日系企業の中期的有望事業展開先、比は4年連続8位
長期的では3年連続10位:JBIC日系製造業調査18年版
2018/11/27
国際協力銀行(JBIC)は、日本の製造業企業の海外事業展開の動向に関するアンケート調査を実施し、11月26日に結果を発表した。
今回の調査は、本年6月に調査票を発送し、7月から9月にかけて回収したものである(対象企業数1,012社、有効回答数605社、有効回答率59.8%)。本調査は、海外事業に実績のある日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、今回で30回目となる
本年度調査では、(1)売上高・収益満足度に関する「海外事業実績評価」や(2)「海外事業展開見通し」、「中期的な有望事業展開先国・地域」のランキング及び国別の有望理由や課題といった定例テーマに加え、個別テーマとして(3)「保護主義的な政策の影響」や(4)「環境規制への対応と環境ビジネスの展開」につき調査を実施した。本調査結果の要旨は以下のとおり。
(1)海外事業実績は全地域で概ね好調。今後の事業展開は(警戒しつつも)国内外向けに積極性を維持
海外収益比率は、堅調な世界経済を背景に37.3%と過去最高となり、収益目標の達成度合いを測る「収益満足度評価」も高水準となった。こうした好調な事業実績を背景に、今後の海外事業展開を「強化・拡大する」と回答した企業数も増加したが、一方で2018年度の海外収益比率の見込み値が2017年度比でやや低下するなど、今後の海外での事業環境に対する警戒感も垣間見られた。
(2)国内事業の強化を背景に海外事業展開には選択的な姿勢、中期的有望国は中国がリードする形で二極化が進む
中期的有望国については、中国とインドが得票率で他国との差を拡げ、二極化が進む結果となった。両国とも「市場の成長性」や「市場規模」の側面で全業種からの期待が高い。また、米国とメキシコとの間で得票差が拡大し、特に自動車産業で両国への評価が分かれた。日本国内の事業強化拡大姿勢が強まっているところ、限られた経営資源の配分において、海外事業展開先国にも優先順位がつけられつつあることがうかがえる。
(3)保護主義的な政策は収益や貿易取引に影響、今後は各国向けの直接投資にも波及する可能性がある
保護主義的な政策の影響については、約3割の企業が収益や貿易取引の「減少が見込まれる」と回答した。海外直接投資や国内生産では「影響がない」「わからない」との回答が大半であったが、「減少が見込まれる」との回答も1~2割あったことから、今後は保護主義的な政策が各国向けの直接投資の手控えや減少を招く可能性を示唆する結果となった。なお、北米で合意されたUSMCAについては「数量規制」や「賃金条項」への関心が比較的高かった。
(4)環境規制は中国やEUで厳格化の傾向であるが、環境意識の高まりをビジネス拡大の好機と捉える見方も根強い
環境規制について、中国やEUで「強化されている」との回答が5~7割を占めたが、その影響について「プラスの影響が見込まれる」との回答が3~4割となった。事業分野としては、大気汚染関連や下水・排水処理などが目立っているが、今後は自動車を含む省エネ分野で、とりわけ中国での事業への関心が強いことが示された。
(5)今後は、米国・中国の景気減速や、貿易摩擦等の不透明要因の影響の見極めが課題
今回の調査では、2017年度の好調な事業実績を背景に、今後もわが国製造業が国内外で積極的に事業展開する姿勢であることが確認された。とりわけ、先端技術開発、省人化、電子商取引、サプライチェーン再構築など生産・販売の各分野で一層の進展が期待されるが、世界的な景気減速、貿易摩擦やブレグジットなどの外部要因による事業計画への影響も懸念されるところ、内外の環境変化を慎重に見極め、需要の取りこぼしを回避しつつ、次世代技術の開発・獲得のスピードを維持することが課題になると考えられる。
なお、フィリピンは中期的有望事業展開先として、2001年度にベストテン入りを逃して以来、2008年度まで順位の下落傾向が続いた。特に、2008年度は、21位とベスト20からも転落した。その後は、2009年度13位、2010年度と2011年度ともに14位、2012年度15位であったが、2013年度は11位へと上昇、2014年度も連続で11位となった。そして、2015年度は8位に上昇、15年ぶりのベスト10入りとなり、2016年度、2017年度、2018年度と4年連続の8位となった。2018年度の得票率は10.0%で、2014年度から5年連続で10%を上回った。しかし、3位のタイ(37.1%)、4位のベトナム(33.9%)、5位のインドネシア(30.4%)という他のASEAN主要国に水を開けられている。
ちなみに、フィリピンは2001年度以前は1997年度が7位、1998年度が6位、1999年度が7位、2000年度10位と推移していた。
長期的(10年程度)有望事業展開先に関しても、フィリピンに対する近年の評価は高くなかった。速報資料では総合10位までの順位が明示されているが。近年ではフィリピンは2015年度までランク外であった。しかし、2016年度は10位にランクイン、2017年度、2018年も10位(2018年の得票率8.6%)となった。ただし、中期的有望事業展開先と同様に、3位のベトナムとインドネシア(32.9%)、5位のタイ(30.0%)とは大きな差が付いている。また、ミャンマーの7位(11.7%)の後塵を拝している。
このところのフィリピン経済の好調さや市場規模・今後の成長性期待などを背景にフィリピン進出企業は増加しているが、インフラ整備の遅れ、電力料金が高いこと(アジアで最高水準)、地場裾野産業の未発達、政策の一貫性への懸念、依然治安や社会情勢が不安であることなどにより、結局はフィリピンへの進出を見合わせ、他国を選択するというケースも少なくない。フィリピンは投資誘致の障害除去や実体以上に悪いイメージの改善などに全力で取り組み、フィリピン進出の流れを一過性のものにしないようにすべきであろう。
ちなみに、今回調査におけるフィリピンの中期的有望の理由としては、現地市場の今後の成長性(比率57.1%)、安価な労働力(54.8%)、第3国輸出拠点として(19.0%)などが挙げられた。一方、課題としては、治安・社会情勢が不安(41.0%)、インフラが未整備(28.2%)、他社との激しい競争(25.6%)、管理職クラスの人材確保が困難(25.6%)、地場裾野産業が未発達(23.1%)などが指摘された。
なおJBICは、今回の調査結果を踏まえ、国際的な競争にさらされている日本企業の海外事業展開支援及び各国・地域の投資環境改善に向けた現地政府当局や関係機関との対話などを引き続き行っていく方針である(18年11月26日の株式会社国際協力銀行プレスリリースなどより)。
日本製造業企業の中期的有望事業展開先国・地域の推移(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
(出所:JBIC発表資料より)
日本製造業企業の長期的有望事業展開先国・地域の推移・詳細(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
(出所:JBIC発表資料より)
今回の調査は、本年6月に調査票を発送し、7月から9月にかけて回収したものである(対象企業数1,012社、有効回答数605社、有効回答率59.8%)。本調査は、海外事業に実績のある日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、今回で30回目となる
本年度調査では、(1)売上高・収益満足度に関する「海外事業実績評価」や(2)「海外事業展開見通し」、「中期的な有望事業展開先国・地域」のランキング及び国別の有望理由や課題といった定例テーマに加え、個別テーマとして(3)「保護主義的な政策の影響」や(4)「環境規制への対応と環境ビジネスの展開」につき調査を実施した。本調査結果の要旨は以下のとおり。
(1)海外事業実績は全地域で概ね好調。今後の事業展開は(警戒しつつも)国内外向けに積極性を維持
海外収益比率は、堅調な世界経済を背景に37.3%と過去最高となり、収益目標の達成度合いを測る「収益満足度評価」も高水準となった。こうした好調な事業実績を背景に、今後の海外事業展開を「強化・拡大する」と回答した企業数も増加したが、一方で2018年度の海外収益比率の見込み値が2017年度比でやや低下するなど、今後の海外での事業環境に対する警戒感も垣間見られた。
(2)国内事業の強化を背景に海外事業展開には選択的な姿勢、中期的有望国は中国がリードする形で二極化が進む
中期的有望国については、中国とインドが得票率で他国との差を拡げ、二極化が進む結果となった。両国とも「市場の成長性」や「市場規模」の側面で全業種からの期待が高い。また、米国とメキシコとの間で得票差が拡大し、特に自動車産業で両国への評価が分かれた。日本国内の事業強化拡大姿勢が強まっているところ、限られた経営資源の配分において、海外事業展開先国にも優先順位がつけられつつあることがうかがえる。
(3)保護主義的な政策は収益や貿易取引に影響、今後は各国向けの直接投資にも波及する可能性がある
保護主義的な政策の影響については、約3割の企業が収益や貿易取引の「減少が見込まれる」と回答した。海外直接投資や国内生産では「影響がない」「わからない」との回答が大半であったが、「減少が見込まれる」との回答も1~2割あったことから、今後は保護主義的な政策が各国向けの直接投資の手控えや減少を招く可能性を示唆する結果となった。なお、北米で合意されたUSMCAについては「数量規制」や「賃金条項」への関心が比較的高かった。
(4)環境規制は中国やEUで厳格化の傾向であるが、環境意識の高まりをビジネス拡大の好機と捉える見方も根強い
環境規制について、中国やEUで「強化されている」との回答が5~7割を占めたが、その影響について「プラスの影響が見込まれる」との回答が3~4割となった。事業分野としては、大気汚染関連や下水・排水処理などが目立っているが、今後は自動車を含む省エネ分野で、とりわけ中国での事業への関心が強いことが示された。
(5)今後は、米国・中国の景気減速や、貿易摩擦等の不透明要因の影響の見極めが課題
今回の調査では、2017年度の好調な事業実績を背景に、今後もわが国製造業が国内外で積極的に事業展開する姿勢であることが確認された。とりわけ、先端技術開発、省人化、電子商取引、サプライチェーン再構築など生産・販売の各分野で一層の進展が期待されるが、世界的な景気減速、貿易摩擦やブレグジットなどの外部要因による事業計画への影響も懸念されるところ、内外の環境変化を慎重に見極め、需要の取りこぼしを回避しつつ、次世代技術の開発・獲得のスピードを維持することが課題になると考えられる。
なお、フィリピンは中期的有望事業展開先として、2001年度にベストテン入りを逃して以来、2008年度まで順位の下落傾向が続いた。特に、2008年度は、21位とベスト20からも転落した。その後は、2009年度13位、2010年度と2011年度ともに14位、2012年度15位であったが、2013年度は11位へと上昇、2014年度も連続で11位となった。そして、2015年度は8位に上昇、15年ぶりのベスト10入りとなり、2016年度、2017年度、2018年度と4年連続の8位となった。2018年度の得票率は10.0%で、2014年度から5年連続で10%を上回った。しかし、3位のタイ(37.1%)、4位のベトナム(33.9%)、5位のインドネシア(30.4%)という他のASEAN主要国に水を開けられている。
ちなみに、フィリピンは2001年度以前は1997年度が7位、1998年度が6位、1999年度が7位、2000年度10位と推移していた。
長期的(10年程度)有望事業展開先に関しても、フィリピンに対する近年の評価は高くなかった。速報資料では総合10位までの順位が明示されているが。近年ではフィリピンは2015年度までランク外であった。しかし、2016年度は10位にランクイン、2017年度、2018年も10位(2018年の得票率8.6%)となった。ただし、中期的有望事業展開先と同様に、3位のベトナムとインドネシア(32.9%)、5位のタイ(30.0%)とは大きな差が付いている。また、ミャンマーの7位(11.7%)の後塵を拝している。
このところのフィリピン経済の好調さや市場規模・今後の成長性期待などを背景にフィリピン進出企業は増加しているが、インフラ整備の遅れ、電力料金が高いこと(アジアで最高水準)、地場裾野産業の未発達、政策の一貫性への懸念、依然治安や社会情勢が不安であることなどにより、結局はフィリピンへの進出を見合わせ、他国を選択するというケースも少なくない。フィリピンは投資誘致の障害除去や実体以上に悪いイメージの改善などに全力で取り組み、フィリピン進出の流れを一過性のものにしないようにすべきであろう。
ちなみに、今回調査におけるフィリピンの中期的有望の理由としては、現地市場の今後の成長性(比率57.1%)、安価な労働力(54.8%)、第3国輸出拠点として(19.0%)などが挙げられた。一方、課題としては、治安・社会情勢が不安(41.0%)、インフラが未整備(28.2%)、他社との激しい競争(25.6%)、管理職クラスの人材確保が困難(25.6%)、地場裾野産業が未発達(23.1%)などが指摘された。
なおJBICは、今回の調査結果を踏まえ、国際的な競争にさらされている日本企業の海外事業展開支援及び各国・地域の投資環境改善に向けた現地政府当局や関係機関との対話などを引き続き行っていく方針である(18年11月26日の株式会社国際協力銀行プレスリリースなどより)。
日本製造業企業の中期的有望事業展開先国・地域の推移(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
中期的(今後3年程度) | |||||
調査年度 | 2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 |
総回答社数 | 499社 | 433社 | 483社 | 444社 | 431社 |
1位(票数) | インド(229社) | インド(175社) | インド(230社) | 中国(203社) | 中国(225社) |
2位 | インドネシア(228社) | インドネシア(168社) 中国(168社) |
中国(203社) | インド(195社) | インド(199社) |
3位 | 中国(218社) | インドネシア(173社) | ベトナム(169社) | タイ(160社) | |
4位 | タイ(176社) | タイ(133社) | ベトナム(158社) | タイ(153社) | ベトナム(146社) |
5位 | ベトナム(155社) | ベトナム(119社) | タイ(142社) | インドネシア(147社) | インドネシア(131社) |
6位 | メキシコ(101社) | メキシコ(102社) | メキシコ(125社) | 米国(116社) | 米国(124社) |
7位 | ブラジル(83社) | 米国(72社) | 米国(93社) | メキシコ(81社) | メキシコ(59社) |
8位 | 米国(66社) | フィリピン(50社) | フィリピン(51社) | フィリピン(47社) | フィリピン(43社) |
9位 | ロシア(60社) | ブラジル(48社) | ミャンマー(49社) | ミャンマー(40社) | ミャンマー(37社) |
10位 | ミャンマー(55社) | ミャンマー(34社) | ブラジル(35社) | ブラジル(28社) 韓国(28社) |
マレーシア(36社) |
比順位 | 11位(50社) | 8位(50社) | 8位(51社) | 8位(47社) | 8位(43社) |
日本製造業企業の長期的有望事業展開先国・地域の推移・詳細(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
長期的(今後10年程度) | |||||
調査年度 | 2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2017年度 |
総回答社数 | 372社 | 301社 | 364社 | 337社 | 350社 |
1位(票数) | インド(207社) | インド(165社) | インド(226社) | インド(214社) | インド(205社) |
2位 | インドネシア(163社) | インドネシア(109社) | 中国(143社) | 中国(146社) | 中国(164社) |
3位 | 中国(150社) | 中国(105社) | インドネシア(137社) | ベトナム(115社) | インドネシア ベトナム(115社) |
4位 | ベトナム(117社) | ベトナム(82社) | ベトナム(119社) | インドネシア(109社) | |
5位 | タイ(105社) | タイ(70社) | タイ(89社) | タイ(80社) | タイ(105社) |
6位 | ブラジル(91社) | ブラジル(61社) | メキシコ(59社) | 米国(78社) | 米国(76社) |
7位 | ミャンマー(70社) | ミャンマー(57社) | ミャンマー(58社) | ミャンマー(48社) | ミャンマー メキシコ ブラジル(41社) |
8位 | ロシア(65社) | メキシコ(50社) | 米国(55社) | メキシコ(45社) | |
9位 | メキシコ(58社) | 米国(43社) | ブラジル(48社) | ブラジル(43社) | |
10位 | 米国(47社) | ロシア(31社) | フィリピン(33社) | フィリピン(33社) | フィリピン(30社) |
比順位 | 記載なし | 記載なし | 10位(33社) | 10位(33社) | 10位(30社) |