原子力発電所候補地、ルソン島中心に15カ所検討

バタアン、パンガシナン、パラワン、北カマリネスなど

2025/10/05

 フィリピン政府は、原子力発電の導入に向けた法的・制度的基盤の整備を本格化させている。

 エネルギー省(DOE)エネルギー利用管理局のパトリック・アキノ取締役は102日、マニラ首都圏タギグ市で開かれた「フィリピン国際原子力サプライチェーン・フォーラム2025」の席上で、先月18日に成立した「フィリピン原子力エネルギー規制庁法(PhilATOM)」が、「安全で国際基準に準拠した原子力利用」への政府の揺るぎない意思を示すものであると強調した。

 アキノ氏によると、PhilATOM(共和国法第12305)は、国際原子力機関(IAEA)がこれまで指摘してきた「独立した規制体制の確立」という要件を満たすものであり、「政府が原子力発電導入に本気で取り組むことを示す最も明確なシグナル」とのことである。

 現在、PhilATOMの幹部任命と実施細則(IRR)の策定が同時並行で進められており、IRRの策定にあたっては関係機関や利害関係者との協議が必要となる。DOEは規制機関の一部とはならないが、フィリピン原子力研究所(PNRI)、科学技術省(DOST)、保健省(DOH)、食品医薬品局(FDA)などを支援する立場にある。DOHFDAが協議に加わるのは、PhilATOMが医療用放射線機器などの監督権限も担うためである。

 DOEは現在、国内約15カ所で原子力発電所建設の可能性を調査しており、その多くは電力需要の高いルソン島に集中している。候補地には、既に休止中の「バタアン原子力発電所」が所在するバタアン州のほか、パンガシナン州、パラワン州、北カマリネス州、マスバテ州などが挙げられている。

 アキノ氏は、「2030年までに再生可能エネルギー比率を35%、2040年以降には50%に高める目標を維持しつつ、原子力を低炭素で安定した電源として組み込むことが重要だ」と述べた上で、「エネルギー供給の競争力を確保するためには、今から中長期的な原子力導入の種まきを始める必要がある」と強調した。

 海外投資家の間では、フィリピンの原子力事業への関心が高まっているものの、これまで法制度や規制面での不確実性が参入の障壁となっていた。PhilATOMの創設により、国際的な安全基準を満たす制度的枠組みが整えば、民間投資の活性化が期待される。

 フィリピン政府は現在、再生可能エネルギーの拡大と電力の安定供給を両立させる「エネルギーミックス政策」を推進中である。原子力を「低炭素で持続可能な選択肢」と位置づけ、マルコス政権はIAEAとの協力のもと、制度・人材の両面で準備を進めている。PhilATOM法の成立は、その具体化に向けた大きな一歩となる。