JBIC、比展望・海外投資動向セミナー開催

日系企業の有望展開先、フィリピン3年連続7位

2022/01/30

  国際協力銀行(JBIC)、フィリピン日本人商工会議所(JCCIPI)、セブ日本人商工会議所、ミンダナオ日本人商工会議所は、1月28日、ウエブセミナー「フィリピンの2021年振り返りと展望ならびに海外投資動向セミナー」を2部制で開催した。

 第1部のアーサー・D・リトルのプリンシパル-フィリピン担当の梅林光紘氏らによる「フィリピン政治・経済等の2021年振り返りと2022年先読み」に続き、第2部ではJBIC調査部の春日剛氏と庭田うらら氏による「2021年日本の製造業企業の海外直接投資アンケート調査報告」が行われた。この調査は、海外事業に実績のある日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、2021年33回目となる。2021年調査では、2021年7月に調査票を発送し、10月にかけて回収したものである(対象企業数965社、有効回答数515社、有効回答率53.4%)。

 2021年調査では、「事業実績評価」、「中期的な事業展開姿勢」、「中期的な有望事業展開先国・地域」などの定例テーマに加え、個別テーマとして「サプライチェーンの中期的な見通し」、「DXに向けた取り組み」、「脱炭素に向けた取り組み」などについて調査を実施した。これらを含めた総合結果は2021年12月14日に発表されており、詳細は、JBICホームページに掲載されている(https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2021/1224-015678.html)。今回のウエブセミナーにおいてはフィリピン中心に解説された。

<フィリピンに対する評価など>
 2021年調査の中期的有望事業展開先として、フィリピンは3年連続で7位となった。フィリピンは、2001年にベストテン入りを逃して以来、2008年まで順位の下落傾向が続いた。特に、2008年は、21位とベスト20からも転落した。その後、再上昇基調となり、2013年と2014年は連続11位、2015年は8位に上昇、15年ぶりのベスト10入りとなり、2018年まで4年連続で8位が続いた。そして、2019年はメキシコを抜き7位に浮上、2021年まで3年連続で7位となっっている。

 ただし、2021年の得票率は9.0%で、2020年の10.4%から低下、8年ぶりの10%台割れとなるなど、他のASEAN各国と同様得票率が低下した。そして、4位のベトナム(30.4%)、5位のタイ(22.3%)、6位のインドネシア(19.4%)という他のASEAN主要国に水を開けられている。ちなみに、フィリピンは2001年以前は1997年が7位、1998年が6位、1999年が7位、2000年10位と推移していた。得票率過去最高は1995年の15.4%、過去最低は2008年の1.5%であった。

 2021年調査におけるフィリピンの中期的有望の理由としては、「現地市場の今後の成長性」(比率46.7%)、「現地市場の現状規模」(46.7%)がトップに並んだ。「現地市場の今後の成長性」の得票比率は2020年の54.3%からは大幅低下した。次いで、「安価な労働力」(40.4%)、「対日輸出拠点として」(23.3%)などが挙げられた。一方、課題としては、1位が「治安・社会情勢が不安」(46.4%)で他のASEAN諸国と比較して高い比率である。2位が「法制の運用が不透明」(35.7%)、次いで、「インフラ未整備」(28.6%)、「税制の運用が不透明」(25.0%)などが指摘された。輸出型企業が恩恵を受けてきた税制優遇措置の縮小を含む「企業復興税優遇法」が下院で可決された2019年以降は、「税制の運用が不透明」の比率が上昇傾向にある。

 2016年をピークにフィリピン市場の成長性への期待が右肩下がりとなり、また同時期から治安・社会情勢への懸念が高まっている。一方、直接投資の実額は堅調に推移しており、また、安価で豊富な労働力や優秀な人材を評価する声も根強いことから、フィリピンはイメージ改善にむけた一層の努力が期待される。

 長期的(10年程度)有望事業展開先に関しても、フィリピンに対する最近の評価は上昇基調となっている。速報資料では総合10位までの順位が明示されているが、近年ではフィリピンは2015年までランク外であった。しかし、2016年は10位にランクイン、2018年まで10位が続いてきた。そして、2019年は8位(得票率11.8%)へと上昇した。2020年は9位(9.5%)、2021年も9位(7.0%)とベスト10入りが続いている。

 ただし、中期的有望事業展開先と同様に、4位のベトナム(29.2%)、5位のインドネシア(23.5%)、6位のタイ(18.9%)とは大きな差が付いている。また、軍事クーデターで大きく揺れている8位のミャンマー(8.6%)の後塵を拝している。ミャンマーに関しては「軍事クーデターは一時的なものであり地理的優位性や市場の価値を失わせるものではない」との声もあり、フィリピンを上回った。

 なお2021調査では、ビックデータを用いたテキストマイニングによる分析も同時に試行している。世界各国のニュース記事(最大4千万件)を対象にアンケート調査と同じ切り口で解析を行っている。JBICは、今回の調査結果を踏まえ、国際的な競争に直面している日本企業の海外事業展開支援及び各国・地域の投資環境改善に向けた現地政府当局や関係機関との対話などを引き続き行っていく方針である。

 日本製造業企業の中期的有望事業展開先国・地域の推移(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
中期的(今後3年程度) 
調査年度 2017年 2018年 2019年 2020年   2021年 
回答社数 444社 431社 404社 356社   345社 
 
1位 中国(203社) 中国(225社) インド(193社) 中国(168社) 中国(162社)
2位 インド(195社) インド(199社) 中国(180社) インド(163社) インド(131社)
3位 ベトナム(169社) タイ(160社) ベトナム(147社) ベトナム(131社) 米国(113社)
4位 タイ(153社) ベトナム(146社) タイ(133社) タイ(111社) ベトナム(105社) 
5位 インドネシア(147社) インドネシア(131社) インドネシア(102社) 米国(98社) タイ(77社)
6位 米国(116社) 米国(124社) 米国(93社) インドネシア(96社) インドネシア(67社)
7位 メキシコ(81社) メキシコ(59社) フィリピン(48社) フィリピン(37社) フィリピン(31社)
8位 フィリピン(47社) フィリピン(43社) メキシコ(47社) マレーシア(34社) メキシコ(30社) 
9位 ミャンマー(40社) ミャンマー(37社) ミャンマー(41社)
マレーシア(41社)
メキシコ(32社)  マレーシア(27社)
10位 ブラジル/韓国(28社) マレーシア(36社) ミャンマー(25社) 台湾(19社) 
比得票率・順位 10.6%(8位) 10.0%(8位) 11.9%(7位) 10.4%(7位)  9.0%(7位)  
(出所:JBIC発表資料より作成)
 
 
日本製造業企業の長期的有望事業展開先国・地域の推移(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
長期的(今後10年程度) 
調査年度 2017年 2018年 2019年 2020年  2021年 
回答社数 337社 350社 296社 264社  243社 
 
1位 インド(214社) インド(205社) インド(155社) インド(140社) インド(120社)
2位 中国(146社) 中国(164社) 中国(119社) 中国(116社) 中国(99社) 
3位 ベトナム(115社) インドネシア(115社)
ベトナム(115社)
ベトナム(103社) ベトナム(82社) 米国(71社) 
4位 インドネシア(109社) インドネシア(84社) 米国(73社) ベトナム(69社) 
5位 タイ(80社) タイ(105社) タイ(73社) インドネシア(71社) インドネシア(57社) 
6位 米国(78社) 米国(76社) 米国(62社) タイ(61社) タイ(46社) 
7位 ミャンマー(48社) ミャンマー(41社)
メキシコ(41社)
ブラジル(41社)
ミャンマー(39社) メキシコ(30社) ブラジル(22社) 
8位 メキシコ(45社) フィリピン(35社)
メキシコ(35社)
ミャンマー(26社) ミャンマー(21社) 
9位 ブラジル(43社) フィリピン(25社) フィリピン(17社)
メキシコ(17社) 
10位 フィリピン(33社) フィリピン(30社) マレーシア(25社) ブラジル(22社) 
比得票率・順位 9.8%(10位) 8.6%(10位) 11.8%(8位) 9.5%(9位) 7.0%(9位) 
(出所:JBIC発表資料より作成)