在比日系企業の黒字比率76.2%、ASEANで最高

増益企業比率43.4%、昇給率5.3%:ジェトロ調査

2018/12/21

 日本貿易振興機構(ジェトロ)は、2018年10~11月(中国のみ9月)、北東アジア5カ国・地域、ASEAN9カ国、南西アジア4カ国、オセアニア2カ国の計20カ国・地域に進出する日系企業に対し、現地での活動実態に関するアンケート調査を実施、12月20日にその結果を「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」として発表した。有効回答は5,073社(有効回答率37.8%)であった。そのうち、フィリピンでの回答企業数は127社。調査結果のポイント・要旨、及びフィリピン進出日系企業動向は以下のとおり。
 
1.日系企業の景況感は改善傾向を維持
・営業利益見込み(前年比)は、18年に続き19年も4割以上の企業が「改善」(18年44.3%、29年47.3%)を見込んでいる。19年について「悪化」するとした企業は10.6%と、18年見込み(20.6%)から10ポイント低下した。
 フィリピンでは2018年の営業利益については、43.4%の企業が改善、36.1%が横這い、20.5%が悪化と見込んでいる。2019年については、55.5%が改善、35.3%が横這い、9.2%が悪化と見込んでいる。
・19年の景況感を示すDI値(営業利益が前年比で「改善」した企業の割合から「悪化」した企業の割合を引いた数値)は36.7ポイントとなり、18年見込みと比べ13.1ポイント上昇。改善の理由としては「現地市場での売上増加」が最も多く、「生産効率の改善」、「輸出拡大による売上増加」が続いた。
 
・2018年の営業利益(見込み)を「黒字」とした企業の割合は全体の68.1%で、17年調査(67.4%)から0.7ポイント上昇した。一方、「赤字」とした企業の割合は17.9%となり、17年調査(18.3%)から0.4ポイント低下した。国・地域別の黒字企業の割合は、韓国が84.9%と最も高く、以下台湾が8割、オーストラリア、フィリピン、香港・マカオ、中国、パキスタンで7割を超えた。
 フィリピンの黒字見通し比率は76.2%でASEANで最高、全体でも韓国、台湾、豪州に次ぐ第4位となっている。一方、均衡見通し比率は12.3%。赤字見通し比率は11.5%となっている。
 
2.事業拡大意欲は東南・南西アジア・中国で堅調を維持
・今後1~2年の事業展開の方向性についてみると、全体では「拡大」とする企業の割合は55.1%となり、17年(53.7%)から1.4ポイント上昇した。中国では「拡大」が48.7%となるなど、2016年に40%を回復して以降拡大傾向を維持している。「縮小」もしくは「第三国(地域)への移転・撤退」と回答した企業の割合も6.6%と、2013年以来5年ぶりの低さだった。ASEANでは「拡大」が1.7ポイント上昇し57.4%となるなど、2015年以降拡大を続けている。
・「拡大」の割合をASEANと中国で経年変化比較すると、12年に中国が急落し、以後ASEANが中国を上回る状態が続いている。15年にその差は16.1ポイントまで拡大したが、17年は7.4ポイント、18年には8.7ポイントとなっている。
・事業拡大意欲が高い国は、バングラデシュ(73.2%)、インド(72.8%)、ミャンマー(72.1%)、ベトナム(69.8%)などである。フィリピンでは、「拡大」と回答した企業の割合は52.4%、「現状維持」が46%、「縮小」が1.6%であった。
 
3.最大の経営課題は引き続き賃金上昇。フィリピン賃上げ率は5.3%と比較的穏やか
・経営上の問題点では、「従業員の賃金上昇」を挙げる企業が全体では最も多い65.9%となるも、前年調査からは0.8ポイント低下した。国・地域別にみると、インドネシア(78.2%)、中国(75.7%)、ベトナム(73.0%)、インド(72.3%)、カンボジア(70.9%)が7割を超えた。ただし、カンボジアは前年の82.8%から11.9ポイント改善。
・19年の昇給率(前年度比、全業種平均)は、パキスタン(10.0%)、バングラデシュ(9.6%)、インド(9.6%)、スリランカ(8.1%)、ミャンマー(7.6%)の順で高かった。上位3カ国の顔ぶれは昨年と変わらなかった。中国は13年以降昇給率が1桁台で推移しており、19年は5.9%となる見込み。
 フィリピンの昇給率は2018年が5.3%、2019年も5.3%と比較的緩やかな伸びにとどまっている。したがって、「賃金上昇」を経営上の問題点として上げる比率は50.8%で項目別第3位にとどまっている。ちなみに、第1位は「原材料・部品の現地調達の難しさ」(60.9%)、第2位は「調達コストの上昇」(53.1%)。第4位は「品質管理の難しさ」(50%)である。
 
4.製造業:インドを中心に現地調達率は上昇
・現地での製造原価に占める材料費の比率は約6割となった。
・その低減に向け「現地調達率を引き上げる」とした企業の割合は全体の64.5%に上る。日本からの調達比率を引き上げるとした企業は7.7%と17年調査(13.7%)より低下、逆にASEANからの調達比率を引き上げるとした企業は25.5%と17年調査(22.8%)より上昇。
・国・地域別にみると、中国(66.3%)、ニュージーランド(65.0%)の現地調達率が高く、とりわけ中国の輸送機械器具は71.4%に上った。フィリピンでの現地調達率は28.6%、日本からの調達比率が40.2%、中国からが5.8%、ASEAN諸国からが12.4%などとなっている。
・経年変化をみると、2013年比で南西アジア(インド、パキスタン、スリランカ)とタイ、ベトナム、フィリピン、ミャンマーの現地調達率が上昇した。特に、インドは2013年の43.4%から2018年には55.6%にまで拡大した。
 
5.FTA・EPA活用率は輸入で過去最高
・FTA・EPA活用率は48.3%と5割近くにおよぶ。特に、輸入は過去最高の活用率48.4%に達した。企業規模別にみると、大企業の活用率が51.1%、中小企業は43.9%と大企業での利用が多い中、中小企業では10.3%が検討中と回答し、潜在的利用拡大が期待できる。
・今年度新たに項目を設けた「非関税措置の有無」については、インドネシア(64.9%)、ミャンマー(53.3%)、ラオス(50.0%)において、半数以上の企業が「ある」と回答した。種類別では、「輸入制限」(18.9%)、「基準・認証制度」(15.3%)が上位の回答に挙がった。
 
6.中長期的に高度デジタル技術の活用を検討
・現地ビジネスにて活用しているデジタル技術は、クラウド(27.4%)、電子商取引(EC)(14.3%)、ロボット(10.2%)などが目立つ。
・中長期的(5~10年程度)に活用を検討しているデジタル技術は、IoT(24.7%)、人工知能(AI)(20.3%)の順に高く、企業はより高度なデジタル技術の活用を検討している。業種別にみると、総じて製造業はIoTやロボットの活用を検討し、非製造業では人工知能(AI)を活用したいとする方向にある。
・デジタル技術を活用する理由・背景には、自社の経営方針・判断としてデジタル化が必要とする回答が51.5%と高かった。また、デジタル化で先行するニュージーランド、韓国、オーストラリア、台湾、シンガポールなどでは、顧客ニーズの高さや先行する競合他社の存在が多く挙げられる(18年12月20日の日本貿易振興機構ニュースリリースより)。