日本の製造業の中期的有望展開先、フィリピン9位に

長期的では10位、課題は労働コストの上昇など:JBIC調査

2024/12/16

 国際協力銀行(JBIC)は、日本の製造業企業の海外事業展開の動向に関するアンケート調査を実施し、12月12日に結果を発表した。今回の調査は、本年7月に調査票を発送し、9月にかけて回収したものである(対象企業数936社、有効回答数495社、有効回答率52.9%)。本調査は、海外事業を行う日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、今回で36回目となる。

 本年度調査では、「事業実績評価」、「中期的な事業展開姿勢」、「有望事業展開先国・地域」等の定例テーマに加え、個別テーマとして「変容するサプライチェーンへの対応」、「ビジネスの変革や新たなビジネスの拡大(イノベーションを含む)に向けた取り組み」、「サステナブルな社会の実現に向けた取り組み」等について調査を実施した。概要は下記のとおり。なお詳細は、JBICのホームページに掲載されている。
https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2024/press_00110.html 

(1)海外事業を取り巻く環境が不透明な中、今後の海外展開の強化・拡大姿勢が低下するなど、模索が続く
 今後の海外事業展開にかかる強化・拡大姿勢については、コロナ禍からの上昇基調がマイナスに転じた。世界的な需要の鈍化や中国経済の減速、米中対立を含む地政学リスクの高まり、他国・地場企業等との競争激化等が背景にあると考えられる。

(2)有望国ランキングではインドが3年連続で首位を維持。中国は6位に順位を落とし、有望国としての中国離れが鮮明に
 今後3年程度の有望な事業展開先国については、インドが得票率を昨年度から10ポイント以上伸ばし、2位以下を更に引き離して3年連続の首位となった。昨年度3位の中国は6位に後退脱中国の受け皿としても期待が寄せられるベトナムは2年連続で2位を維持。

(3)サプライチェーンの見直しが進む。脱中国の動きがある一方で、調達先を中国に広げる企業の動きも
 米中対立を含む地政学リスクの高まり等を背景にサプライチェーンを見直す動きが拡大。製造・販売拠点や原材料等の調達先に関して「脱中国」を進めつつ日本や他国を組み入れることによるサプライチェーン強化を図る動きがみられた。他方、一部の業種ではコスト削減の必要性や中国国内の需要への対応から、日本から中国に製造・販売拠点や原材料等調達先を移管する企業もあった。

(4)ビジネスの変革に向けた取り組みは米国を中心に、中国、ASEANにも拡がる
 回答企業の約9割が、ビジネスの変革に向けた取り組みを行っている。3割超の企業が海外の企業や研究機関、スタートアップとの連携やM&Aを通じて変革を目指す。AIを用いた最新技術や再生エネルギー関連の協業の例が見られる。

(5)脱炭素・循環経済への取り組みが進展。生物多様性や人権問題への対応は取り組みが限定的
 約65%の企業が製品の省エネ化等を通じた脱炭素への取り組みを、また約45%の企業がリサイクル等を通じた循環経済への移行にかかる取り組みを実施。ただし、海外での取り組みは2割程度と限定的で、コスト増の受け入れ、補助金の少なさ等が海外での取り組みの障壁となっている。

<フィリピンに対する評価など>
 フィリピンは中期的有望事業展開先として、2001年にベストテン入りを逃して以来、2008年まで順位の下落傾向が続いた。特に、2008年は、21位とベスト20からも転落した。その後、再上昇基調となり、2015年は8位に上昇、15年ぶりのベスト10入りとなり、2018年まで4年連続で8位が続いた。2019年は7位に浮上、2020年、2021年と3年連続で7位にランクされた。その後は伸び悩み、2022年、2023年ともに8位へであった。

 2024年の得票率は7.1%へと低下、順位も9位へとさらに後退した。そして、2位のベトナム(31.3%)、4位のインドネシア(25.4%)、5位のタイ(18.8%)という他のASEAN主要国に水を開けられている。ちなみに、フィリピンは2001年度以前は1997年が7位、1998年が6位、1999年が7位、2000年10位と推移していた。得票率過去最高は1995年の15.4%、過去最低は2008年の1.5%であった。

 2024年調査におけるフィリピンの中期的有望の理由の上位は、「現地市場の今後の成長性」(比率60%)、「安価な労働力」(56%)、「現地マーケットの現状規模」(44%)など。このほか、「供給拠点」として評価する企業の割合が上昇傾向にある。

 一方課題としては、「労働コストの上昇」(40%)、「管理職人材の確保が困難」(36%)、「他社との厳しい競合」(36%)が上位を占めている。また依然として、「法制の運用が不透明」(32%)、「法制が未整備」(24%)も根強い懸念要因となっている。

 長期的(10年程度)有望事業展開先でも、フィリピンは最近はトップ10に入っている。速報資料では総合10位までの順位が明示されているが、近年ではフィリピンは2015年までランク外であった。しかし、2016年は10位にランクイン、2022年には7位(得票率9.4%)まで上昇した。その後は2023年は9位(6.8%)、2024年10位(4.0%)へと後退している。

 中期的有望事業展開先と同様に、2位のベトナム(23.1%)、3位のインドネシア(21.1%)、5位のタイ(16.3%)とは順位、得票率ともに大きな差がついた。マレーシアの9位(6.0%)を下回っている。

 日本製造企業の中期的(3年程度)有望事業展開先国・地域(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
中期的(今後3年程度)
調査年度 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
回答社数 356社 345社 367社 395社 351社
1位 中国(168社) 中国(162社) インド(148社) インド(192社) インド(206社)
2位 インド(163社) インド(131社) 中国(136社) ベトナム(119社) ベトナム(110社)
3位 ベトナム(131社) 米国(113社) 米国(118社) 中国(112社) 米国(92社)
4位 タイ(111社) ベトナム(105社) ベトナム(106社) 米国(107社) インドネシア(89社)
5位 米国(98社) タイ(77社) タイ(85社) インドネシア(97社) タイ(66社)
6位 インドネシア(96社) インドネシア(67社) インドネシア(77社) タイ(85社) 中国(61社)
7位 フィリピン(37社) フィリピン(31社) マレーシア(31社) メキシコ(42社) メキシコ(37社)
8位 マレーシア(34社) メキシコ(30社) フィリピン(28社) フィリピン(35社) マレーシア(26社)
9位 メキシコ(32社) マレーシア(27社) メキシコ(27社) マレーシア(26社) フィリピン(25社)
10位 ミャンマー(25社) 台湾(19社) 台湾(23社) ドイツ(21社) ドイツ(20社)
比得票率 10.4%(7位) 9.0%(7位) 7.6%(8位) 8.9%(8位) 7.1%(9位)
 (出所:JBIC発表資料より作成)

 日本製造企業の長期的(10年程度)有望事業展開先国・地域(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)
長期的(今後10年程度)
調査年度 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
回答社数 264社 243社 235社 265社 251社
1位 インド(140社) インド(120社) インド(119社) インド(147社) インド(152社)
2位 中国(116社) 中国(99社) 中国(86社) ベトナム(79社) ベトナム(58社)
3位 ベトナム(82社) 米国(71社) 米国(69社) 米国(72社) インドネシア(53社)
4位 米国(73社) ベトナム(69社) ベトナム(66社) 中国(64社) 米国(52社)
5位 インドネシア(71社) インドネシア(57社) インドネシア(53社) インドネシア(61社) タイ(41社)
6位 タイ(61社) タイ(46社) タイ(45社) タイ(57社) 中国(39社)
7位 メキシコ(30社) ブラジル(22社) フィリピン(22社) メキシコ(22社) メキシコ(22社)
8位 ミャンマー(26社) ミャンマー(21社) メキシコ(19社) マレーシア(20社) ブラジル(18社)
9位 フィリピン(25社) フィリピン(17社)
メキシコ(17社)
マレーシア(17社) フィリピン(18社) マレーシア(15社)
10位 ブラジル(22社) 台湾(14社) ブラジル(16社) フィリピン(10社)
比得票率 9.5%(9位) 7.0%(9位) 9.4%(7位) 6.8%(9位) 4.0%(10位)
(出所:JBIC発表資料より作成)