在比日系企業の黒字比率76%、ASEANで連続首位
コスト上昇懸念も、現地調達率向上課題:ジェトロ・マニラ
2019/04/29
日本貿易振興機構(ジェトロ)のホームページの4月26日付け地域・分析レポート欄に、石原孝志ジェトロ・マニラ事務所長による「ASEAN最大の黒字企業比率も、調達コストに課題(フィリピン)」が掲載されている。これは、先ごろジェトロが実施・発表した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」からフィリピンの「今」を概観したものである。その内容は次の通り(以下:原文から抜粋)。
<内需向けのビジネスが発展>
外務省によると、2017年10月現在でフィリピンには1,502社の日系企業が進出している。このうち製造業603社は、マニラ首都圏近隣やセブなどの輸出加工区で、半導体、電子部品、電機、自動車部品、建材など多種多様な製品の組み立て加工輸出を行っている。また、ITと豊富な英語人材を活用したアウトソーシングも盛んで、ソフトウエア開発や設計エンジニアリングを行う企業も多い。経済成長に伴って建設と設備投資が増え、ドゥテルテ政権のインフラ整備も本格化しているため、建設や不動産、エネルギーなどの企業進出も続いている。内需拡大を受けて、自動車や二輪車など国内向け製造業も発展し、商業や金融、物流、運輸、小売りなどでもサービスの多様化が進んできた。さらに、フィリピンの英語人材をエンジニアや船員として育成し、世界の現場で活躍してもらう「グローバル人材センター」として活用する日系企業も少なくない。
<黒字企業割合はASEANトップ、労務面では企業負担も>
・2018年の営業利益見込みを「黒字」とした企業の割合は76%と、前年比3ポイント減とはいえ、前年に続いてASEANで最高水準を維持している。順調な経済成長に伴う内需拡大、安定した外需を背景に国内や輸出の売り上げが増加した。全業種で人件費やエネルギー、原材料などのコスト上昇の影響を受けている企業は8割を超えるものの、アンケート結果からは、各社が管理費の削減や調達方法の見直しなどを通じてコスト削減に努めたことが良好な業績に寄与したとみられる。
・フィリピンでのビジネスは好調、という流れはしばらく続きそうだ。今後1~2年の事業展開の方向性を「拡大」とした割合は、2017年度調査より減少したものの、なお半数以上を占めている(2017年度63→2018年度52%)。世界経済や税制改革など先行きに不透明感はあるが、「現地市場での売り上げの増加」、「現地市場の成長性」、「取引先との関係」などを考慮して事業を拡大する方向だ。
・投資先としてのフィリピン最大の魅力は、「人」。以前から、「英語が堪能でコミュニケーションを行いやすい、優秀な労働者を、比較的安いコストで容易に確保できる」という人材に関する強みが高く評価されてきた。しかし、今回の当調査では、経営上の問題点として「従業員の賃金上昇」を指摘する声が増えたほか(46→51%)、「ワーカーの雇いやすさ」に対する評価が下がった(36→30%)。業種と職階を問わず、フィリピンの人件費は引き続き国際競争力が高いものの、ドゥテルテ政権が推進する契約社員の正社員化への対応、人材募集の労力増大など、雇用に伴う企業側の負担が増えている。最近、首都圏近隣だけで必要な人員が集まりにくいケースも出ており、募集地域を地方に拡大する企業もみられる。
<製造業のコスト削減策として現地調達率の向上が課題>
・現状、「生産拠点フィリピン」の国際競争力は高い。日本の製造原価を100としたときのASEAN主要国の製造原価は、フィリピン(72.6→72.7)、ベトナム(72.3→73.1)、マレーシア(78.6→75.8)、インドネシア(83.6→80.9)、タイ(80.0→82.5)となり、フィリピンでの製造原価は総じて低い。
他方で、進行した通貨ペソ安を背景に、「調達コストの上昇」を懸念するメーカーが急増しており(33→53%)、経費節減のために現地調達率の向上が課題となっている。しかし、近隣国に比べて製造業の比重が低いフィリピンでは部品メーカーが十分集積しておらず、依然として「現地調達は困難」とする回答が多い(54→61%)。
・原材料・部品の調達先を2013年と2018年で比較すると、日本(42→40%)、現地(28→29%)、ASEAN(11→12%)、中国(9→6%)と、大きな変化は生じていないが、今後調達率を高めたい国・地域としては、現地が58%、ASEANが42%、日本が17%、中国が7%と、コスト削減につながりやすい現地または近隣国での調達率向上を目指すメーカーが多い。なお、2018年における現地調達先の内訳は、日系企業が58%、地場企業が37%、日本以外の外資系企業が5%となっている。
<現行の税制優遇措置を再評価も輸入通関関連は悪化>
・投資環境上のメリットに関する回答には、今回の当調査は税制改革第2パッケージ(2018年12月13日付ビジネス短信参照)の国会審議中に実施したこともあり、法人所得税の減免、関税や付加価値税の免除など、改めて現行の税制優遇措置を高く評価する声が急増した(22→40%)。一方で、デメリットとして、煩雑な税務手続きを憂慮する声も高まっている(38→50%)。2018年に審議された税制改革第2パッケージ法案がそのまま施行された場合、現在、フィリピン経済区庁(PEZA)などの投資誘致機関に一括納付している法人税は、今後、税務署と地方自治体に直接納めなければならない。これまで免除されていた付加価値税や関税を新たに賦課された企業は、税務署や税関と個別に折衝することになるが、付加価値税の還付手続きの実効性を憂慮する声も少なくない。税制改革第2パッケージの法案審議は、2019年7月以降の次期国会で再開される見込みである。
・また、唐突に発表される制令、運用方法が不明瞭な制度、関係省庁で十分に調整されないまま施行される政策など、フィリピン政府の不透明な政策運営に対する不満は増加している(49→60%)。他方で、ドゥテルテ政権が注力する治安対策により、不安定な政治社会情勢に対する懸念は和らいできている(56→45)。現政権発足後、犯罪発生件数は減少、対外的な関係はおおむね良好、安定的な経済成長を維持、2018年に進行したインフレも沈静化に向かっていることから、政権支持率は高水準で推移している。
・現政権の看板政策であるインフラ整備も本格化しているが、港湾の渋滞は悪化している。輸入港への貨物到着から輸入通関手続き完了までに要する日数は、海上貨物(10.07→10.34日)、航空貨物(3.60→3.84日)と悪化傾向にあり、「過去2~3年間で輸入通関手続きは効率化したか」との問いに対しても、「改善した(37→17%)」、「変化なし(39→34%)」、「悪化した(5→12%)」と、通関手続きの悪化を指摘する声が増えている。具体的には、内需拡大で中国などからの輸入が急増して輸入超過になった結果、空コンテナでコンテナヤードが混雑するとともに、港湾インフラの整備工事や台風による船の渋滞が生じた上、老朽化した通関情報システムが混雑時に機能低下するといった問題が複合的に状況を悪化させている(19年4月26日の日本貿易振興機構の地域・分析レポートより)。
<内需向けのビジネスが発展>
外務省によると、2017年10月現在でフィリピンには1,502社の日系企業が進出している。このうち製造業603社は、マニラ首都圏近隣やセブなどの輸出加工区で、半導体、電子部品、電機、自動車部品、建材など多種多様な製品の組み立て加工輸出を行っている。また、ITと豊富な英語人材を活用したアウトソーシングも盛んで、ソフトウエア開発や設計エンジニアリングを行う企業も多い。経済成長に伴って建設と設備投資が増え、ドゥテルテ政権のインフラ整備も本格化しているため、建設や不動産、エネルギーなどの企業進出も続いている。内需拡大を受けて、自動車や二輪車など国内向け製造業も発展し、商業や金融、物流、運輸、小売りなどでもサービスの多様化が進んできた。さらに、フィリピンの英語人材をエンジニアや船員として育成し、世界の現場で活躍してもらう「グローバル人材センター」として活用する日系企業も少なくない。
<黒字企業割合はASEANトップ、労務面では企業負担も>
・2018年の営業利益見込みを「黒字」とした企業の割合は76%と、前年比3ポイント減とはいえ、前年に続いてASEANで最高水準を維持している。順調な経済成長に伴う内需拡大、安定した外需を背景に国内や輸出の売り上げが増加した。全業種で人件費やエネルギー、原材料などのコスト上昇の影響を受けている企業は8割を超えるものの、アンケート結果からは、各社が管理費の削減や調達方法の見直しなどを通じてコスト削減に努めたことが良好な業績に寄与したとみられる。
・フィリピンでのビジネスは好調、という流れはしばらく続きそうだ。今後1~2年の事業展開の方向性を「拡大」とした割合は、2017年度調査より減少したものの、なお半数以上を占めている(2017年度63→2018年度52%)。世界経済や税制改革など先行きに不透明感はあるが、「現地市場での売り上げの増加」、「現地市場の成長性」、「取引先との関係」などを考慮して事業を拡大する方向だ。
・投資先としてのフィリピン最大の魅力は、「人」。以前から、「英語が堪能でコミュニケーションを行いやすい、優秀な労働者を、比較的安いコストで容易に確保できる」という人材に関する強みが高く評価されてきた。しかし、今回の当調査では、経営上の問題点として「従業員の賃金上昇」を指摘する声が増えたほか(46→51%)、「ワーカーの雇いやすさ」に対する評価が下がった(36→30%)。業種と職階を問わず、フィリピンの人件費は引き続き国際競争力が高いものの、ドゥテルテ政権が推進する契約社員の正社員化への対応、人材募集の労力増大など、雇用に伴う企業側の負担が増えている。最近、首都圏近隣だけで必要な人員が集まりにくいケースも出ており、募集地域を地方に拡大する企業もみられる。
<製造業のコスト削減策として現地調達率の向上が課題>
・現状、「生産拠点フィリピン」の国際競争力は高い。日本の製造原価を100としたときのASEAN主要国の製造原価は、フィリピン(72.6→72.7)、ベトナム(72.3→73.1)、マレーシア(78.6→75.8)、インドネシア(83.6→80.9)、タイ(80.0→82.5)となり、フィリピンでの製造原価は総じて低い。
他方で、進行した通貨ペソ安を背景に、「調達コストの上昇」を懸念するメーカーが急増しており(33→53%)、経費節減のために現地調達率の向上が課題となっている。しかし、近隣国に比べて製造業の比重が低いフィリピンでは部品メーカーが十分集積しておらず、依然として「現地調達は困難」とする回答が多い(54→61%)。
・原材料・部品の調達先を2013年と2018年で比較すると、日本(42→40%)、現地(28→29%)、ASEAN(11→12%)、中国(9→6%)と、大きな変化は生じていないが、今後調達率を高めたい国・地域としては、現地が58%、ASEANが42%、日本が17%、中国が7%と、コスト削減につながりやすい現地または近隣国での調達率向上を目指すメーカーが多い。なお、2018年における現地調達先の内訳は、日系企業が58%、地場企業が37%、日本以外の外資系企業が5%となっている。
<現行の税制優遇措置を再評価も輸入通関関連は悪化>
・投資環境上のメリットに関する回答には、今回の当調査は税制改革第2パッケージ(2018年12月13日付ビジネス短信参照)の国会審議中に実施したこともあり、法人所得税の減免、関税や付加価値税の免除など、改めて現行の税制優遇措置を高く評価する声が急増した(22→40%)。一方で、デメリットとして、煩雑な税務手続きを憂慮する声も高まっている(38→50%)。2018年に審議された税制改革第2パッケージ法案がそのまま施行された場合、現在、フィリピン経済区庁(PEZA)などの投資誘致機関に一括納付している法人税は、今後、税務署と地方自治体に直接納めなければならない。これまで免除されていた付加価値税や関税を新たに賦課された企業は、税務署や税関と個別に折衝することになるが、付加価値税の還付手続きの実効性を憂慮する声も少なくない。税制改革第2パッケージの法案審議は、2019年7月以降の次期国会で再開される見込みである。
・また、唐突に発表される制令、運用方法が不明瞭な制度、関係省庁で十分に調整されないまま施行される政策など、フィリピン政府の不透明な政策運営に対する不満は増加している(49→60%)。他方で、ドゥテルテ政権が注力する治安対策により、不安定な政治社会情勢に対する懸念は和らいできている(56→45)。現政権発足後、犯罪発生件数は減少、対外的な関係はおおむね良好、安定的な経済成長を維持、2018年に進行したインフレも沈静化に向かっていることから、政権支持率は高水準で推移している。
・現政権の看板政策であるインフラ整備も本格化しているが、港湾の渋滞は悪化している。輸入港への貨物到着から輸入通関手続き完了までに要する日数は、海上貨物(10.07→10.34日)、航空貨物(3.60→3.84日)と悪化傾向にあり、「過去2~3年間で輸入通関手続きは効率化したか」との問いに対しても、「改善した(37→17%)」、「変化なし(39→34%)」、「悪化した(5→12%)」と、通関手続きの悪化を指摘する声が増えている。具体的には、内需拡大で中国などからの輸入が急増して輸入超過になった結果、空コンテナでコンテナヤードが混雑するとともに、港湾インフラの整備工事や台風による船の渋滞が生じた上、老朽化した通関情報システムが混雑時に機能低下するといった問題が複合的に状況を悪化させている(19年4月26日の日本貿易振興機構の地域・分析レポートより)。