不動産業界、収入首位アヤラランド、利益SMPH断トツ
回復度に濃淡、株価大幅下落、今後金利上昇が重荷に
2022/06/06
<総じて底打ちも回復ピッチ緩慢>
フィリピン証券取引所(PSE)上場の不動産企業の2021年(1月~12月)の年次報告書と2022年第1四半期(1月~3月)事業報告書発表が出揃った。下表1と2のとおり、新型コロナウイルス対策としての外出・移動制限の段階的な緩和などにより、2021年年間、2022年第1四半期ともに回復傾向となっている。ただし、主力事業、プロジェクトの立地、保有物件などによって回復ピッチに差がある。また、COVID-19パンデミック直前の2019年との比較では大幅減益という企業が多く本格回復には至っていない。特に、最大手(収入規模)のアヤラランド(証券コード:ALI)の2021年の帰属純利益は123億ペソで、2019年の332億ペソの40%以下にとどまっている。また、当面は金利急上昇が不動産業界の回復を遅らせる懸念もある。
<収入首位アヤラランド、利益首位はSMプライム>
アヤラランドの2022年第1四半期の収入は前年同期比(以下同様)0.1%減の246億ペソ、帰属純利益は14%増の32億ペソであった。一方、アヤラランドと首位を争う総合不動産企業であり最大のショッピングモール開発企業であるSMプライム ホールディングス(証券コード:SMPH)の収入は15%増の242億ペソ、帰属純利益は14.5%増の74億ペソであった。すなわち、アヤラランドは収入では辛うじて首位を維持したが、帰属純利益ではSMPHの43%の水準にとどまっている。アヤラランドの2021年帰属純利益もSMPHの56%に過ぎなかった。アヤラランドは不動産投資信託(REIT)創設、SMPHは未創設ということを考慮する必要もあろうが、帰属純利益ではアヤラランドが大きく下回っている。
<ショッピングモール賃貸事業、依然低調>
外出・移動制限やショッピングモールの営業制限緩和を背景に、2022年第1四半期のSMPHの国内ショッピングモール賃貸収入は34%増の76億ペソ、アヤランドは49%増の29億ペソと大幅増加した。しかし、前年同期が非常に不振であったことの反動でもあり、本格回復には至っていない。オンライン取引志向の高まりもあって、新型コロナ前の2019年第1四半期比ではSMPHが41%減、アヤラランドが43%減という水準である。
<低価格住宅堅調、三菱商事合弁事業など>
一方、手頃な価格の住宅需要は堅調であり、低価格の住宅分譲企業8990ホールディングス(証券コード:8990)の収入は17%増、帰属純利益は23%増の19億ペソと好調、2019年第1四半期の帰属純利益11億8千万ペソを62%上回っている。センチュリー プロパティーズ グループ(証券コード:CPG)が三菱商事と展開する低価格住宅分譲事業の収入や予約販売額も大幅増加、CPG収入の46%を占めるに至った。なお、表3のように、中央銀行(BSP)住宅不動産価格指数は2021年下半期は前年同期比で上昇に転じている。
表1:上場不動産企業の2022年第1四半期決算動向(単位:百万ペソ、純損益は帰属ベース)
(出所:各社の年次報告書などより作成)
表2:上場不動産企業の2021年の決算動向(単位:百万ペソ、純利益は帰属ベース)
(出所:各社の年次報告書などより作成、伸び率は前年比)
表3.BSP住宅不動産価格指数上昇率(前年同期比:フィリピン中央銀行調査)
(出所:フィリピン中央銀行資料より作成、伸び率は前年同期比)
<不動産各社の株価は下落続く>
業績回復ピッチが緩慢なことを背景に不動産各社の株価は総じて軟調に推移している。表4のように、PSEにおける不動産株指数は2020年に11.80%下落(PSE指数は8.64%下落)、2021年は12.14%下落(PSE指数は0.24%下落)と2年連続二桁下落した。すなわち、2020年以降の不動産セクター指数の下落率は、相場全体の下落率を大幅に上回っている。2022年に入ると出遅れ感等で反発する場面もあったが、米国の量的緩和縮小開始や利上げ加速化の動きにより、金利敏感株の代表である不動産株は売り直されている。
表4.フィリピン証券取引所のセクター別株価指数上昇率
(出所:フィリピン証券取引所資料より作成)
フィリピン証券取引所(PSE)上場の不動産企業の2021年(1月~12月)の年次報告書と2022年第1四半期(1月~3月)事業報告書発表が出揃った。下表1と2のとおり、新型コロナウイルス対策としての外出・移動制限の段階的な緩和などにより、2021年年間、2022年第1四半期ともに回復傾向となっている。ただし、主力事業、プロジェクトの立地、保有物件などによって回復ピッチに差がある。また、COVID-19パンデミック直前の2019年との比較では大幅減益という企業が多く本格回復には至っていない。特に、最大手(収入規模)のアヤラランド(証券コード:ALI)の2021年の帰属純利益は123億ペソで、2019年の332億ペソの40%以下にとどまっている。また、当面は金利急上昇が不動産業界の回復を遅らせる懸念もある。
<収入首位アヤラランド、利益首位はSMプライム>
アヤラランドの2022年第1四半期の収入は前年同期比(以下同様)0.1%減の246億ペソ、帰属純利益は14%増の32億ペソであった。一方、アヤラランドと首位を争う総合不動産企業であり最大のショッピングモール開発企業であるSMプライム ホールディングス(証券コード:SMPH)の収入は15%増の242億ペソ、帰属純利益は14.5%増の74億ペソであった。すなわち、アヤラランドは収入では辛うじて首位を維持したが、帰属純利益ではSMPHの43%の水準にとどまっている。アヤラランドの2021年帰属純利益もSMPHの56%に過ぎなかった。アヤラランドは不動産投資信託(REIT)創設、SMPHは未創設ということを考慮する必要もあろうが、帰属純利益ではアヤラランドが大きく下回っている。
<ショッピングモール賃貸事業、依然低調>
外出・移動制限やショッピングモールの営業制限緩和を背景に、2022年第1四半期のSMPHの国内ショッピングモール賃貸収入は34%増の76億ペソ、アヤランドは49%増の29億ペソと大幅増加した。しかし、前年同期が非常に不振であったことの反動でもあり、本格回復には至っていない。オンライン取引志向の高まりもあって、新型コロナ前の2019年第1四半期比ではSMPHが41%減、アヤラランドが43%減という水準である。
<低価格住宅堅調、三菱商事合弁事業など>
一方、手頃な価格の住宅需要は堅調であり、低価格の住宅分譲企業8990ホールディングス(証券コード:8990)の収入は17%増、帰属純利益は23%増の19億ペソと好調、2019年第1四半期の帰属純利益11億8千万ペソを62%上回っている。センチュリー プロパティーズ グループ(証券コード:CPG)が三菱商事と展開する低価格住宅分譲事業の収入や予約販売額も大幅増加、CPG収入の46%を占めるに至った。なお、表3のように、中央銀行(BSP)住宅不動産価格指数は2021年下半期は前年同期比で上昇に転じている。
表1:上場不動産企業の2022年第1四半期決算動向(単位:百万ペソ、純損益は帰属ベース)
企業名 | 収入 | 増収率 | 純利益 | 増益率 | 純資産 |
アヤラランド | 24,617 | -0.1% | 3,168 | 14.0% | 271,890 |
SMプライム | 24,200 | 15.0% | 7,416 | 14.5% | 343,812 |
メガワールド | 12,257 | 31.4% | 3,069 | 29.9% | 232,697 |
ビスタランド | 8,061 | -7.6% | 2,216 | 11.2% | 114,893 |
ロビンソンズランド | 6,691 | -60.0% | 1,401 | -52.4% | 128,267 |
8990ホールディングス | 5,225 | 16.7% | 1,904 | 22.7% | 48,137 |
フィルインベストランド | 4,144 | -0.4% | 678 | -8.0% | 90,632 |
セブランドマスターズ | 3,647 | 53.8% | 811 | 13.6% | 18,786 |
ロックウェルランド | 3,311 | 1.4% | 524 | 0.6% | 26,158 |
センチュリープロパティーズ | 2,611 | 25.6% | 150 | 5.4% | 22,550 |
ダブルドラゴン | 1,714 | 13.0% | 291 | 41.3% | 69,463 |
シャンプロパティーズ | 1,447 | 23.0% | 476 | 23.4% | 43,419 |
ベルコープ | 1,305 | 44.2% | 414 | 5.2% | 33,744 |
表2:上場不動産企業の2021年の決算動向(単位:百万ペソ、純利益は帰属ベース)
企業名 | 収入 | 増収率 | 純利益 | 増益率 | 純資産 | 19年純利益 |
アヤラランド | 106,143 | 10.3% | 12,228 | 40.1% | 270,502 | 33,188 |
SMプライム | 82,315 | 0.5% | 21,787 | 21.0% | 334,361 | 38,058 |
メガワールド | 46,378 | 18.1% | 13,434 | 35.9% | 229,704 | 17,931 |
ロビンソンズランド | 36,539 | 30.4% | 8,063 | 53.2% | 130,350 | 8,686 |
ビスタランド | 29,632 | -5.2% | 6,427 | 6.1% | 112,527 | 11,365 |
8990ホールディングス | 20,358 | 43.0% | 7,215 | 49.3% | 46,359 | 5,863 |
フィルインベストランド | 16,866 | -2.9% | 3,803 | 1.9% | 89,790 | 6,284 |
ダブルドラゴン | 15,926 | 11.7% | 7,404 | 77.0% | 69,308 | 5,387 |
ロックウェルランド | 12,724 | 14.0% | 1,641 | 52.1% | 25,981 | 2,957 |
セブランドマスターズ | 11,419 | 36.5% | 2,613 | 41.5% | 17,932 | 2,012 |
センチュリープロパティーズ | 9,445 | -12.8% | 951 | 19.5% | 22,351 | 1,282 |
シャンプロパティーズ | 4,574 | -26.5% | 2,124 | 44.5% | 42,939 | 3,056 |
ベルコープ | 3,421 | -18.0% | 577 | -42.4% | 33,009 | 2,610 |
表3.BSP住宅不動産価格指数上昇率(前年同期比:フィリピン中央銀行調査)
年・時期 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | |||||||||
1Q | 2Q | 3Q | 4Q | 1Q | 2Q | 3Q | 4Q | 1Q | 2Q | 3Q | 4Q | |
全住宅 | 3.2 | 0.8 | 10.4 | 10.4 | 12.6 | 26.6 | -0.4 | 0.8 | -4.2 | -9.4 | 6.3 | 4.9 |
一戸建住宅 | -1.9 | -3.7 | 2.4 | 5.8 | 7.3 | 23.4 | 7.4 | 4.7 | 0.2 | -7.4 | -4.2 | -1.1 |
二世帯住宅 | -8.0 | 12.5 | 24.8 | 50.4 | 38.3 | 0.8 | -8.8 | 20.0 | -20.7 | 28.9 | -0.2 | -10.2 |
タウンハウス | 9.7 | 4.3 | 6.0 | 10.0 | 5.6 | 10.8 | 12.0 | 16.1 | 8.3 | 15.1 | 37.1 | 22.6 |
コンドミニアム | 10.9 | 9.6 | 29.1 | 18.9 | 23.6 | 30.1 | -15.0 | -8.4 | -10.7 | -14.3 | 13.6 | 10.4 |
<不動産各社の株価は下落続く>
業績回復ピッチが緩慢なことを背景に不動産各社の株価は総じて軟調に推移している。表4のように、PSEにおける不動産株指数は2020年に11.80%下落(PSE指数は8.64%下落)、2021年は12.14%下落(PSE指数は0.24%下落)と2年連続二桁下落した。すなわち、2020年以降の不動産セクター指数の下落率は、相場全体の下落率を大幅に上回っている。2022年に入ると出遅れ感等で反発する場面もあったが、米国の量的緩和縮小開始や利上げ加速化の動きにより、金利敏感株の代表である不動産株は売り直されている。
表4.フィリピン証券取引所のセクター別株価指数上昇率
項目 | 18年 | 19年 | 20年 | 21年 | 22年5カ月間 |
フィリピン証券取引所指数 | -12.76% | 4.68% | -8.64% | -0.24% | -4.89% |
全株指数 | -9.46% | 2.92% | -8.11% | -10.64% | -5.53% |
金融株指数 | -20.19% | 4.71% | -22.32% | 10.95% | 3.27% |
工業株指数 | -2.49% | -12.02% | -2.51% | 10.76% | -10.12% |
持株会社株指数 | -14.79% | 3.41% | -3.13% | -7.44% | -7.58% |
不動産株指数 | -8.80% | 14.51% | -11.80% | -12.14% | -5.28% |
サービス業株指数 | -10.94% | 6.13% | -1.11% | 31.19% | -5.83% |
鉱業・石油株指数 | -28.71% | -1.32% | 17.75% | 0.77% | 24.15% |