世界の年金番付(52カ国・地域)、フィリピン50位に低迷

健全性は7年連続最下位、総合1位オランダ、日本39位に後退

2025/10/20

 国際的な年金・退職制度関連コンサルティング企業である米国マーサーは、1015日、年金制度ランキング「マーサーCFA協会グローバル年金指数(グローバル年金指数)」の2025年度版(17)を発表した。

 グローバル年金指数は、世界各国の年金制度のベンチマークとして、制度の弱点を可視化し、より充実した、持続可能かつ高い健全性を備えた年金給付を実現するために必要な改革領域を示すもの。投資プロフェッショナルの世界的団体であるCFA協会がスポンサーを務め、モナシュ金融研究センター(MCFS)とプロフェッショナルサービスを提供するマーサーが共同で実施する研究プロジェクトである。

 各国・地域の制度の総合指数は、「十分性(Adequacy)」、「持続性(Sustainability)」、「健全性(Integrity)」の3つのサブ指数を加重平均して算出(満点100)2025年度版は、新たにクウェート、ナミビア、オマーン、パナマの4カ国が加わり、過去最多となる52カ国・地域(前年は48カ国・地域)を比較検証し、世界人口の約65%をカバーしている。

 2025年度の総合1位はオランダ、シンガポールがアジア初のA評価>
 2025年度版において、年金制度総合トップとなったのはオランダ(85.4)。以下、2位アイスランド、3位デンマーク、4位シンガポール、5位イスラエルと続き、これら5カ国がAランク(80点以上)とされた。前年はAランクは4カ国だったが、シンガポールが80.8点で初めてA評価に到達し、アジアで唯一のAランク国となった。世界的には、8つの制度がスコアを改善しスコアが低下した国は一つもなかった長寿化や出生率低下への対応として、多くの国が制度改革やガバナンス強化を進めた結果とされる。

 <日本は39位、中国38位、韓国は43位>
 アジアで突出して高かったのは上記のシンガポールで制度設計とガバナンスの両面で高評価を得ている。次いで香港が70.6/15位でBランク、マレーシアが60.6/32位でCプラスにランクされている。日本は39(前年36)に後退した。スコアは56.3点で下から2番目のCランクに低迷、持続性の低さ(48)が引き続き課題とされている。このほか、Cランクとされているのは、中国38(前年31)、韓国43(前年41)、ベトナム44位、台湾45位、インドネシア46位、タイ48位である。

 <フィリピンは50位、最下位のインド等とともに連続ワースト3
 総合で最下位の52位はインド(43.8)51位がアルゼンチン(45.9)50位がフィリピン(47.1)で、これらがワースト3を形成した。フィリピンは2021年以降5年連続でワースト349位はトルコ(48.2)でこれらの4カ国が最も低いグループのDランク(50点未満)とされている。フィリピンの総合スコアは47.1点で前年45.8点から1.3ポイント改善したが順位は後退した。
  
 フィリピンは2019年度から調査対象に加えられ、2019年度は34(43.7/37カ国)2020年度36(43.0/39カ国)2021年度41(42.7/43カ国)2022年度43(42.0/44カ国)2023年度46(45.2/47カ国)2024年度46(45.8/48カ国)2025年度は50(47.1/52カ国)と、スコアは改善しているものの対象国拡大と他国の改革進展により相対順位は下がった。

 <サブ指数:フィリピン健全性で7年連続最下位かつ唯一のE評価>
 2025年度の各サブ指数における最低値は、十分性ではインド(43.8)、持続性ではオーストリア(24.0)、そして健全性ではフィリピン(33.2)であった。フィリピンは健全性で7年連続の最下位となり、制度の信頼性やガバナンスの弱さが際立っている。
フィリピンのサブ指数は以下の通り。
・十分性:40.6(前年41.7)→ わずかに低下
・持続性:64.4(前年63.4)→ 比較的高い評価で世界平均(55.3)を大きく上回る
・健全性:33.2(前年27.7)→ 前年から改善したが、52カ国中最下位で唯一のE評価

 <フィリピンは制度の信頼性不足が根本的課題>
 2005年度報告書は、フィリピンについて以下の課題を明確に指摘している。
・最低所得層への年金支援水準が不十分
・給付額が生活費(物価水準)と十分に連動していない
・私的年金制度におけるベスティング(権利確定)要件の改善が必要
・年金資産を退職後まで保全する「非現金化オプション」が不足
・民間年金制度のガバナンス・透明性の基準が不十分

 特に、「受益者の利益を守るための制度的健全性が欠けている」ことが根本的問題とされ、制度への信頼性の回復が急務であると強調された。

 <前向きな動きも:規制明確化と制度改革の進展>
 2025年度版では「規制の明確化」がフィリピンのスコア改善に寄与したと評価された。また、民間企業の従業員が加入する最大の年金基金である社会保障制度(SSS)20251月から拠出率を引き上げ、2027年まで段階的に年金給付を増額する改革が進行中である。年金制度の持続性を高める取り組みとして一定の成果が見られる。

 <世界は改善へ、フィリピンは改革の正念場>
 2025年度は、総合スコアが悪化した国が一つもないという異例の結果となり、世界的には年金制度改革が前進している。一方、フィリピンはスコアこそ改善したものの、他国の改革スピードに追いつけず、順位をさらに落とした。フィリピンの年金制度は持続性という相対的な強みを活かしつつ、十分性と健全性向上に向け、信頼性の回復と構造的な再設計が問われる正念場を迎えている。