第1四半期成長率-0.2%、約21年ぶりのマイナスに

鉱工業-3.0%、サービス+1.4%、民間消費+0.2%

2020/05/08

 フィリピン統計庁(PSA)発表の速報値によると、2020年第1四半期(1月~3月)の国内総生産(GDP)実質成長率は前年同期比(以下、同様)-0.2%となり、前年同期の5.7%、前期(2019年第4四半期)の6.7%から急悪化した。1998年第4四半期以来約21年ぶりのマイナス成長となった。主に、製造業、輸送・倉庫業、宿泊施設・外食サービス業の大幅な鈍化が影響した。

 国家経済開発庁(NEDA)のチュア長官代行は、「今年1月のタール火山噴火から始まり、2月には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより観光部門や商業部門が大幅に落ち込み、3月はルソン全域及び国内のその他地域で強化されたコミュニティー隔離(ECQ)措置が実施されるなど、第1四半期は全く予期せぬ社会経済危機とショックに相次いで見舞われた。COVID-19がフィリピンの堅調な成長・発展見通しに重大な課題をもたらした。実質GDP成長率がマイナスに落ち込んだのは、アジア経済危機並びにエル・ニーニョ問題に悩まされた1998年第4四半期以降初めてのことである」と説明した。

 第1四半期の実質GDPに対する各セクターのシェアは、農林水産業9.9%、工業29.9%、サービス産業60.3%。農林水産業、工業の実質成長率は-0.4%、-3.0%とそれぞれ鈍化した。その一方で、サービス産業の実質成長率は1.4%とプラス成長を維持。卸売小売・車両修理業、金融・保険業などに下支えされた。

 支出項目別では、総資本形成(GCF)が-18.3%、輸出は-3.0%、GDPのマイナス勘定となる輸入は-9.0%。一方、民間最終消費支出(HFCE)は0.2%、政府最終消費支出(GFCE)は7.1%とそれぞれプラス成長となった。



 産業・支出項目別実質GDP成長率(年率)の推移(2018年基準:単位:%)
項目 シェア 四半期成長率
20年 18年 19年 20年
期間 1Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q
GNI(国民総所得) 100.0 6.0 5.7 6.1 5.9 5.0 4.9 5.2 5.8 -0.6
GDP(国民総生産) 90.5 6.5 6.4 6.1 6.4 5.7 5.4 6.3 6.7 -0.2
NPI(海外からの純所得) 9.5 2.3 -0.9 5.4 1.3 -1.6 0.3 -4.6 -2.8 -4.4
セクター別内訳
GDP(国民総生産) 100.0 6.5 6.4 6.1 6.4 5.7 5.4 6.3 6.7 -0.2
農林水産業 9.9 2.6 0.0 0.0 1.6 0.5 0.7 3.0 0.8 -0.4
工業 29.9 7.0 7.5 6.6 8.0 4.9 2.5 5.4 6.0 -3.0
 鉱業 0.8 5.5 -2.4 -1.6 7.3 3.4 14.2 -3.5 -4.0 -22.3
 製造業 19.7 6.4 7.0 4.0 3.4 5.2 2.0 0.9 4.3 -3.6
 光熱・水道 3.1 7.7 5.3 5.9 7.3 3.4 8.1 7.3 7.3 5.3
 建設 6.3 8.7 11.0 14.5 21.9 5.0 -0.1 15.3 10.7 -1.8
サービス産業 60.3 6.9 6.8 6.8 6.5 7.1 7.5 7.3 8.1 1.4
 卸小売業・車両修理 16.2 5.3 6.3 5.3 6.5 7.0 8.6 8.3 8.5 1.1
 輸送・倉庫 3.8 8.8 7.7 10.9 3.6 6.8 6.1 7.9 4.7 -10.7
 宿泊施設・外食サービス 2.0 11.6 8.2 7.2 7.7 6.0 4.9 6.0 7.8 -15.3
 情報・通信 3.1 8.1 8.0 4.7 5.9 9.9 5.6 5.5 5.3 5.7
 金融・保険 10.1 8.7 8.6 8.4 7.7 12.1 10.7 12.8 12.1 9.6
 不動産・賃貸 6.8 6.2 6.4 5.6 3.3 5.1 4.9 6.2 4.5 2.2
 専門的ビジネスサービス 5.5 5.3 3.7 4.0 2.5 1.1 3.0 2.7 2.2 0.7
 行政・国防・義務的社会保障 4.3 13.2 15.0 17.8 14.7 11.7 11.4 8.7 21.3 5.2
 教育 4.1 5.4 5.6 11.1 14.5 5.1 12.0 2.1 4.5 0.9
 医療・社会福祉 1.9 2.1 -1.7 -1.9 0.5 3.0 -0.6 5.8 9.2 9.2
 その他サービス 2.4 5.0 5.0 3.6 4.3 6.7 6.6 5.2 7.3 -7.6
支出別内訳
民間最終消費支出 74.5 5.8 6.2 5.5 5.5 6.2 5.6 6.0 5.7 0.2
政府最終消費支出 12.7 13.9 12.3 14.4 13.2 6.4 6.8 8.8 17.0 7.1
総資本形成 21.0 3.5 15.2 16.8 9.2 9.8 -0.8 -0.1 2.5 -18.3
 総固定資本形成 24.1 9.7 17.7 14.5 9.7 7.8 -2.9 5.9 5.8 -4.3
 在庫変動 -3.1 - - - - - - - - -
 貴重品 0.0 * * 125.3 -32.8 -76.9 -14.1 182.9 -68.9 -29.6
財貨・サービス輸出 30.3 13.0 11.2 10.0 13.4 4.2 3.1 1.8 0.3 -3.0
財貨・サービス輸入(控除) 38.9 9.9 18.6 18.0 12.0 8.9 0.1 -0.1 -0.7 -9.0
(出所:フィリピン統計庁資料より作成、* ≧1000%)

 フィリピン統計庁(PSA)は4月20日、国内総生産(GDP)など国民勘定統計の基準年度を、それまでの2000年から2018年へと変更すると発表した。フィリピンの2000年基準(旧基準)は長らく変更されておらず、インドネシア、ベトナム、マレーシアの2010年基準、ラオスの2012年基準などと比べ古さが目立つことから、変更されることになった。今回のGDP統計などの発表から、2018年基準(新基準)となった。

 これに伴い、2000年から2019年までの年間及び四半期毎の産業別、支出別GDP成長率などが、新基準ベースで見直され、改訂が行われた。まず。直近の2019年のGDP実質(以下同様)成長率は、旧基準では5.9%であったが、新基準では6.0%へと上方改訂された。特に、第4四半期(10月~12月)が同じく6.4%から6.7%へと大幅上方改訂された。

 2001年から2019年までの19年間のGDP平均年間成長率は、旧基準の5.4%に対し新基準では5.5%となる。19年間で最高となった2010年の成長率は、旧基準では7.6%であったが、新基準では7.3%へと下方改訂された。一方、最低成長率はリーマン・ショック直後の2009年に記録されたが、旧基準での1.1%が新基準では1.4%へと上方改訂された。

 フィリピンのGDP実質成長率の推移(単位:%)
06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
2018年基準 5.3 6.5 4.3 1.4 7.3 3.9 6.9 6.8 6.3 6.3 7.1 6.9 6.3 6.0
2000年基準 5.2 6.6 4.2 1.1 7.6 3.7 6.7 7.1 6.1 6.1 6.9 6.7 6.2 5.9
(出所:フィリピン統計庁資料より作成)