8月のインフレ率4.9%、2年8カ月ぶり高水準

8カ月間で4.4%、インフレ目標達成に黄信号

2021/09/08

 フィリピン統計庁(PSA)は9月7日、2021年8月の総合インフレ率(消費者物価指数、2012年=100)を発表した。それによると、8月のインフレ率は4.9%に上昇し、2018年12月に5.1%以来、2年8カ月ぶりの高水準となった。また、2021年1月から8カ月連続での4%台となった。

 8月のインフレ率は、フィリピン中央銀行(BSP)のインフレ事前予想範囲(4.1%~4.9%)の上限に収まったが、2021年年初8カ月の平均インフレ率は4.4%と、政府の2021年インフレ目標(2.0%~4.0%)の上限を超えた。特定食品・エネルギー関連品目等変動の激しい品目を除いた8月のコアインフレ率は3.3%で前月から0.4%ポイント上昇した。

 8月のインフレ加速の主な要因は、物価指数構成比の最も大きな部分を占める食品・非アルコール飲料が6.5%と前月の4.9%から大幅に上昇したこと。また、アルコール飲料・たばこ、住宅水道光熱費の値上がりも、インフレ上昇圧力となった。

 総合インフレ率を地域別で見ると、首都圏(NCR)は3.7%で前月から0.5%ポイント、地方は5.2%で前月から0.9%ポイント上昇した。インフレ率が最も高かった地域は、カガヤン・バレー(7.5%)、次いでビコール(7.4%)。最もインフレ率が低かった地域は、ムスリム・ミンダナオ・バンサモロ自治区(BARMM、2.5%)、中央ビサヤ(3.1%)だった。

 なお、フィリピン中央銀行(BSP)発表によると、8月の総合インフレ率4.9%への寄与度は、食品・非アルコール飲料2.5%(うち食品2.5%)、交通・輸送費0.6%、住宅・水道・光熱費0.7%、外食・サービス他0.5%、酒類・煙草0.2%、家具・住宅設備管理0.1%、健康・医療0.1%、衣料・履物類0.1%、教育0.0%。

 2021年年初8カ月の平均総合インフレ率4.4%への寄与度は、食品・非アルコール飲料2.1%(うち食品2.1%)、交通・輸送費0.9%、外食・サービス他0.4%、住宅・水道・光熱費0.4%、酒類・煙草0.2%、家具・住宅設備管理0.1%、健康・医療0.1%、衣料・履物類0.1%、通信0.0%、教育0.0%だった。8カ月間の平均コアインフレ率は3.3%であった。

 2021年の年間インフレ率は4%を突破、インフレ目標2~4%の上限を超え、2018年の5.2%以来、3年ぶりの高水準となる懸念がある。フィリピンのインフレ目標は、2015年以降、3.0%±1.0%(2.0%~4.0%)が継続されてきている。下表のとおり、2015年は0.7%、2016年は1.3%とインフレ目標の下限以下にとどまり、目標未達成となった。2017年は2.9%で目標を達成したが、2018年は5.2%と急上昇、インフレ目標の上限を大きく上回ってしまった。2019年と2020年は2年連続で目標達成となったが、この6年間の目標達成率は50%にとどまっている。そして、2021年は目標達成に黄信号が灯っている。

 総合消費者物価指数(CPI)上昇率(インフレ率:2012年基準、前年同月比%)
項目 2020年8月 2021年7月 2021年8月 2021年1-8月
全国   総合インフレ率 2.4 4.0 4.9 4.4
       コアインフレ率 3.1 2.9 3.3 3.3
首都圏 総合インフレ率 2.2 3.2 3.7 3.8
地方   総合インフレ率 2.5 4.3 5.2 4.6
(出所:フィリピン統計庁資料より作成)

 総合CPI上昇率  (2012年基準、前年同月比%)
項目 2020年 2021年  
8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月
総合 2.4 2.3 2.5 3.3 3.5 4.2 4.7 4.5 4.5 4.5 4.1 4.0 4.9
食品・非酒類 1.8 1.5 2.1 4.3 4.8 6.1 6.7 5.8 4.8 4.6 4.7 4.9 6.5
酒類・煙草 17.7 12.9 11.3 12.3 12.2 11.7 12.2 12.1 12.0 11.8 11.2 10.2 10.3
衣料・履物類 1.9 1.8 1.7 1.6 1.6 1.6 1.6 1.6 1.6 1.7 1.6 1.7 1.8
住宅・水道光熱費 0.9 1.2 0.9 0.8 0.4 0.5 0.9 0.9 1.5 2.0 2.4 2.6 3.1
家具類・住宅管理 3.9 3.7 3.7 3.5 3.3 2.9 2.4 1.9 2.1 2.5 2.5 2.3 2.5
健康・医療 2.8 2.8 2.7 2.4 2.6 2.5 2.9 2.9 3.1 3.2 2.9 3.1 3.1
交通・輸送 6.3 8.3 7.9 7.6 8.3 8.7 10.4 13.8 17.9 16.5 9.6 7.0 7.2
通信 0.3 0.4 0.4 0.3 0.2 0.2 0.3 0.2 0.3 0.3 0.2 0.3 0.3
娯楽・文化 -0.1 -0.5 -0.6 -0.6 -0.6 -0.7 -0.7 -0.6 -0.6 -0.6 -0.6 -0.7 0.5
教育 0.1 1.0 1.2 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1
外食・サービス他 2.3 2.3 2.4 2.2 2.5 3.0 3.2 3.1 3.4 3.8 3.9 3.6 3.8
首都圏 2.2 2.2 2.5 3.5 3.2 4.3 4.1 3.7 3.7 3.6 3.2 3.2 3.7
地方 2.5 2.4 2.5 3.3 3.7 4.2 4.8 4.7 4.7 3.7 4.4 4.3 5.2
(出所:フィリピン統計庁資料より作成)

 食料物価上昇率 (2012年基準、前年同月比%)
項目 食品 コーン 果実 野菜 肉類 魚類 乳製品・卵 油・油脂 砂糖・菓子類 その他食品
21/1月 6.6 0.0 1.6 9.0 21.2 17.1 3.7 1.7 2.9 0.3 3.2
2月 7.0 0.5 1.5 7.4 16.7 20.7 5.1 1.7 3.3 0.2 4.6
3月 6.2 0.9 2.5 3.9 8.3 20.9 4.9 1.7 3.9 0.3 3.8
4月 5.0 -0.3 3.1 0.3 -2.6 22.1 6.0 1.4 3.9 0.3 0.5
5月 4.9 -0.8 5.1 -1.1 -6.6 22.1 7.8 1.4 4.0 0.9 1.2
6月 4.9 -1.1 5.3 -0.6 -2.7 19.2 8.7 1.0 4.2 1.0 1.4
7月 5.1 -1.0 6.4 -0.6 5.0 16.0 9.3 0.6 4.4 1.0 0.9
8月 6.9 -0.4 8.7 0.1 15.7 16.4 12.4 0.6 4.8 1.2 1.6
(出所:フィリピン統計庁資料より作成)

 2021年8月のインフレ率(2012年=100)と寄与度 (単位:%)
項目 物価指数
構成比
8月 1月-8月
インフレ率 寄与度 インフレ率 寄与度
総合 100.00 4.9 4.9 4.4 4.4
食品・非酒類 38.34 6.5 2.5 5.5 2.1
   うち食品のみ 35.46 6.9 2.5 5.8 2.1
酒類・煙草 1.58 10.3 0.2 11.4 0.2
衣料・履物類 2.93 1.8 0.1 1.7 0.1
住宅・水道光熱費 22.04 3.1 0.7 1.7 0.4
家具類・住宅管理 2.95 2.5 0.1 2.4 0.1
健康・医療 3.89 3.1 0.1 2.9 0.1
交通・輸送 8.06 7.2 0.6 11.2 0.9
通信 2.93 0.3 0.0 0.2 0.0
娯楽・文化 1.41 0.5 0.0 -0.5 0.0
教育 3.28 1.1 0.0 1.1 0.0
外食・サービス他 12.59 3.8 0.5 3.5 0.4
(出所:フィリピン中央銀行資料より作成)

 インフレ率(2012年基準)とインフレ目標の推移
2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年予  2022年予 2023年予 
インフレ率実績 0.7% 1.3% 2.9% 5.2% 2.5% 2.6% 4.1% 3.1%   3.1% 
インフレ目標 2~4% 2~4% 2~4% 2~4% 2~4% 2~4% 2~4%  2~4%   2~4%
(出所:フィリピン国家統計庁と中央銀行資料より作成、2021年~2023年予想は中央銀行の8月12日時点の予想)