住友鉱、比事業拡大・資源高度有効活用が進展

コーラルベイニッケルやタガニートHPAL等へ高評価

2019/12/27

  住友金属鉱山(住友鉱、本社:東京都港区)のフィリピンでの事業基盤拡大、資源高度有効活用が進展している。

 世界のニッケル資源の確保には、低品位鉱石からのニッケル分の回収が必須となっている。住友鉱は従来回収困難であった低品位のニッケル酸化鉱からニッケルおよびコバルトを回収する技術であるHPAL(High Pressure Acid Leach =高圧硫酸浸出)の商業生産化に世界で初めて成功し、2005年からフィリピンのコーラルベイ・ニッケル・コーポレーション(CBNC、所在地:パラワン島)で、ニッケル中間製品であるMS(ニッケル・コバルト混合硫化物)の生産を開始した。2009年4月にはCBNC における第2工場の垂直立ち上げを完了し、同社の生産能力を年間1万トンから2万4千トン(ニッケル量換算)へ増加させた。
 
 このような実績を背景として、住友鉱はHPAL技術を用いたタガニート・プロジェクトを2013年に完成させ世界トップクラスのニッケル製錬メーカーの地位を固めた。タガニート・プロジェクトにおいては、傘下のタガニートHPAL社(THPAL)がミンダナオ島北東部タガニート地区にて、MS(ニッケル品位約57%)を年間3万トン(ニッケル量換算、以下同様)から3万6千トンへと高めている。THPALの資本金は40億9,500万ペソ、出資比率は住友金属鉱山75%、ニッケル・アジア(NAC)10%、三井物産15%となっている。

 住友鉱は、HPALからの新たな有価金属の回収を事業化し、競争力強化に努めつつある。具体的には、希土類元素(レアアース)の一つであるスカンジウムの生産である。スカンジウム(元素記号:Sc)は希土類元素の一つで、1879年に発見された。銀白色の金属で比重は2.99。アルミニウムの強度、耐熱性、耐食性を高め るための添加物、固体酸化物形燃料電池の電解質のほか、メタルハライドランプ、アルカリ電池の電極等に使用される。
 
 タガニートなどではHPAL法によりニッケル・コバルト混合硫化物が生産されているが、その原料鉱石中に微量のスカンジウムが含まれている。住友鉱は、ニッケル・コバルト混合硫化物の製造工程からスカンジウムを効率的に回収する技術を確立した。また、主にステンレス鋼の原料となるクロマイトの回収事業へも参入しつつある。タガニートHPAL ニッケル社にクロマイトの回収プラントを建設THPALのニッケル・コバルト混合硫化物の製造工程から回収する。

 住友鉱は、ニッケル・コバルトのみならずスカンジウムやクロマイトなどの副産物を効率的に回収することでHPAL 技術(のコスト競争力を高める。また、ニッケル事業の主要な製品供給先であるステンレス業界向けに新たな素材を提供することで、世界のニッケル事業における当社の存在感を更に向上させて行く方針である。

 上記のようなフィリピン事業の核となるCBNCやタガニートHPAL社が現地でも高い評価を得ている。CBNCは、このほど、ASEANより、2019年ASEANミネラルアワード(AMA)を受賞、金属製錬部門において、持続可能な鉱物開発のベストプラクティス企業として第1位を獲得した。AMAは隔年で開催されるイベントで、ASEAN各国の資源産業促進のため、鉱物製錬業に優れた企業を表彰するものである。2017年に開始され、今年で2回目となる。

 更にCBNCは、このたびフィリピン環境天然資源省より「2019年鉱物産業環境大統領賞」(2019PMIEA)で「プラチナム賞(大統領賞に次ぐ第2位)」を受賞した。本件は金属製錬部門での受賞であるが、プラントにおける環境管理、安全管理、地域環境保護および地域貢献などを総合的に評価された上で決定される。PMIEA受賞とあわせて、CBNCは「最優秀鉱山安全賞」を受賞、「鉱物森林計画最優秀賞」では第2位を受賞した。

 また、タガニートHPALニッケル社についてもチタン賞(大統領賞、プラチナム賞に次ぐ第3位)を受賞した。TPALは、2016年と2017年にも{チタン賞」、2018年には「プラチナム賞」を受賞しており、4年連続での受賞となる。また、「「最優秀鉱山安全賞」ではCBCNに次ぐ第2位を受賞した。

 PMIEAは、フィリピンの鉱物産業において最も栄誉ある賞である。PMIEAにおいて、「プラチナム賞」、「チタン賞」を受賞したことは、CBNCとTHPALが安全かつ環境に配慮した操業を継続していることが認められたものと考えられる。

<HPAL(High Pressure Acid Leach:高圧硫酸浸出>
 高温高圧のオートクレーブで硫酸を使って酸化鉱からニッケル、コバルトを抽出する。オートクレーブ内の状態をコントロールすることが難しいため、これまで商業的に成功した例がなかったが、制御法など多くの技術的課題を克服し、住友鉱は世界で初めて商業生産に成功した。2007年委は「日経ものづくり大賞」、2009年には「大河内記念生産賞を受賞するなど、世界トップクラスの効率的な生産を実現している(19年12月25日の住友金属鉱山株式会社ニュースリリースなどより)。