財閥系複合企業、上半期は大幅増収も利益伸び悩み

コスト増響く、収入サンミゲル断トツ、純利益首位はSM

2022/08/22

 フィリピン証券取引所(PSE)上場の財閥系複合企業の2022年上半期(1月~6月)の事業報告書発表が出揃った。下表のように、全体的には、新型コロナウイルス感染再拡大やそれに伴う地域隔離措置再強化の影響を大きく受けた2021年上半期からは回復傾向にあるが、業種構成、子会社組み入れ状況などによって回復ピッチに差がある。また、総じて大幅増収であったが、コスト増で利益は伸び悩み、あるいは悪化という企業もあった。

 フィリピンを代表するコングロマリットであるサンミゲル(証券コード:SMC)の2022年上半期の収入は前年同期比(以下同様)73%増の7,114億ペソ、営業利益は41%増の859億ペソに達した。純利益は33%減の198億ペソにとどまったが、CREATE法(企業再生・企業向け税制優遇法)の法人所得税への影響や外為損益を除外した実質ベースでは24%増の325億ペソとなったとのことである。しかし、帰属損益は13億ペソの赤字で、前年同期の131億ペソの黒字から悪化した。

 流通・不動産・金融コングロマリットであるSM財閥の旗艦企業SMインベストメンツ(証券コード:SM)の収入は23%増の2,385億ペソ、純利益は28%増の354億ペソ、帰属純利益は27%増の255億ペソと二桁増収増益であった。そして、純利益、帰属純利益ともに首位であった。部門別利益寄与度は、最大銀行BDOユニバンク等金融部門が48%、不動産が26%、小売が20%だった。外出・移動制限の緩和でモール事業の総収入が92%増の206億ペソと急回復した。

 ゴコンウェイ財閥の旗艦企業JGサミット ホールディングス(証券コード:JGS)の収入は29%増の1,511億ペソと二桁の増収になったが、石油・原料価格の急騰やペソ安による外貨建て債務の負担増等で利益を圧迫され、帰属純損益は27億ペソの赤字に転落した。格安航空(LCC)最大手であるセブ航空(ブランド名:セブ・パシフィック航空、証券コード:CEB)の乗客数は428%増(約5.3倍)の628万9,000人、営業収入は250%増(約3.5倍)の207億ペソと急増したが、燃料費の高騰、ペソ安などにより95億ペソの純損失となった。

 アボイティス財閥の旗艦企業であるアボイティス エクイティ ベンチャー(証券コード:AEV)の収入は33%増の1,359億ペソに達した。しかし、帰属純利益は12%減の118億ペソにとどまった。利益寄与度は電力部門が52%、次いで金融部門が31%、不動産部門が12%、インフラ部門が4%、食品部門が2%だった。主力の電力企業アボイティスパワー(証券コード:AP)は、コスト上昇と2021年末にフィリピン中部を襲撃した大型台風オデットによる被災・事業中断の影響で純利益が2%減の100億ペソと伸び悩んだ。

 名門アヤラ財閥の旗艦企業アヤラコーポレーション(証券コード:AC)の収入は10%増の1,174億ペソ、帰属純利益は56%増の163億ペソ。商業施設やホテル&リゾートの堅調な賃貸収入、グローブテレコムのデータセンター事業の一部売却による売却関連益(税引き前ベースで105億ペソ)が寄与した。このデータセンター売却関連益を除くとやや伸び悩みであったともいえる。

 GTキャピタル ホールディングス(証券コード:GTCAP)は、メトロポリタンバンク&トラスト(メトロバンク、証券コード:MBT)やトヨタ自動車の製造・販売拠点であるトヨタモーター フィリピン(TMP)の業績が底堅く推移したことなどで、帰属純利益は24%増の83億ペソとなった。

 コンスンヒ財閥の旗艦企業DMCIホールディングス(証券コード:DMC)は、傘下の鉱業・電力部門であるセミララ マイニング&パワー(証券コード:SCC)の石炭価格急騰による311%増益により、全体としても114%増益と好調であった。ロペス財閥の旗艦企業であるロペス ホールディングス(証券コード:LPZ)は、傘下の放送企業ABS-CBNの赤字縮小などにより135%増益となった。そのほか、ルシオ・タン氏の事業を統括(フィリピン航空を除く)するLTグループ(証券コード:LTG)の313%増益、ユーチェンコ財閥傘下の持株会社であるハウス オブ インベストメント(証券コード:HI)の52%増益が目立つ。

 以上のように、13財閥系複合企業のうち7社が増益、赤字転落(帰属ベース)はサンミゲルとJGサミットの2社、減益(帰属ベース)はフィルインベスト デベロップメント、メトロ パシフィックなど4社だった。なお、ハウス オブ インベストメントの収益規模が低水準に見えるのは、リサール商業銀行(RCBC)など主力の金融事業が含まれていないことによる。


 財閥系複合会社の2022年上半期の決算動向(単位:百万ペソ)

企業名 財閥・総帥 収入 増減率 純損益 増減率 帰属純損益 増減率
サンミゲル サンミゲル 711,416 73.5% 19,805 -33.0% -1,341 赤字転落
SMインベストメンツ SM 238,480 23.3% 35,402 28.4% 25,515 27.0%
JGサミット ゴコンウェイ 151,077 28.6% -189 赤字転落 -2,749 赤字転落
アボイティス エクイティ アボイティス 135,852 32.8% 17,312 3.7% 11,796 -12.4%
アヤラコーポレーション アヤラ 117,382 10.2% 22,917 76.0% 16,270 56.5%
GTキャピタル メトロバンク 112,786 31.7% 10,150 21.3% 8,300 24.4%
DMCIホールディングス コンスンヒ 81,466 51.8% 31,567 154.6% 20,291 114.0%
アライアンス グローバル アンドリュー・タン 79,701 24.6% 11,965 -6.2% 8,236 -3.2%
ロペス ホールディングス ロペス 78,418 29.6% 9,889 9.4% 2,471 134.7%
LTグループ ルシオ・タン 45,761 3.7% 20,434 黒字転換 15,401 312.9%
フィルインベスト デベロップ ゴティアヌン 30,809 11.2% 3,312 -41.9% 2,227 -47.0%
メトロパシフィック パンギリナン 24,287 12.1% 11,573 -10.2% 9,495 -8.6%
ハウス オブ インベストメント ユーチェンコ 10,647 -12.1% 1,120 28.7% 881 52.0%
(出所:各社の年次報告書などより作成、増減率は前年同期比)