財閥系複合企業の決算出揃う、回復度に濃淡

収入はサンミゲル断トツ、帰属純利益首位はSM

2022/05/27

 フィリピン証券取引所(PSE)上場の財閥系複合企業の2021年(1月~12月)の年次報告書と2022年第1四半期(1月~3月)事業報告書発表が出揃った。下表のように、2021年は全体的には、非常に不振であった2020年からは回復傾向となった、業種構成、子会社組み入れ状況などによって回復ピッチに差がある。また、COVID-19パンデミック直前の2019年との比較では大幅減益という企業が多く、本格回復には至っていない。

 <2021年の年間業績動向>
 フィリピンを代表するコングロマリットとなったサンミゲル(証券コード:SMC)の2021年の収入は前年比(以下同様)30%増の9,412億ペソ、総純利益は120%増(約2.2倍)の482億ペソ、帰属純損益は368%増(約4.7倍)の139億ペソと大幅増収増益となった。石油元売り最大手ペトロン(証券コード:PCOR)の売上高が53%増の4,381億ペソ、純損益が61億ペソの黒字で前年の114億ペソの赤字から急改善したことなどが大きく寄与した。ただし、SMCの帰属純利益は2年前2019年の213億ペソの約65%の水準である。
 
 流通・不動産・金融コングロマリットであるSM財閥の旗艦企業SMインベストメンツ(証券コード:SM)の収入は9%増の4,281億ペソ、帰属純利益は65%増の385億ペソと大幅増益。ただし、帰属純利益は2019年の446億ペソを14%下回っている。2021年の帰属純利益への部門別寄与度は、金融51%、不動産25%、小売17%など。最大銀行BDOユニバンクの帰属純利益が51%増の428億ペソへと大幅増加したことなどが寄与した。
 
 下表のように、収入はサンミゲルが断トツ、帰属純利益ではSMインベストメンツが首位であった。サンミゲルは総純利益では首位であるが、帰属純利益順位は7位へと低下する。名門アヤラ財閥の旗艦企業アヤラコーポレーション(証券コード:AC)の収入は16.5%増の2,256億ペソ、帰属純利益は62%増の278億ペソと帰属純利益で第3位ながら、一時的損益を除いたコア純利益は10%減の235億ペソであったと発表されている。

 ゴコンウェイ財閥のJGサミット(証券コード:JGS)、ロペス財閥のロペス ホールディングス(証券コード:LPZ)、ユーチェンコ財閥のハウス オブ インベストメント(証券コード:HI)が黒字転換した。また、コンスンヒ財閥のDMCIホールディングス(証券コード:DMC)の214%増益が目立つ。これは、鉱業・電力部門であるセミララ マイニング&パワーの純利益が石炭市況の急騰で約4.9倍の162億ペソへと急増したことによる。メトロバンク財閥のGTキャピタル(証券コード:GTCAP)は、トヨタ自動車の製造・販売拠点であるトヨタモーター フィリピン(TMP)の帰属純利益が82%増の60億ペソに達したことなどが寄与した。

 なお、JGサミットは、格安航空(LCC)最大手セブ航空(証券コード:CEB)の業績が反映されるが、ルシオ・タン氏の事業を統括するLTグループ(証券コード:LTG)にはフィリピン航空の収益は含まれない。新型コロナ禍で航空事業の業績は大きく変動しており、両者の比較には注意が必要である。また、ユーチェンコ財閥傘下の持株会社であるハウス オブ インベストメント(証券コード:HI)の収益規模が低水準に見えるのは、リサール商業銀行(証券コード:RCB)など主力の金融事業が含まれていないことによる。

<2022年第1四半期動向>
 2021年の急回復の後、各社の収益はまちまちの動きとなっている。2021年と同様、収入はサンミゲルが3,168億ペソで断トツ、帰属純利益ではSMインベストメンツが120億ペソで首位、石炭市況急騰の恩恵を受けているDMCIホールディングスが113億ペソで2位となっている。増益率ではDMCIホールディングスが165%で首位、ハウス オブ インベストメントが121%で2位となっている。JGサミットはセブ航空の赤字拡大が響き赤字転落となった。

 財閥系持株会社の2021年の年間決算動向(収入順、単位:百万ペソ、純損益は帰属ベース)
企業名 財閥名・総帥等 収入 増収率 純損益 増益率 20年純損益 19年純損益
サンミゲル サンミゲル 941,193 29.7% 13,925 368.4% 2,973 21,329
SMインベストメンツ SM 428,058 8.6% 38,500 64.6% 23,390 44,568
アボイティス エクイティ アボイティス 233,929 25.3% 27,310 76.9% 15,434 22,036
JGサミット ゴコンウェイ 230,552 12.9% 5,108 黒字転換 -468 31,285
アヤラコーポレーション アヤラ 225,592 16.5% 27,774 62.0% 17,142 35,279
GTキャピタル メトロバンク 174,643 29.9% 10,983 67.8% 6,546 20,309
アライアンス グローバル アンドリュー・タン 142,946 14.8% 16,944 91.9% 8,829 17,722
ロペス ホールディングス ロペス 125,159 16.7% 1,538 黒字転換 -2,625 5,322
DMCIホールディングス コンスンヒ 108,343 60.0% 18,394 213.9% 5,859 10,533
LTグループ ルシオ・タン 91,173 -3.4% 20,246 -3.7% 21,022 23,118
フィルインベスト デベロップ ゴティアヌン 55,338 -10.5% 6,066 -28.3% 8,461 11,970
メトロパシフィック パンギリナン 43,561 6.6% 10,119 113.1% 4,748 23,856
ハウス オブ インベストメント ユーチェンコ 23,599 11.4% 1,073 黒字転換 -825 974
(出所:各社の年次報告書などより作成)

 
財閥系複合会社の2022年第1四半期の決算動向(収入順、単位:百万ペソ、純損益は帰属ベース)
企業名 財閥・総帥 収入 増収率 純損益 増益率 20年1Q純損益 19年1Q
サンミゲル サンミゲル 316,765 57.5% 6,336 -31.8% 9,296 -1,274
SMインベストメンツ SM 112,141 15.7% 11,999 26.7% 9,470 9,007
JGサミット ゴコンウェイ 66,629 6.8% -2,793 赤字転落 122 1,903
アボイティス エクイティ アボイティス 62,481 34.3% 3,938 -53.9% 8,551 2,028
GTキャピタル メトロバンク 55,291 21.9% 4,361 7.1% 4,071 2,544
アヤラコーポレーション アヤラ 55,251 5.7% 7,812 45.3% 5,376 6,661
DMCIホールディングス コンスンヒ 43,765 83.2% 11,260 164.9% 4,250 616
アライアンス グローバル アンドリュー・タン 36,390 17.9% 3,887 51.6% 2,564 2,960
ロペス ホールディングス ロペス 35,074 25.8% 851 38.8% 613 1,156
LTグループ ルシオ・タン 22,108 0.1% 6,526 0.6% 6,487 6,213
フィルインベスト デベロップ ゴティアヌン 14,566 2.7% 761 -61.4% 1,972 3,041
メトロパシフィック パンギリナン 11,132 4.8% 5,678 -19.3% 7,032 1,890
ハウス オブ インベストメント ユーチェンコ 5,281 -63.7% 705 120.7% 319 232
(出所:各社の年次報告書などより作成、純損益の伸び率は前年同期比)