不動産業界、収入首位アヤラランド、利益SMPH断トツ

22年9カ月回復基調もコロナ前には及ばず、株価大幅下落

2022/11/22

<総じて回復もコロナ前には及ばず>
 フィリピン証券取引所(PSE)上場の不動産企業の2022年9カ月間(1月~9月)事業報告書発表が出揃った。下表1のとおり、新型コロナウイルス対策としての外出・移動制限の段階的な緩和などにより、回復基調を強めている。ただし、主力事業、プロジェクトの立地、保有物件などによって回復ピッチに差がある。また、COVID-19パンデミック直前の2019年との比較では減益という企業が多く本格回復には至っていない。特に、最大手(収入規模)のアヤラランド(証券コード:ALI)の当9カ月間の収入は863億ペソ、帰属純利益は133億ペソで、2019年9カ月間の各々1,217億ペソ、232億ペソを大幅に下回っており、特に帰属純利益は43%下回っている。急ピッチの金利上昇が各社の回復ピッチを鈍らせる懸念もある。
 
<収入首位アヤラランド、利益首位はSMプライム>
 アヤラランドの2022年9カ月間の収入は前年同期比(以下同様)18.9%増の863億ペソ、帰属純利益は55.3%増の133億ペソであった。一方、アヤラランドと首位を争う総合不動産企業であり最大のショッピングモール開発企業であるSMプライム ホールディングス(証券コード:SMPH)の収入は30.1%増の748億ペソ、帰属純利益は40.9%増の220億ペソであった。すなわち、アヤラランドは収入では首位を維持したが、帰属純利益ではSMPHの60%の水準にとどまっている。アヤラランドの2021年の年間帰属純利益もSMPHの56%に過ぎなかった。アヤラランドは不動産投資信託(REIT)創設、SMPHは未創設ということを考慮する必要もあろうが、帰属純利益ではアヤラランドが大きく下回っている。

<ショッピングモール賃貸事業、大幅増収>
 外出・移動制限やショッピングモールの営業制限緩和を背景に、2022年9カ月間のSMPHの国内ショッピングモール賃貸収入は倍増の339億ペソ、アヤラランドも倍増の112億ペソであった。しかし、前年同期が非常に不振であったことの反動でもあり、本格回復には至っていない。オンライン取引志向の高まりもあって、2019年9カ月間との比較では、SMPHが19%減、アヤラランドが25%減という水準である。

<低価格住宅堅調、三菱商事合弁事業など>
 一方、手頃な価格の住宅需要は堅調である。センチュリー プロパティーズ グループ(証券コード:CPG)が三菱商事と展開する低価格住宅分譲事業の収入や予約販売額も大幅増加している。CPGの決算速報によると、この住宅分譲合弁事業の収入は51%増の41億7,000万ペソに達し、CPGの総収入の48%(前年同期45%)を占めるに至っている。ちなみに、CPGの総収入は34.9%増の87億4,600万ペソであった。

<不動産各社の株価低調な推移>
 業績回復ピッチが緩慢なことなどを背景に不動産各社の株価は総じて軟調に推移している。表2のように、PSEにおける不動産株指数は2020年に11.80%下落(PSE指数は8.64%下落)、2021年は12.14%下落(PSE指数は0.24%下落)と2年連続二桁下落した。すなわち、2020年以降の不動産セクター指数の下落率は、相場全体の下落率を大幅に上回っている。2022年に入ると出遅れ感等で反発する場面もあったが、米国やフィリピンなどでの利上げ加速化の動きにより、金利敏感株の代表である不動産株は売り直されている。2022年10カ月間で20.09%下落、セクター別で最大の下落率となっている。


 表1.主要上場不動産企業の2022年9カ月間の決算動向(単位:百万ペソ、純損益は帰属ベース)

企業名 収入 増減率 純利益 増減率 純資産
アヤラランド 86,311 18.9% 13,342 55.3% 286,278
SMプライム 74,838 30.1% 22,012 40.9% 353,946
メガワールド 39,327 15.5% 8,395 2.9% 237,310
ロビンソンズランド 35,766 15.5% 6,739 5.5% 132,888
ビスタランド 21,232 -5.2% 6,089 6.9% 119,717
8990ホールディングス 17,029 10.9% 6,294 15.9% 52,378
フィルインベストランド 13,662 9.6% 2,004 -37.1% 90,920
ロックウェルランド 12,471 38.8% 2,000 39.6% 27,736
セブランドマスターズ 11,107 43.3% 2,200 18.7% 19,766
センチュリープロパティーズ 8,746 34.9% 778 -7.9% 23,456
ダブルドラゴン 5,655 -49.3% 1,180 -80.1% 71,576
シャンプロパティーズ 5,470 60.5% 2,448 35.1% 44,657
ベルコープ 4,271 86.7% 1,361 306.2% 36,211
(出所:各社の年次報告書などより作成)


 表2.フィリピン証券取引所のセクター別株価指数上昇率
項目 19年 20年 21年 22年10カ月間 22年10月末指数
フィリピン証券取引所指数 4.68% -8.64% -0.24% -13.61% 6,153.43
全株指数 2.92% -8.11% -10.64% -14.69% 3,257.29
  金融株指数 4.71% -22.32% 10.95% -1.12% 1,588.14
  工業株指数 -12.02% -2.51% 10.76% -13.61% 8,987.90
  持株会社株指数 3.41% -3.13% -7.44% -12.84% 5,933.37
  不動産株指数 14.51% -11.80% -12.14% -20.09% 2,572.75
  サービス業株指数 6.13% -1.11% 31.19% -19.84% 1,592.33
  鉱業・石油株指数 -1.32% 17.75% 0.77% 2.10% 9,802.95
(出所:フィリピン証券取引所資料より作成)