日本で14年ぶりの狂犬病発症、フィリピンで感染と推定

06年に比旅行中犬に咬まれ帰国後発病・死亡症例が2例

2020/05/23

  日本厚生労働省は、5月22日、「豊橋市及び静岡市から、フィリピンからの入国者が、現地で狂犬病ウイルスに感染し、日本国内で発症したことが報告された」と発表した。なお、狂犬病は、通常、ヒト-ヒト感染することはなく、感染した患者から感染が拡大することはない。

1.豊橋市の発症例
 5月19日、豊橋市内の医療機関から豊橋市保健所に狂犬病疑いの報告があり、国立感染症研究所へ遺伝子検査を依頼したところ、5月22日に狂犬病ウイルス陽性であると連絡があった。経過や遺伝子解析の結果から、フィリピンで感染したと推定される。

 患者(居住地:豊橋市外)は、2019年9月ごろフィリピンにて左足首を犬に咬まれた(受診なし)。そして、今年2月14日フィリピンから日本へ入国、 5月11日に足首の痛み、13日に恐水症状、食欲不振、腰痛、14日に腹痛、嘔吐という症状が出て、18日に豊橋市内の医療機関を受診、ICUへ入院、19日に検体採取し国立感染症研究所へ検査を依頼、22日に「PCR検査の結果、狂犬病ウイルス遺伝子が検出された。 また、塩基配列を決定した結果、フィリピンで流行しているウイルス配列と非常に高い相同性を示した」との連絡を受理した。フィリピンで狂犬病に感染した犬に咬まれたことにより、狂犬病に感染したと推定される(本人周辺の方からの聞き取りでは入国後に動物との接触歴はなし)。

2.静岡市での発症例
 患者(居住地:静岡市)は2019年9月ごろフィリピンにて左足首を犬に咬まれた(受診なし)。上記例と同様、今年2月14日、フィリピンから日本へ入国、5月11日に足首の痛みを訴え、18日に豊橋市内の医療機関を受診し入院し、国立感染症研究所の検査の結果、狂犬病であることが判明した。現在、豊橋市内の医療機関に入院中。この患者も、本人周辺からの聞き取りでは、日本入国後に動物との接触歴はないとのことであり、フィリピンで狂犬病に感染した犬に咬まれたことにより狂犬病に感染したと推定される。

<狂犬病について>
1.病原体:狂犬病ウイルス
2.感染動物:全ての哺乳類(アジアでは犬が主な感染源)
3.感染経路:通常は罹患動物による咬傷の部位から、唾液に含まれるウイルスが侵入。通常、ヒトからヒトに感染することはなく、感染した患者から感染が拡大することはない。
4.発生状況:日本、豪州、英国、スカンジナビア半島の国々など一部の地域を除いて、全世界に分布
(1)世界の発生状況(WHO、2017年)年間の死亡者数推計5万9千人(うち、アジア地域3万5千人、アフリカ地域2万1千人)
(2)フィリピンにおける人の狂犬病発生状況(「フィリピン当局HPより」)
     2014年266例、2015年245例、2016年259例、2017年262例
(3)日本における発生状況
・1956年の一人の発生以降を最後に人の発生なし。1957年の猫での発生を最後に動物での発生もない。
・1970年に狂犬病発生地(ネパール)を旅行中、犬に咬まれ帰国後発病、死亡した輸入症例が1例。
・2006年に狂犬病発生地(フィリピン)を旅行中、犬に咬まれ帰国後発病、死亡した輸入症例が2例。
5.潜伏期: 通常1~3カ月程度だが、長い場合には1年以上の場合もある。
6.診断と治療:
(1)臨床症状
・前駆期;発熱、食欲不振、咬傷部位の痛みや掻痒感
・急性神経症状期;不安感、恐水及び恐風症状、興奮性、麻痺、幻覚、精神錯乱などの神経症状
・昏睡期;昏睡(呼吸障害によりほぼ100%が死亡)
(2)病原体生前診断
・RT-PCR法による病原体の遺伝子の検出(唾液等)
・蛍光抗体法(FA)や免疫組織科学的手法によるウイルス抗原の検出(皮膚)
・分離・同定による病原体の検出(唾液)
(3)治療:発病後の有効な治療法はない。
7.発症予防:罹患動物に咬まれた場合の治療として、ワクチン接種などにより行う日本で医薬品として承認されているワクチンは以下の2種類である。
・「組織培養不活化狂犬病ワクチン」
・「ラビピュール筋注用」
※ワクチンの種類によって接種スケジュールや接種部位が異なる。