セブン銀行のフィリピンATM設置3千台に、3年弱で到達

比セブンにて、SM財閥系にも試験導入、来年黒字化期待

2023/12/11

 セブン銀行のフィリピンATM事業が順調に進展している。2021年2月にセブン‐イレブンの店舗網へフィリピン初となる紙幣還流型ATM(キャッシュリサイクル機)設置を開始、2023年12月7日に設置台数が3,000台に到達した。設置開始から2年10カ月で3,000店に達した。1,000台到達は2011年12月2日、2,000台到達は2022年11月14日であり、年間1,000台以上のペースで増加してきている。取引件数も急増、既に先行のインドネシアを上回っており、2024年には事業の黒字化が期待される。セブン‐イレブン以外のチェーン店への試験導入も開始されている。

【フィリピンでは100%子会社PAPIが展開】
 セブン&アイ・ホールディングス傘下のセブン銀行(本社:東京都千代田区)は、現在、海外では米国、インドネシア、フィリピンでATMサービス事業を展開している。まず2013年に米国でATM事業を開始、2014年にはインドネシアでATM事業を展開する合弁企業PT. ABADI TAMBAH MULIA INTERNASIONAL(ATMi)を設立した。フィリピンでは2019年に完全子会社Pito AxM Platform, Inc.(PAPI、本社:マニラ首都圏マカティ市、資本金:8,500万ペソ)を設立した。

【セブン‐イレブン店舗でフィリピン初の紙幣還流型ATM展開】
 PAPIは最大のコンビニエンスストアチェーンであるセブン‐イレブン・フィリピン(比セブン‐イレブン、2023年9月末3,624店)を保有・運営するフィリピン・セブン(証券コード:SEVN、本社:マニラ首都圏マンダルヨン市)との間で、比セブン‐イレブン店舗でのATM設置・運営・保守事業等の展開を目的とした業務提携契約を締結した。そして、2021年2月、フィリピン国内初となる紙幣還流型ATM設置による利便性の高いATMサービス提供を開始した。すなわち、フィリピン事業は後発であり歴史も浅いが、利便性が高いこともあってこれまで急成長が続いてきている。

【ATM設置急ピッチで進展、地方にも】
 フィリピンでのPAPIによるATM設置が開始された2021年2月末の設置は11台(11店)であったが、表1のように、2021年12月末に1,249台に達した。2022年は1年間で1,075店に設置、2022年末の設置台数は2,324台、2022年末の比セブン‐イレブン全店舗数3,393店の68%をカバーするに至った。2021年はマニラ首都圏を含むルソン地域の店舗での設置であったが、2022年は地方店舗でも設置、2022年末のセブでの設置は148台、ダバオでの設置は82台となった。

【9月末41%増の2,752台に、中期6,000台目標】
 2023年も設置が進展、表1のように9月末時点の設置台数は前年同月末比40%増の2,752台(セブン銀行発表の速報値)、すなわち、比セブン‐イレブン全店舗3,624店の76%に設置されるに至っている。そして、上記のように12月7日に3,000台に到達、2024年の早い時期にほぼ全店への設置が達成されそうとのことである。3,000台設置後、2,000台~3,000台程度を上乗せする方針であり、中期的には6,000台設置を視野に入れている。

【1台当たり利用件数インドネシアの3倍に】
 これらのATMの1台当たり1日平均利用件数は、2021年第1四半期の30.6件から、2021年第4四半期には99.4件、2022年第4四半期には156.7件と順調に伸びている。2023年第1四半期は、対顧客手数料の値上げ等が影響したことで144.4件へと一時的に小幅減少したが第2四半期は156.7件、第3四半期には157.6件へと再増加、四半期ベースでの過去最高記録を更新した。そして、インドネシアの52.9件の約3倍に達している。

【総取引件数急増、最大の米国に接近】
 表3のように、フィリピンでのATM総取引件数は事業開始の2021年第1四半期には10万件程度にすぎなかったが、2022年第4四半期には2,700万件へと急増、先行のインドネシアの2,560万件を上回るに至った。そして、2023年第2四半期には3,350万件に達し、海外総取引件数1億400万件の32.2%を占め、引き続きインドネシアの29.8%を上回るとともに、最大の米国38%に接近しつつある。

 表1.セブン銀行のフィリピンATM台数等の推移(台数は四半期末ベース、利用件数は平均値)
項目 2021年 2022年 2023年
1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 12月7日
設置台数 132 367 681 1,249 1,497 1,814 1,966 2,324 2,397 2,637 2,752 3,000
1台1日の利用件数 30.6 64.3 72.3 99.4 109.6 122.5 128.6 156.7 144.4 156.7 157.6 N.A.
(出所:セブン銀行やフィリピンセブン資料より作成。2023年3Qはセブン銀行発表の速報値)

 表2.セブン銀行のインドネシアでのATM台数等の推移(台数は四半期末ベース、利用件数は平均値)

項目 2021年 2022年 2023年
1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q
設置台数 1,059 1,399 1,764 2,551 3,285 4,051 4,733 5,557 6,166 6,749 7,359
1台1日の利用件数 75.1 72.5 67.2 63.2 58.7 57.8 58.0 54.4 52.4 52.9 N.A.
(出所:セブン銀行資料より作成。2023年3Qは速報値)

 表3.セブン銀行の海外ATM総利用件数の推移(単位:百万件)

項目 2021年 2022年 2023年
1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q シェア
海外合計 51.9 55.3 57.5 61.2 66.5 76.4 84.4 92.5 92.4 104.0 100.0%
フィリピン 0.1 1.4 3.4 8.5 13.0 16.9 20.2 27.0 26.3 33.5 32.2%
インドネシア 5.9 8.1 9.2 11.9 15.3 19.1 23.0 25.6 27.3 31.0 29.8%
米国 45.9 45.8 44.9 40.8 38.2 40.4 41.2 39.8 38.6 39.4 38.0%
(出所:セブン銀行資料より作成、シェアは2023年第2四半期ベース)

【2024年の早期黒字化期待】
 フィリピンに導入したATMはキャッシュリサイクル機でコストがやや高いこともあって、フィリピンATM事業はまだ赤字である。2023年上半期(1月~6月)の経常収入は21億3,000万円、経常損益は4億5,000万円の赤字であった。しかし、7月以降は単月ベースで黒字基調となっている。したがって、2023年通年の経常損益は2億円程度の赤字で、上半期時点の赤字の半分以下に縮小、2024年には年間ベースでの黒字化が期待される。

【BDOなど地場大手3行と提携】
 フィリピンでのATM事業開始に際して、フィリピン大手銀行の一つであるBDOユニバンク(証券コード:BDO、本社:マニラ首都圏マカティ市)とATM提携を開始、その後も政府系銀行ランドバンク・オブ・ザ・フィリピンズ(ランドバンク)と提携、さらに2023年8月からはユーチェンコ財閥の有力銀行リサール商業銀行(RCBC、証券コード:RCB)とも提携、3行と直接提携するに至った。

【SM系アルファマートへの試験導入も開始】
 なお、上記のように比セブン‐イレブンへのATM設置は2024年の早い時期に達成見込み。したがって、セブン銀行は比セブン‐イレブン以外の小売店舗にもATM設置を図る。既に、SM財閥の旗艦企業SMインベストメンツ(証券コード:SM)とインドネシアの有力小売りチェーンとの合弁ミニマートチェーン「アルファマート」(2023年6月末時点で1,528店)への設置を試験的に開始している。