財閥系複合企業、9カ月間で大幅増収も利益伸び悩み
コスト増響く、収入サンミゲル断トツ、純利益首位はSM
2022/11/24
<財閥系複合企業の9カ月間の概況と業績比較>
フィリピン証券取引所(PSE)上場の財閥系複合企業の2022年9カ月間(1月~9月)の事業報告書発表が出揃った。下表のように、全体的には、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大やそれに伴う地域隔離措置再強化の影響を大きく受けた2020年、2021年からは回復傾向にあるが、業種構成、子会社組み入れ状況などによって回復ピッチに差がある。また、総じて大幅増収であったが、コスト増で利益は伸び悩み、あるいは悪化という企業もあった。
下表のように、13財閥系複合企業のうち9社が増益、2社が減益、2社が赤字であった(帰属ベース)。赤字(帰属純損失)はサンミゲルとJGサミット、減益はフィルインベスト デベロップメント(FDC)とアライアンスグローバル(AGI)であった。なお、ユーチェンコ財閥のハウス オブ インベストメント(HI)の収益規模が低水準に見えるのは、リサール商業銀行(RCB)など主力の金融事業が含まれていないことなどによる。
財閥系複合会社の2022年9カ月間の決算動向(単位:百万ペソ)
(出所:各社の年次報告書などより作成、増減率は前年同期比)
<財閥系複合企業の個別動向や特機事業>
フィリピンを代表するコングロマリットであるサンミゲル(証券コード:SMC)の2022年9カ月間の収入は前年同期比(以下同様)71%増の1兆1,125億ペソと断トツ、1兆ペソの大台を突破、COVID-19パンデミック直前の2019年の年間収入を上回るに至った。しかし、コスト大幅増加などにより純利益は62%減の129億ペソ、帰属純損益は151億ペソの赤字(損失)で前年同期の120億ペソの黒字(利益)から悪化した。SMCは、企業再生・企業向け税制優遇法(CREATE法)の法人所得税への影響や外為差損益を除外したコア純利益は26%増の435億ペソと発表している。すなわち、実質26%増益であったとのことであるが、報告ベースでは大幅増収・帰属純損益が赤字転落となっている。
流通・不動産・金融コングロマリットであるSM財閥の旗艦企業SMインベストメンツ(SM)の収入は31%増の3,819億ペソ、純利益は53%増の588億ペソ、帰属純利益は50%増の529億ペソと二桁増収増益。純利益、帰属純利益ともに首位であった。帰属純利益はパンデミック発生直前の2019年9カ月間の331億ペソを大幅に上回っている。部門別帰属利益寄与度は、金融部門が45%、不動産が23%、小売が19%などであった。金融部門は、当地最大行のBDOユニバンク(BDO)の帰属純利益が23%増の400億ペソ、第6位のチャイナ バンキング コーポレーション(チャイナバンク、CHIB)が31%増の147億ペソといずれも好調であった。外出・移動制限の緩和で国内モール事業収入が115%増の339億ペソと急増した。
ゴコンウェイ財閥の旗艦企業JGサミット ホールディングス(JGS)の収入は34%増の2,248億ペソと二桁の増収になったが、石油・原料価格の急騰やペソ安による外貨建て債務の負担増等で利益が圧迫され、帰属純損益は8億5,900万ペソの赤字が残った。ただし、赤字額は65%減少した。格安航空(LCC)最大手であるセブ航空(CEB、ブランド名:セブ・パシフィック航空)の収入は310%増(4.1倍)の207億ペソと急増した。燃料費の高騰、ペソ安などにより121億ペソの赤字であったが、赤字額は45%減少した。
アボイティス財閥の旗艦企業であるアボイティス エクイティ ベンチャー(AEV)の収入は33%増の2,167億ペソ、帰属純利益は9%増の214億ペソ。帰属利益への部門別寄与度は、アボイティス パワー(AP)等による電力部門が58%、次いで、ユニオンバンク オブ ザ フィリピン(UBP)等による金融部門29%、不動産部門10%、インフラ部門1%、食品部門1%と続く。2021年12月のJERA(東京電力FPと中部電力の折半合弁エネルギー企業)へのAP株式25%売却など一時的損益を全て除外した正常化コア純利益は35%増加とも発表されている。
名門アヤラ財閥の旗艦企業アヤラコーポレーション(AC)の収入は16%増の1,861億ペソ、帰属純利益は23%増の239億ペソ。堅調な業績推移ではあったが、増収率は上位企業の中では見劣りがする。また、帰属純利益額は第3位であったが、グローブテレコム(GLO)のデータセンター事業の一部売却による売却関連益(税引き前ベースで105億ペソ)や一部の通信塔売却益が寄与した。このデータセンター売却関連益を除くとやや伸び悩みであったともいえる。売却益など一時的損益や税金調整効果を除いた実質コア純利益は13%増の218億ペソと発表されている。
GTキャピタル ホールディングス(GTCAP)は、メトロポリタンバンク&トラスト(MBT、メトロバンク)やトヨタ自動車の製造・販売拠点であるトヨタモーター フィリピン(TMP)の業績が底堅く推移したことなどで、収入は43%増の1,795億ペソ、帰属純利益は72%増の149億ペソとなった。TMPの市場シェアは50.8%で前年同期の45.8%から更に上昇、売上高は41%増の1,334億ペソに達した。
コンスンヒ財閥の旗艦企業DMCIホールディングス(DMC)は、傘下の鉱業・電力部門であるセミララ マイニング&パワー(SCC)の石炭価格急騰による249%増益により、全体としても105%帰属増益と好調であった。帰属純利益額も276億ペソで第2位となった。ロペス財閥の旗艦企業であるロペス ホールディングス(LPZ)は、傘下の放送企業ABS-CBNの赤字縮小などにより83%帰属増益となった。そのほか、ルシオ・タン氏の事業を統括(フィリピン航空を除く)するLTグループ(LTG)の105%増益が目立つ。LTGの帰属純利益204億ペソの寄与度はタバコ事業が59%に達している。
フィリピン証券取引所(PSE)上場の財閥系複合企業の2022年9カ月間(1月~9月)の事業報告書発表が出揃った。下表のように、全体的には、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大やそれに伴う地域隔離措置再強化の影響を大きく受けた2020年、2021年からは回復傾向にあるが、業種構成、子会社組み入れ状況などによって回復ピッチに差がある。また、総じて大幅増収であったが、コスト増で利益は伸び悩み、あるいは悪化という企業もあった。
下表のように、13財閥系複合企業のうち9社が増益、2社が減益、2社が赤字であった(帰属ベース)。赤字(帰属純損失)はサンミゲルとJGサミット、減益はフィルインベスト デベロップメント(FDC)とアライアンスグローバル(AGI)であった。なお、ユーチェンコ財閥のハウス オブ インベストメント(HI)の収益規模が低水準に見えるのは、リサール商業銀行(RCB)など主力の金融事業が含まれていないことなどによる。
財閥系複合会社の2022年9カ月間の決算動向(単位:百万ペソ)
企業名 | 財閥・総帥 | 収入 | 増減率 | 純損益 | 増減率 | 帰属純損益 | 増減率 |
サンミゲル | サンミゲル | 1,112,522 | 71.0% | 12,945 | -62.1% | -15,115 | 赤字転落 |
SMインベストメンツ | SM | 381,915 | 30.5% | 58,828 | 53.0% | 42,870 | 49.7% |
JGサミット | ゴコンウェイ | 224,797 | 33.9% | 3,619 | 黒字転換 | -859 | 赤字65%減 |
アボイティス エクイティ | アボイティス | 216,657 | 37.0% | 32,047 | 30.4% | 21,362 | 9.3% |
アヤラコーポレーション | アヤラ | 186,086 | 16.2% | 35,319 | 47.3% | 23,895 | 23.4% |
GTキャピタル | メトロバンク | 179,498 | 43.0% | 17,425 | 59.1% | 14,946 | 72.4% |
ロペス ホールディングス | ロペス | 125,055 | 35.5% | 16,250 | 14.7% | 4,116 | 82.9% |
アライアンス グローバル | アンドリュー・タン | 123,924 | 22.3% | 17,117 | -1.2% | 11,918 | -0.9% |
DMCIホールディングス | コンスンヒ | 114,301 | 42.8% | 43,313 | 138.7% | 27,629 | 105.0% |
LTグループ | ルシオ・タン | 71,342 | 6.6% | 25,664 | 313.4% | 20,411 | 105.2% |
フィルインベスト デベロップ | ゴティアヌン | 46,935 | 12.8% | 5,621 | -34.0% | 3,972 | -35.8% |
メトロパシフィック | パンギリナン | 37,607 | 16.9% | 16,400 | 4.2% | 13,137 | 6.1% |
ハウス オブ インベストメント | ユーチェンコ | 16,977 | -3.8% | 1,577 | 33.1% | 1,202 | 50.6% |
<財閥系複合企業の個別動向や特機事業>
フィリピンを代表するコングロマリットであるサンミゲル(証券コード:SMC)の2022年9カ月間の収入は前年同期比(以下同様)71%増の1兆1,125億ペソと断トツ、1兆ペソの大台を突破、COVID-19パンデミック直前の2019年の年間収入を上回るに至った。しかし、コスト大幅増加などにより純利益は62%減の129億ペソ、帰属純損益は151億ペソの赤字(損失)で前年同期の120億ペソの黒字(利益)から悪化した。SMCは、企業再生・企業向け税制優遇法(CREATE法)の法人所得税への影響や外為差損益を除外したコア純利益は26%増の435億ペソと発表している。すなわち、実質26%増益であったとのことであるが、報告ベースでは大幅増収・帰属純損益が赤字転落となっている。
流通・不動産・金融コングロマリットであるSM財閥の旗艦企業SMインベストメンツ(SM)の収入は31%増の3,819億ペソ、純利益は53%増の588億ペソ、帰属純利益は50%増の529億ペソと二桁増収増益。純利益、帰属純利益ともに首位であった。帰属純利益はパンデミック発生直前の2019年9カ月間の331億ペソを大幅に上回っている。部門別帰属利益寄与度は、金融部門が45%、不動産が23%、小売が19%などであった。金融部門は、当地最大行のBDOユニバンク(BDO)の帰属純利益が23%増の400億ペソ、第6位のチャイナ バンキング コーポレーション(チャイナバンク、CHIB)が31%増の147億ペソといずれも好調であった。外出・移動制限の緩和で国内モール事業収入が115%増の339億ペソと急増した。
ゴコンウェイ財閥の旗艦企業JGサミット ホールディングス(JGS)の収入は34%増の2,248億ペソと二桁の増収になったが、石油・原料価格の急騰やペソ安による外貨建て債務の負担増等で利益が圧迫され、帰属純損益は8億5,900万ペソの赤字が残った。ただし、赤字額は65%減少した。格安航空(LCC)最大手であるセブ航空(CEB、ブランド名:セブ・パシフィック航空)の収入は310%増(4.1倍)の207億ペソと急増した。燃料費の高騰、ペソ安などにより121億ペソの赤字であったが、赤字額は45%減少した。
アボイティス財閥の旗艦企業であるアボイティス エクイティ ベンチャー(AEV)の収入は33%増の2,167億ペソ、帰属純利益は9%増の214億ペソ。帰属利益への部門別寄与度は、アボイティス パワー(AP)等による電力部門が58%、次いで、ユニオンバンク オブ ザ フィリピン(UBP)等による金融部門29%、不動産部門10%、インフラ部門1%、食品部門1%と続く。2021年12月のJERA(東京電力FPと中部電力の折半合弁エネルギー企業)へのAP株式25%売却など一時的損益を全て除外した正常化コア純利益は35%増加とも発表されている。
名門アヤラ財閥の旗艦企業アヤラコーポレーション(AC)の収入は16%増の1,861億ペソ、帰属純利益は23%増の239億ペソ。堅調な業績推移ではあったが、増収率は上位企業の中では見劣りがする。また、帰属純利益額は第3位であったが、グローブテレコム(GLO)のデータセンター事業の一部売却による売却関連益(税引き前ベースで105億ペソ)や一部の通信塔売却益が寄与した。このデータセンター売却関連益を除くとやや伸び悩みであったともいえる。売却益など一時的損益や税金調整効果を除いた実質コア純利益は13%増の218億ペソと発表されている。
GTキャピタル ホールディングス(GTCAP)は、メトロポリタンバンク&トラスト(MBT、メトロバンク)やトヨタ自動車の製造・販売拠点であるトヨタモーター フィリピン(TMP)の業績が底堅く推移したことなどで、収入は43%増の1,795億ペソ、帰属純利益は72%増の149億ペソとなった。TMPの市場シェアは50.8%で前年同期の45.8%から更に上昇、売上高は41%増の1,334億ペソに達した。
コンスンヒ財閥の旗艦企業DMCIホールディングス(DMC)は、傘下の鉱業・電力部門であるセミララ マイニング&パワー(SCC)の石炭価格急騰による249%増益により、全体としても105%帰属増益と好調であった。帰属純利益額も276億ペソで第2位となった。ロペス財閥の旗艦企業であるロペス ホールディングス(LPZ)は、傘下の放送企業ABS-CBNの赤字縮小などにより83%帰属増益となった。そのほか、ルシオ・タン氏の事業を統括(フィリピン航空を除く)するLTグループ(LTG)の105%増益が目立つ。LTGの帰属純利益204億ペソの寄与度はタバコ事業が59%に達している。