽培技術を学ぶことで、バンサモロ政府の設立に伴い推定3万人とも言われる兵士たちが武器を手放した後も、安定した生活を送ることができるようにすることを目的としている。
研修を受けた兵士たちからは、陸稲を栽培するようになったことで、「収入も増えて借金を返済できた」、「バイクを購入した」、「稲作をするようになって主食の米を買う必要がなくなり生活が楽になった」という声が聞こえている。これまで研修を受けた兵士の数は約500人に達している。
この農業技術研修はバンサモロ政府への円滑な移行に向けた基盤づくりのため、JICAが2013年に開始した「バンサモロ包括的能力向上プロジェクト(CCDP)」によって実施されている。プロジェクトで農業技術研修を担当する出水幸司専門家は「研修後に、これまで栽培していたトウモロコシから陸稲に転作した兵士もいる。また研修を受けた兵士が別の兵士に栽培技術を教えるなど、確実に研修の成果が上がっている」とコメントしている。
プロジェクトでは、紛争が終結を迎えた後、ミンダナオの人々が安心して暮らしていけるよう、新政府の組織や制度の構築、行政サービスの拡充やコミュニティ開発、経済活動の活性化などにも取り組んできた。新政府の行政を担う人材を対象に、政策研究大学院大学と協力して、基本法の草案づくりに必要な司法制度や議院内閣制度、基本的権利に関する制度など、日本の例や他国の例を学ぶ機会を提供している。
JICAの坂根宏治平和構築・復興支援室長は、これまでの支援の歩みに関して、「JICAは2002年に発表された平和と安定のためのミンダナオ支援パッケージ以来約15年にわたり、政府とMILFの和平合意前から、農業や貧困削減、小規模インフラ整備などの支援を紛争影響地域に対して実施してきた」、「日本政府の日本バンサモロ復興開発イニシアティブ(J-BIRD)の下、CCDPを核としつつ、ミンダナオ国際監視団(IMT)への職員派遣や、住民主導型の教育・医療施設、上水道、道路などの整備を支援する平和・開発社会基金事業、昨年5月に発生したミンダナオ・マラウィでの武力衝突後の復旧・復興計画への支援)など、多様なステークホルダーを対象とした包括的な支援を行っている」とコメントしている。
また、「これまでの長年の協力で培われたMILF側、フィリピン政府側双方との信頼関係を生かし、JICAは両者の橋渡しをする役割を果たしてきた。JICAの支援は、ミンダナオの人々に、平和と安定の追求が豊かな生活に結びつくことを手応えを持って感じてもらえたものと信じている」、「和平プロセスの停滞が、MILFに属する人々の不満を募らせた時期もあったが、長年にわたる調整の結果、このたびバンサモロ基本法が成立したことは、非常に大きなステップであり、喜ばしいことである。JICAは今後ともフィリピンの人々とともに、地域の安定と復興に協力していく」とも述べている。
<バンサモロ政府の設立に向けて>
バンサモロ基本法の成立に伴い、これからバンサモロ自治地域におけるバンサモロ政府の設立に向けた準備が始まる。現場で陣頭指揮を執るバンサモロ包括的能力向上プロジェクト総括の竹内博史専門家は、「我々の拠点であるコタバト市内では、和平プロセスの象徴であるバンサモロ基本法の成立を長年待ちわびた人々の喜びの声が聞こえている。ここまでの長い道のりの中には2008年の和平交渉の行き詰まりによる戦闘激化、2015年のママサパノ事件など多くの犠牲者を発生させた戦闘事案があり、決して平坦な歩みではなかった。バンサモロ基本法の成立は平和プロセスの中の大きな一歩であるが、これで終わりではない。バンサモロの人々が平和と安定を実感できるよう、引き続き支援を続けていく」と語っている。
今後、バンサモロ政府設立に向けて、バンサモロ自治地域の領域を決める住民投票の実施や暫定統治機構の設立など移行プロセスが進められていく予定である(18年7月27日の国際協力機構トピックスより)。
国際協力機構(JICA)は、ミンダナオのすべての人々が将来に希望を持ち、平和に暮らすことができるよう、フィリピン政府とMILFとの和平プロセスに対し、長年支援を続けてきた。今後も、バンサモロ政府の設立に向け、引き続き支援していく方針である。
フィリピンでは人口約1億のうち、約5パーセントに相当するイスラム教徒は「モロ」と呼ばれ、その多くは、ミンダナオ島南西部の「バンサモロ(モロの地という意味)」と呼ばれる地域で暮らしている。ミンダナオ島では、14世紀からイスラム教が根付き、独自の社会や文化を作ってきたことから、長らく自治・独立を求めフィリピン政府との間で時として激しい武力衝突が起きてきた。1970年代以降の紛争における犠牲者は数十万人とも言われている。
<武器を手放した兵士たちの生活を支える>
40年以上に渡り紛争の影響を受けてきたバンサモロは、国の社会経済開発から大きく取り残されてきたため、フィリピンの他の地域と比べてインフラや教育、医療など社会サービスの整備が立ち遅れ、貧困率も高くなっている。MILFの軍事部門バンサモロ・イスラム軍の兵士たちはこれまで先祖伝来の土地を守るため、農業をしながら半農半兵で生計を立ててきた。
JICAが支援してきた農業技術研究機関「稲作研究所」が管理するMILFのコミュニティ内にある実験農園での農業技術研修は、売値の高い陸稲の栽培技術を学ぶことで、バンサモロ政府の設立に伴い推定3万人とも言われる兵士たちが武器を手放した後も、安定した生活を送ることができるようにすることを目的としている。
研修を受けた兵士たちからは、陸稲を栽培するようになったことで、「収入も増えて借金を返済できた」、「バイクを購入した」、「稲作をするようになって主食の米を買う必要がなくなり生活が楽になった」という声が聞こえている。これまで研修を受けた兵士の数は約500人に達している。
この農業技術研修はバンサモロ政府への円滑な移行に向けた基盤づくりのため、JICAが2013年に開始した「バンサモロ包括的能力向上プロジェクト(CCDP)」によって実施されている。プロジェクトで農業技術研修を担当する出水幸司専門家は「研修後に、これまで栽培していたトウモロコシから陸稲に転作した兵士もいる。また研修を受けた兵士が別の兵士に栽培技術を教えるなど、確実に研修の成果が上がっている」とコメントしている。
プロジェクトでは、紛争が終結を迎えた後、ミンダナオの人々が安心して暮らしていけるよう、新政府の組織や制度の構築、行政サービスの拡充やコミュニティ開発、経済活動の活性化などにも取り組んできた。新政府の行政を担う人材を対象に、政策研究大学院大学と協力して、基本法の草案づくりに必要な司法制度や議院内閣制度、基本的権利に関する制度など、日本の例や他国の例を学ぶ機会を提供している。
JICAの坂根宏治平和構築・復興支援室長は、これまでの支援の歩みに関して、「JICAは2002年に発表された平和と安定のためのミンダナオ支援パッケージ以来約15年にわたり、政府とMILFの和平合意前から、農業や貧困削減、小規模インフラ整備などの支援を紛争影響地域に対して実施してきた」、「日本政府の日本バンサモロ復興開発イニシアティブ(J-BIRD)の下、CCDPを核としつつ、ミンダナオ国際監視団(IMT)への職員派遣や、住民主導型の教育・医療施設、上水道、道路などの整備を支援する平和・開発社会基金事業、昨年5月に発生したミンダナオ・マラウィでの武力衝突後の復旧・復興計画への支援)など、多様なステークホルダーを対象とした包括的な支援を行っている」とコメントしている。
また、「これまでの長年の協力で培われたMILF側、フィリピン政府側双方との信頼関係を生かし、JICAは両者の橋渡しをする役割を果たしてきた。JICAの支援は、ミンダナオの人々に、平和と安定の追求が豊かな生活に結びつくことを手応えを持って感じてもらえたものと信じている」、「和平プロセスの停滞が、MILFに属する人々の不満を募らせた時期もあったが、長年にわたる調整の結果、このたびバンサモロ基本法が成立したことは、非常に大きなステップであり、喜ばしいことである。JICAは今後ともフィリピンの人々とともに、地域の安定と復興に協力していく」とも述べている。
<バンサモロ政府の設立に向けて>
バンサモロ基本法の成立に伴い、これからバンサモロ自治地域におけるバンサモロ政府の設立に向けた準備が始まる。現場で陣頭指揮を執るバンサモロ包括的能力向上プロジェクト総括の竹内博史専門家は、「我々の拠点であるコタバト市内では、和平プロセスの象徴であるバンサモロ基本法の成立を長年待ちわびた人々の喜びの声が聞こえている。ここまでの長い道のりの中には2008年の和平交渉の行き詰まりによる戦闘激化、2015年のママサパノ事件など多くの犠牲者を発生させた戦闘事案があり、決して平坦な歩みではなかった。バンサモロ基本法の成立は平和プロセスの中の大きな一歩であるが、これで終わりではない。バンサモロの人々が平和と安定を実感できるよう、引き続き支援を続けていく」と語っている。
今後、バンサモロ政府設立に向けて、バンサモロ自治地域の領域を決める住民投票の実施や暫定統治機構の設立など移行プロセスが進められていく予定である(18年7月27日の国際協力機構トピックスより)。