三菱商事、ASEAN最大のマネージドケア企業フラートンに出資

医療費適正化や医療の質向上へ、フィリピンでも強力な事業基盤

2025/08/27

 三菱商事は、822日付で東南アジア最大手のマネージドケア事業者であるFullerton Health Pte. Ltd.(フラートンヘルス、本社:シンガポール)に出資参画したと発表した。出資額は約400億円と見られる。この出資案件においては、バンク・オブ・アメリカ証券(BofA Securities)が財務アドバイザーを務めた。

 三菱商事は、フラートンヘルスへの出資参画を通じ、医療機関と医療保険関連事業者が連携し、医療費の適正化を目指す「マネージドケア」と呼ばれる事業に参入する。近年、東南アジアでは、中間層の拡大に伴い、生活習慣病の増加と医療費の高騰が深刻な社会問題となっている。また、公的保険の適用範囲が限られているため、企業が福利厚生の一環として従業員に民間医療保険を付保する仕組みが普及し始めており、医療費の適正化と医療の質の確保が現地企業にとっても重要な課題となっている。

 2010年設立のフラートンヘルスは、ヘルスケア市場の成長と企業・民間医療保険会社の医療費抑制ニーズを背景に成長を続けている。医療機関との広範且つ強固なネットワークや、高品質なサービスの提供に加え、クリニック・健診事業等も手掛けていることを強みとし、東南アジアを中心とする9カ国で事業展開をしている。

 三菱商事は、国内外で培ってきたヘルスケア領域における事業知見、海外ネットワークやDX推進を含めた総合力と、フラートンヘルスの持つヘルスケアエコシステム及び医療データを掛け合わせ、東南アジアにおける医療の質向上と医療費適正化の実現を目指す。また、将来的にはこの事業で得られた知見を日本の医療分野へ還元し、重要な社会課題である持続可能な医療体制の構築にも貢献して行く方針である。

 <フィリピン市場で強固な基盤>
 フラートンヘルスは、フィリピンにおいてシェア第2位を誇るHMO(会員制保険医療会社)のインテリケアを傘下に納めている。さらに、クリニックチェーンのアヴェンタス、TPA(医療保険管理事業者)のアヴェガ(Avega)なども展開。フィリピン国内で200超のクリニックや企業内診療所を運営し、従業員とその家族向けに健診や外来を含めた医療サービスをワンストップで提供している。

 加えて、提携医療機関や医療費の支出を一括管理し、過度な検査や投薬を抑える仕組みを導入。企業にとっては保険料負担の抑制につながり、適正な価格で質の高い医療が確保できる体制を整えている。

 <マネージドケア市場拡大>
 東南アジアでは経済成長と中間層の拡大を背景に、生活習慣病が急増。主要国の医療費は2022年に22.8兆円規模であったが、2030年には44.3兆円に達すると見込まれている。公的医療保険制度が十分でない東南アジア地域では、企業が従業員向けに民間医療保険を提供する仕組みが急速に浸透している。
 
 フィリピンも例外ではなく、国営のフィルヘルス(PhilHealth)は限定的なカバー範囲にとどまる。医療インフレ率は年率二桁に達する年もあり、中間層以上の層では企業の福利厚生としてHMOの利用が一般化している。求職者にとって医療保険の手厚さは給与に次ぐ関心事であるが、医療保険の提供は、提携医療機関との契約や請求、従業員との精算のやりとりの手間や高騰する医療費のコントロールなど、自社で内製することは非常に難しい実情がある。このような環境の中で、従業員とその家族向けに医療保険やクリニック・健診・社内診療所等の医療サービスを提供するHMOと呼ばれるサービスプロバイダーと契約する企業が増えている。

 <シナジー効果期待、GCashとの連携も>
 今回の出資は、三菱商事が国内外で展開するヘルスケア関連事業とのシナジーも期待される。医療費増大が社会課題となる日本国内では、出資で得られる医療費管理や予防医療の知見を、企業健保向け医療費適正化を推進する子会社ホワイトヘルスケア社の事業に活かす。

 フィリピンはじめ東南アジアに進出する日本企業に対しても、フラートンヘルスやインテリケアのサービス普及や、業界全体のクオリティ向上を通して、駐在員や現地従業員、その家族に安心して適切な費用の医療サービスが提供出来るように取組を深めていく。また、2024年より開始した医療ツーリズム事業や、フィリピン国内における出資先であるGCashと連携したサービスも視野に入れる。

 フラートンヘルスは今後、シンガポール、フィリピンにおける更なる事業基盤強化に加え、インドネシアやベトナムなど他の成長市場への展開を加速させる方針であり、三菱商事は現地に複数名の人材を派遣し、事業運営や新規顧客開拓を支援する。