日本、首都圏鉄道(MRT)3号線改修第2期に174億円融資

第1期では381億円、住友商事と三菱重工が実施し高評価

2023/05/27

 5月26日、マニラにおいて、松田賢一在フィリピン日本国臨時代理大使と、エンリケ・マナロ・フィリピン外務大臣との間で、173億9,990万円を限度とする首都圏鉄道三号線(MRT3号線)改修計画(第二期)の円借款に関する交換公文の署名・交換が行われた。

 この円借款には、本邦技術活用条件(STEP)が適用され、老朽化した車輌や設備一式の改修等の維持管理に日本の技術が活用される予定である。STEPは、日本の優れた技術やノウハウを活用し、開発途上国への技術移転を通じて日本の「顔が見える援助」を促進するため、2002年7月に導入された。

 マニラ首都圏では、人口密度が年率約4.7%の割合で増加している一方、都市鉄道の整備が遅れており、道路交通の渋滞が慢性化している。MRT3号線改修計画では、マニラ首都圏のMRT3号線(全長約17km、総駅数13駅)を改修することにより、安全性、快適性を向上させ、利用促進を図ることで、マニラ首都圏の深刻な交通渋滞の緩和に貢献するとともに、大気汚染や気候変動緩和に寄与することが期待される。2018年11月、計画第一期のために円借款(供与限度額381億100万円)を供与しており、改修計画の進捗と追加的ニーズを継続的に支援するために、第二期借款を供与するものである。
供与条件
(1)金利:年0.1%(固定金利)
(2)償還期間:40年(10年の据置期間を含む。)
(3)調達条件:日本タイド

 なお、改修計画第一期においては、システム稼働率の低下に悩むフィリピン政府の要請を受ける形で、老朽鉄道システムの改修およびメンテナンス業務を、住友商事と三菱重工グループ(MHIENGおよび三菱重工交通・建設エンジニアリング、TESフィリピン)が請け負った。この改修工事においては、老朽化した車両や電力、信号、通信設備の改修、軌道のレール交換などについて、通常運行を妨げることなく契約納期内に実施し、マニラ市民の生活の大動脈であるMRT3号線を復旧し、安全で快適な市民生活の実現に貢献した。また、改修工事というハード輸出のみならず、その後のメンテナンス業務を引き受けることで、完工後のシステムの信頼性を高めるソフトインフラ輸出という新たな国際貢献の取り組みとなった。

 なお、この事業に関しては、フィリピン側も非常に高く評価している。フィリピン運輸省(DOTr)のアーサー・ツガデ前大臣は、「日系企業連合による改修・保守により、MRT3号線が飛躍的に改善、運行も大幅に改善され、利用者は速くて、便利で、快適なMRT3乗車を満喫している」と絶賛した。ツガデ前大臣のもとでDOTrは、JICAの融資や日系企業連合の支援を得て、MRT3の改修と保守に注力、レールや設備を大幅改善し脱線事故を皆無にした。運行車両は以前の10~15編成から23編成へと増加、運行速度は以前の時速30キロ以下から60キロへと向上した。1日あたり輸送能力も30万人から60万人に拡大した。また、すべての駅のエスカレーターやエレベーターも完全に機能するようになった。

 MRT3は1970年代に計画され、2000年に全線開業した。住友商事がMHIENG(当時、三菱重工業)をパートナーとして、高架構造物、駅、レール、信号、通信、変電設備、架線、車輌基地、電車を含む、全長17キロメートル、総駅数13駅の都市交通システム一式を建設したプロジェクトである(73両のチェコ製車輌を使用)。当時、日本輸出入銀行(現国際協力銀行)が輸出信用を供与し、車輌部分にはチェコ輸銀が輸出信用を供与したものである。

 保守・維持に関しては、住友商事と三菱重工グループが開業後12年間にわたって実施していた。当時のMRT3の運行は、住友商事と三菱重工によるきめ細やかな日々のメンテナンスサービスに支えられて安全・スムーズに行われていた。しかし、2012年10月に、これら日系企業との運営・保守業務契約が終了、その後、地場企業へ、そして、韓国の釜山交通公社へと変更が行われた。日系企業との契約終了以降に事故や故障の多発が目立つようになった。したがって、DOTrは2018年末、BURI連合との運営・保守契約を打ち切り、2019年初に元の日本企業連合に改修・維持プロジェクトを発注したという経緯がある。

 日系連合は、新たな改修・維持プロジェクトにおいて、老朽化などにより稼働率が下落した車輌や設備一式を、通常運行を妨げることなく大規模に改修し、安全で効率的な路線への復旧を実現した。過去のMRT3号線故障の主要因はレールのゆがみに由来しており、改修事業において、日本製鉄八幡製作所製造の18メートルのレールなどに置き換えられた。レール交換は、2019年11月から深夜の運休時間帯に実施された。