在比日系企業の営業黒字比率69%、ASEAN首位
工場生産性最高、昇給率5.7%と穏やか:ジェトロ調査
2019/11/25
日本貿易振興機構(ジェトロ)は、2019年10~11月、北東アジア5カ国・地域、ASEAN9カ国、南西アジア4カ国、オセアニア2カ国の計20カ国・地域に進出する日系企業に対し、現地での活動実態に関するアンケート調査を実施、11月21日にその結果(有効回答は5,697社)を「2019年度アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」結果として発表した。
この調査結果のポイントとして、1.ほぼすべての国・地域で日系企業の景況感が悪化、事業拡大意欲も低下。景況感では、北東アジア(中国、韓国、台湾、香港)が10年ぶりに全ての国・地域でマイナス、2.米中貿易摩擦など通商環境の変化のマイナスの影響は北東アジアで相対的高い。実際に生産地・調達先・販売先を変更した企業は1割にとどまる、3.FTA・EPA活用率が初の「50%台に向上が挙げられている。
上記調査に関して、ジェトロのマニラ事務所もフィリピン進出日系企業に関して発表した。フィリピンでの回答企業数は139社(製造業73社、非製造業66社)であり、前回2018年の127社(製造業69社、非製造業58社)から増加している。フィリピン進出日系企業動向や全体、他の国・地域との比較は以下のとおり。
<フィリピン進出日系企業の動向など>
・2019年の営業黒字比率69.2%、ASEANで連続首位
2019年の営業損益に関しては回答企業69.2%が黒字を想定している。台湾80.9%、豪州79.9%、韓国79.1%に次ぐ全地域で4位、ASEANのなかでは前回(76.2%)に続き3年連続で首位を維持している。2020年に営業利益の更なる改善を見込む企業も44.4%と高水準。 景況感を示すDI値は2019年が12.9%、2020年が32.3でアセアンの中で各々5位となっている。
・製造原価はASEAN主要国で最低、生産性は最高
日本の製造原価を100としたときのフィリピン製造原価は72.8で、ベトナムの73.9、マレーシアの78.7、タイの79.8、インドネシアの81.9を下回り、ASEAN主要国で最低となっている。一方、日本の工場を100とした場合のフィリピンの生産性は86.27で、タイの80.08、ベトナムの79.96、マレーシアの76.20、インドネシアの74.40を上回り、ASEAN主要国で最高である。現地での原材料・部品の調達先は日系企業67%、地場企業27%、その他外資系企業5%となっている。
・事業拡大方針51.8%、縮小・撤退方針3.6%
2020~2021年の事業展開の方向性は「拡大」が51.8%、「現状維持」44.6%、「縮小・第3国へ移転・撤退」が3.6%だった。 ちなみに、全地域では「拡大」が48.9%、「縮小・第3国へ移転・撤退」が4.7%であった。フィリピンでは駐在員数をしばらく現状維持する企業が多く、現地スタッフ数は「増員」と「現状維持」とする企業数がほぼ半々となった。
・米中貿易摩擦などの影響なしとの比率31%
在アジア・オセアニア日系企業は、全体として中国、米国からの調達、両国向け輸出の割合が小さい。マイナスの影響では、中国などの北東アジアが3割以上と相対的に高く、ASEANなどの企業では2割以下。フィリピンでは、影響なし31%、マイナスの影響あり14%、マイナスとプラスの影響あり8%、プラスの影響あり6%等となっている。通商環境の変化により、フィリピンへの生産拠点移転を検討する日系企業数は、香港・マカオ5社、シンガポール5社、台湾3社、中国2社、インドネシア1社、マレーシア1社の合計17社となっている。フィリピンから生産拠点を移管する在フィリピン日系企業は殆どなし。
・昇給率5.7%と穏やか、賃金上昇問題は経営課題の第4位
経営上の問題点(複数回答)は、1位が原材料・部品の調達の難しさ58.6%(前回60.9%)、2位が品質管理の難しさ58.6%(48.4%)、3位が従業員の質53.3%(45.2%)、4位が賃金上昇44.5%(50.8%)、5位が人材(技術者)の採用難44.4%(36.3%)など。
賃金上昇問題が4位であり、全地域(65.8%で1位)、ASEAN(ほとんどの国が1位)と比べると低位であることが特徴である。フィリピンの昇給率(現地通貨ベース)は2018年が5.3%、2019年5.7%、2020年見込みも5.0%と比較的緩やかな伸びにとどまっている。2019年はインドネシアの7.6%、ベトナムの7.3%をかなり下回っている。ドルベースで見た人件費総額(年間)についても比較的低水準であり、製造業のワーカーではフィリピンが3,916米ドルでベトナムの4,041米ドルを下回っている。製造業・非製造業を問わず、管理者の人件費を見ると、フィリピンはベトナムと同じような水準にある。 ただし、フィリピンでの豊富な労働力を評価する声は大きかったが、従業員(技術者、中間管理職)の人材確保、従業員の質に問題を抱える日系企業が増えた。また、ASEAN各国に比べ、フィリピンには、従業員の離職率の高さ、労働争議・訴訟を懸念する日系企業が多い。
・生産性からみた最低賃金の妥当性、フィリピンが1位
今年度新たに設けた「生産性」を聞いた質問では、生産性からみた所在国・地域の最低賃金を妥当であると回答した企業の割合はフィリピン74.2%、ラオス66.7%、ミャンマー60.9%の順で高く、インドネシア23.7%、カンボジア24.2%、オーストラリア27.3%の順で低かった。
・税務複雑化を警戒、輸入通関手続き改善要望
前回調査に引き続き「税制面のインセンティブ」は高く評価される一方、煩雑な税務を問題として指摘する声も大きい。国会で審議中の税制改革第2パッケージによって、税制優遇措置が切り下げられ、税務が複雑化することを警戒する日系企業が多いことが窺われる。輸入通関手続きについては、依然として改善を求める声が多い。貿易制度や手続きに関する情報をオンラインで事前に公開し、各種手続きを電子化するとともに、港湾等の物流を効率化することなどが望まれている。
・裾野産業未発達、優秀なサプライヤー確保に苦労
現地での原材料、部品の調達に努める日系企業が多いものの、「裾野産業が集積(現地調達が容易)」の回答率はASEAN最低であり、品質等の要求レベルを満たすサプライヤー確保に苦労している状況が窺われる。また、熟練した技術者が不足しているせいか、品質管理の難しさを指摘する企業が急増している。さらに、管理費等の節減によるコスト削減も限界に近づいており、税制改革等の制度改正で管理業務が増えるとコスト増加を招くことが懸念される。
・デジタル技術導入着実に増加、クラウド活用比率35%
フィリピンは人件費が比較的低廉なため、デジタル投資を通じた生産性改善を図る日系企業は未だ多くはないが、前回に比べて、IoTや人工知能、ロボット等のデジタル技術を導入した日系企業は着実に増加している。現在の活用比率(複数回答)はクラウド35%、電子商取引20%、ロボット18%、デジタルマーケティング11%、IoT11%など。また、現地スタートアップ企業と連携して現地や日本、ASEAN等の市場展開を狙う日系企業も少なくない。連携してターゲットにする市場は 現地39%、日本23%、ASEAN27%など。
この調査結果のポイントとして、1.ほぼすべての国・地域で日系企業の景況感が悪化、事業拡大意欲も低下。景況感では、北東アジア(中国、韓国、台湾、香港)が10年ぶりに全ての国・地域でマイナス、2.米中貿易摩擦など通商環境の変化のマイナスの影響は北東アジアで相対的高い。実際に生産地・調達先・販売先を変更した企業は1割にとどまる、3.FTA・EPA活用率が初の「50%台に向上が挙げられている。
上記調査に関して、ジェトロのマニラ事務所もフィリピン進出日系企業に関して発表した。フィリピンでの回答企業数は139社(製造業73社、非製造業66社)であり、前回2018年の127社(製造業69社、非製造業58社)から増加している。フィリピン進出日系企業動向や全体、他の国・地域との比較は以下のとおり。
<フィリピン進出日系企業の動向など>
・2019年の営業黒字比率69.2%、ASEANで連続首位
2019年の営業損益に関しては回答企業69.2%が黒字を想定している。台湾80.9%、豪州79.9%、韓国79.1%に次ぐ全地域で4位、ASEANのなかでは前回(76.2%)に続き3年連続で首位を維持している。2020年に営業利益の更なる改善を見込む企業も44.4%と高水準。 景況感を示すDI値は2019年が12.9%、2020年が32.3でアセアンの中で各々5位となっている。
・製造原価はASEAN主要国で最低、生産性は最高
日本の製造原価を100としたときのフィリピン製造原価は72.8で、ベトナムの73.9、マレーシアの78.7、タイの79.8、インドネシアの81.9を下回り、ASEAN主要国で最低となっている。一方、日本の工場を100とした場合のフィリピンの生産性は86.27で、タイの80.08、ベトナムの79.96、マレーシアの76.20、インドネシアの74.40を上回り、ASEAN主要国で最高である。現地での原材料・部品の調達先は日系企業67%、地場企業27%、その他外資系企業5%となっている。
・事業拡大方針51.8%、縮小・撤退方針3.6%
2020~2021年の事業展開の方向性は「拡大」が51.8%、「現状維持」44.6%、「縮小・第3国へ移転・撤退」が3.6%だった。 ちなみに、全地域では「拡大」が48.9%、「縮小・第3国へ移転・撤退」が4.7%であった。フィリピンでは駐在員数をしばらく現状維持する企業が多く、現地スタッフ数は「増員」と「現状維持」とする企業数がほぼ半々となった。
・米中貿易摩擦などの影響なしとの比率31%
在アジア・オセアニア日系企業は、全体として中国、米国からの調達、両国向け輸出の割合が小さい。マイナスの影響では、中国などの北東アジアが3割以上と相対的に高く、ASEANなどの企業では2割以下。フィリピンでは、影響なし31%、マイナスの影響あり14%、マイナスとプラスの影響あり8%、プラスの影響あり6%等となっている。通商環境の変化により、フィリピンへの生産拠点移転を検討する日系企業数は、香港・マカオ5社、シンガポール5社、台湾3社、中国2社、インドネシア1社、マレーシア1社の合計17社となっている。フィリピンから生産拠点を移管する在フィリピン日系企業は殆どなし。
・昇給率5.7%と穏やか、賃金上昇問題は経営課題の第4位
経営上の問題点(複数回答)は、1位が原材料・部品の調達の難しさ58.6%(前回60.9%)、2位が品質管理の難しさ58.6%(48.4%)、3位が従業員の質53.3%(45.2%)、4位が賃金上昇44.5%(50.8%)、5位が人材(技術者)の採用難44.4%(36.3%)など。
賃金上昇問題が4位であり、全地域(65.8%で1位)、ASEAN(ほとんどの国が1位)と比べると低位であることが特徴である。フィリピンの昇給率(現地通貨ベース)は2018年が5.3%、2019年5.7%、2020年見込みも5.0%と比較的緩やかな伸びにとどまっている。2019年はインドネシアの7.6%、ベトナムの7.3%をかなり下回っている。ドルベースで見た人件費総額(年間)についても比較的低水準であり、製造業のワーカーではフィリピンが3,916米ドルでベトナムの4,041米ドルを下回っている。製造業・非製造業を問わず、管理者の人件費を見ると、フィリピンはベトナムと同じような水準にある。 ただし、フィリピンでの豊富な労働力を評価する声は大きかったが、従業員(技術者、中間管理職)の人材確保、従業員の質に問題を抱える日系企業が増えた。また、ASEAN各国に比べ、フィリピンには、従業員の離職率の高さ、労働争議・訴訟を懸念する日系企業が多い。
・生産性からみた最低賃金の妥当性、フィリピンが1位
今年度新たに設けた「生産性」を聞いた質問では、生産性からみた所在国・地域の最低賃金を妥当であると回答した企業の割合はフィリピン74.2%、ラオス66.7%、ミャンマー60.9%の順で高く、インドネシア23.7%、カンボジア24.2%、オーストラリア27.3%の順で低かった。
・税務複雑化を警戒、輸入通関手続き改善要望
前回調査に引き続き「税制面のインセンティブ」は高く評価される一方、煩雑な税務を問題として指摘する声も大きい。国会で審議中の税制改革第2パッケージによって、税制優遇措置が切り下げられ、税務が複雑化することを警戒する日系企業が多いことが窺われる。輸入通関手続きについては、依然として改善を求める声が多い。貿易制度や手続きに関する情報をオンラインで事前に公開し、各種手続きを電子化するとともに、港湾等の物流を効率化することなどが望まれている。
・裾野産業未発達、優秀なサプライヤー確保に苦労
現地での原材料、部品の調達に努める日系企業が多いものの、「裾野産業が集積(現地調達が容易)」の回答率はASEAN最低であり、品質等の要求レベルを満たすサプライヤー確保に苦労している状況が窺われる。また、熟練した技術者が不足しているせいか、品質管理の難しさを指摘する企業が急増している。さらに、管理費等の節減によるコスト削減も限界に近づいており、税制改革等の制度改正で管理業務が増えるとコスト増加を招くことが懸念される。
・デジタル技術導入着実に増加、クラウド活用比率35%
フィリピンは人件費が比較的低廉なため、デジタル投資を通じた生産性改善を図る日系企業は未だ多くはないが、前回に比べて、IoTや人工知能、ロボット等のデジタル技術を導入した日系企業は着実に増加している。現在の活用比率(複数回答)はクラウド35%、電子商取引20%、ロボット18%、デジタルマーケティング11%、IoT11%など。また、現地スタートアップ企業と連携して現地や日本、ASEAN等の市場展開を狙う日系企業も少なくない。連携してターゲットにする市場は 現地39%、日本23%、ASEAN27%など。
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