財閥系複合企業、上半期回復ピッチに濃淡

収入サンミゲル断トツ、帰属純利益首位はSM

2021/09/01

 フィリピン証券取引所(PSE)上場の財閥系複合企業の2021年(1月~6月)の事業報告書発表が出揃った。表1のように、全体的には、非常に不振であった2020年上半期からは回復傾向にあるが、業種構成、子会社組み入れ状況などによって回復ピッチに差がある。

 フィリピンを代表するコングロマリットとなったサンミゲル(証券コード:SMC)の2021年上半期の収入は前年同期比(以下同様)16%増の4,101億ペソ、営業利益は309%増の610億ペソ、帰属純損益は131億ペソの黒字で、前年同期の76億ペソの赤字から急改善した。キリン ホールディングスが約48%出資しているビール製造子会社サンミゲル ブリュワリーサンミゲルビール)の販売数量は15%増加、27%増収89%増益となった。

 流通・不動産・金融コングロマリットであるSM財閥の旗艦企業SMインベストメンツ(証券コード:SM)の収入は4%増の1,935億ペソ、帰属純利益は183%増の201億ペソ。帰属純利益への部門別寄与度は、金融58%、不動産28%、小売14%。最大銀行BDOユニバンクの帰属純利益が、非金利収入の好調、貸倒れ引き当ての減少などで、5倍の214億ペソへと急増したことなどが寄与した。

 表2の2020年の年間決算と同様、収入はサンミゲルが断トツ、帰属純利益ではSMインベストメンツが首位であった。名門アヤラ財閥の旗艦企業アヤラコーポレーション(証券コード:AC)の収入は26%増の1,065億ペソ、帰属純利益は31%増の104億ペソと堅調ながら、回復ピッチはやや緩慢であった。

 サンミゲル、ゴコンウェイ財閥のJGサミット(証券コード:JGS)、ユーチェンコ財閥のハウス オブ インベストメント(証券コード:HI)が黒字転換したほか、コンスンヒ財閥の旗艦企業DMCIホールディングス(証券コード:DMC)が366%増益、アボイティス財閥の旗艦企業アボイティス エクイティ ベンチャー(証券コード:AEV)が243%増益と非常に高い増益率となった。

 JGサミットは黒字転換したが、格安航空(LCC)最大手セブ航空(証券コード:CEB)の大幅赤字などが響き、帰属純利益は9億ペソと低水準。そのなかで、カップヌードルなど即席麺事業を展開する日清食品グループとの合弁企業であるニッシン ユニバーサル ロビーナ コーポレーション(ニッシンURC)が、巣ごもり需要などで好調であった。

 ルシオ・タン氏の事業を統括(フィリピン航空を除く)するLTグループ(証券コード:LTG)は、63%減益と不振であったが、LTGには航空事業が含まれていない。フィリピン航空の持株会社であるPALホールディングス(証券コード:PAL)はCEB以上の大幅赤字であり、JGサミットのように航空事業を含めていたとしたら、LTGは赤字であったと考えられる。

 なお、ユーチェンコ財閥傘下の持株会社であるハウス オブ インベストメントの収益規模が低水準に見えるのは、リサール商業銀行(RCBC)など主力の金融事業が含まれていないことによる。

 財閥系複合企業の2021年上半期(1H)決算動向(単位:百万ペソ、純損益は帰属ベース)
企業名 財閥/総帥等 収入 伸び率 純損益 伸び率 20年1H純損益
サンミゲル サンミゲル 410,124 16.2% 13,070 黒字転換 -7,593
SMインベストメンツ SM 193,479 4.3% 20,090 183.2% 7,093
JGサミット ゴコンウェイ 128,144 8.8% 937 黒字転換 -720
アヤラコーポレーション アヤラ 106,535 25.9% 10,397 30.9% 7,944
アボイティス エクイティ アボイティス 102,334 8.2% 13,462 243.0% 3,925
GTキャピタル メトロバンク 85,658 62.8% 6,674 143.5% 2,741
アライアンス グローバル アンドリュー・タン 64,584 8.0% 8,509 124.0% 3,798
DMCIホールディングス コンスンヒ 53,660 107.4% 9,483 366.2% 2,034
LTグループ ルシオ・タン 44,141 -6.5% 3,730 -62.8% 10,027
フィルインベスト デベロップ ゴティアヌン 27,703 -14.9% 4,201 -41.8% 7,218
メトロパシフィック パンギリナン 21,663 8.6% 10,387 243.1% 3,027
ハウス オブ インベストメント ユーチェンコ 12,107 15.8% 611 黒字転換 -296
(出所:各社の年次・四半期報告書などより作成)

 財閥系複合の2020年の年間決算動向(単位:百万ペソ、純損益は帰属ベース)
企業名 財閥/総帥等 収入 伸び率 純損益 伸び率 19年純損益
サンミゲル サンミゲル 725,797 -28.9% 2,973 -86.1% 21,329
SMインベストメンツ SM 394,186 -21.5% 23,390 -47.5% 44,568
JGサミット ゴコンウェイ 221,640 -26.6% -468 赤字転落 31,285
アヤラコーポレーション アヤラ 219,925 -25.5% 17,142 -51.4% 35,279
アボイティス エクイティ アボイティス 186,726 -7.2% 15,434 -30.0% 22,036
GTキャピタル メトロバンク 134,420 -40.7% 6,546 -67.8% 20,309
アライアンス グローバル アンドリュー・タン 128,790 -28.4% 8,829 -50.2% 17,722
LTグループ ルシオ・タン 94,428 0.3% 21,022 -9.1% 23,118
DMCIホールディングス コンスンヒ 67,700 -22.9% 5,859 -44.4% 10,533
フィルインベスト デベロップ ゴティアヌン 60,717 -18.9% 8,461 -29.3% 11,970
メトロパシフィック パンギリナン 40,855 -17.1% 4,748 -80.1% 23,856
ハウス オブ インベストメント ユーチェンコ 21,176 -38.0% -825 赤字転落 974
(出所:各社の年次・四半期報告書などより作成)