日系企業の比での事業拡大意向比率は10.8%

2015/03/15

タイ44%、インドネシア34.4%、ベトナム28.7%と大差
災害・治安リスク、インフラ未整備などネック:ジェトロ調査

 

 近年フィリピンはアジア屈指の高成長を続けている。昨年7月に人口が1億人を突破、かつ人口の半分が23歳以下などの点から今後も高い成長が続くと期待されている。経常収支が高水準の黒字継続、財政収支も改善などファンダメンタルズも良好である。しかし、日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査などによると、フィリピンへの投資意欲はさほど高まっていないようである。

ジェトロは3月11日に、2014年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査結果を発表した。ジェトロは2014年12月~2015年1月にかけて、ジェトロのサービス利用者(=海外ビジネスに関心の高い日本企業)を対象に実施したアンケート調査を実施、約3,000社から回答を得た(有効回答数2995社、うち中小企業は2334社、有効回答率32.6%)。アンケートでは、貿易への取り組み、海外・国内の事業展開方針、新興国のビジネス環境、経営のグローバル化等について尋ねた。結果概要は以下のとおり。

 
1.グローバルに事業展開する企業ほど円安の恩恵大
 近年の円安の影響について、「特に影響はない」が42.4%と最大で、業績が改善した企業は22.0%であった。海外売上高比率が高く、グローバルに事業展開する企業程、円安の恩恵を受けている。今後(3年程度)の輸出方針については、「輸出の拡大をさらに図る」企業が66.2%、「今後、新たに取り組みたい」(12.4%)を含めると、輸出拡大を志向する企業は78.6%と、前年に続き高水準。

 2.輸出が伸び悩む主因は海外需要伸び悩み、ライバル企業との競争、海外への生産拠点移転
 現在の円安では過去の円安時程、輸出が伸びていないとされる理由について、「輸出を拡大する意思はあるが、海外の需要が伸びていないから」(21.3%)が最も多く、「他国のライバル企業の競争力が高いから」(14.5%)、「円高になった際、海外に生産拠点を移してしまったから」(11.7%)が続く。大企業では、「海外に生産拠点を移してしまったから」(22.4%)が最も多い。業種別では、輸送機器(47.2%)、情報通信機械・電子部品(31.1%)などで同回答が目立っていることが特徴。

 3.中小企業の国内外への事業拡大意欲が増加
 今後(3年程度)の国内外事業方針では、中小企業が海外・国内双方とも事業の拡大を図るとの回答が前年を上回った(海外50.2%→54.3%、国内48.0%→54.8%)のに対し、大企業の事業拡大の回答は海外が低下(70.1%→65.2%)、国内が横ばい(47.6%→47.0%)であった。中小企業の国内外事業の拡大意欲が目立つ結果となった。特に、中小企業の海外事業の拡大を図るとの回答は、比較可能な2011年以降で初めて過半数を超えた。

4.米国での拡大意欲が増加、メキシコも上昇、ASEANが3年連続で中国を上回る
 海外進出の拡大を図る国・地域では、拡大方針を有する企業のうち、米国を選択する企業が31.3%と、前年(25.4%)から増加した。また、メキシコで事業拡大方針を有する企業も10.1%と前年(7.6%)から増加し、2011年(3.1%)から毎年、増加を続けている。トルコでの事業拡大方針を持つ企業も前年の2.5%から3.1%へと増加傾向がみられる。

 アジア地域で拡大を図る国・地域では、ASEAN(73.5%)、中国(56.5%)とASEANが2012年以降、3年連続で中国を上回っている。ASEANの国別では、タイ(44.0%)、インドネシア(34.4%)、ベトナム(28.7%)で拡大意欲が高い。

5.拠点・機能再編では中国からベトナムなどへの機能移管が目立つ
 国内外拠点・機能の再編について、移管元では日本(49.1%)、中国(27.8%)が高く、中国を移管元とする比率は増加傾向にある。拠点・機能の移管先では、ASEANへの移管が移管件数全体の47.9%を占め、前年(46.2%)に引き続き最も多い。移管元・先の組み合わせでは、「日本からASEANへ移管」(22.7%)、「中国からASEANへ移管」(16.2%)が多い。「中国からASEANへ移管」では、半数近い企業(129件中57件)がベトナムを移管先に選択。また、移管先を日本とする件数も、移管件数全体の7.5%に上り、その多くは中国から日本への移管である。中国から移管する理由では、「生産コスト・人件費の上昇」が66.7%と最も多く、前年(58.5%)からも増加。

6.中国、タイで人件費、労働力不足が課題と認識する企業が多数
 新興国のビジネス環境上の課題について、「人件費が高い、上昇している」は、中国(48.8%)、タイ(29.1%)、インドネシア(21.2%)で高く、「労働力の不足・人材採用難」と回答する企業もタイ(18.6%)と中国(14.4%)で相対的に多いなど、中国、タイで労務関係の課題を認識する企業が多い。また、「インフラが未整備」は、ミャンマー(53.9%)、カンボジア(44.9%)、インド(44.8%)などで課題として認識する企業が多い他、ロシアでは、「為替リスクが高い」と回答する企業の比率が増加。

7.留学生の採用は大企業が6割を超える一方、中小企業は4割強に留まる
 海外ビジネス拡大に向けた人材戦略について、「現在の日本人社員のグローバル人材育成」(45.1%)が最も多く、「外国人の採用、登用」(23.1%)、「海外ビジネスに精通した日本人の中途採用」(22.3%)が続いている。
 「外国人を採用している」と回答した企業は42.2%で、特に大企業では70.3%と7割に及ぶ。一方、中小企業の同比率は34.2%に留まるが、「今後外国人の採用を検討したい」と回答した中小企業は23.8%に上り、外国人採用への関心は高い。「外国人を採用している」もしくは「今後採用を検討したい」と回答した企業のうち、日本国内の外国人留学生を採用している(もしくは検討している)企業の比率は大企業では60.4%に及ぶ一方、中小企業は43.2%にとどまり、留学生の獲得の面で差がみられる。

 ASEAN全体への関心・注目度が高まる中で、フィ リピンでの事業拡大の関心度は依然さほど高くない。今後(3年程度)に海外で拡大する国・地域という質問(全産業対象、以下同様)に対する回答(複数回答)において、 フィリピンは10.8%(19市場中13位)にとどまっている。ちなみに、2013年も10.9%で13位であった。上記のように、タイは44.0%、インドネシアは34.4%、ベトナムは28.7%。また、シンガポールは19.3%、マレーシアは14.8%であった。すなわち、フィリピンでの事業拡大の関心度はASEAN主要国で最低であった。

 拡大する個別機能に関しても、フィリピンは販売機能で8.3%(12位)、生産(汎用品)で2.1%(11位)、生産 (高付加価値品)で1.0%(14位)、物流機能で0.4%(16位)、新製品開発機能で0.4%(13位)、地域統括機能で0.2%(15位)という、 いずれも二桁台の順位であった。数年前から多少上昇傾向にあるが、タイ、ベトナム、インドネシアなどと比べるとかなり見劣りがする。

 一方、新興国19カ国(のビジネス上のリスク・問題点という質問では、フィリピンに対する懸念は依然高い。フィリピンは、「自然災害リスクまた環境汚染に問題あり」の回答比率が第3位(回答率18.9%)、「政情リスクや社会情勢・治安に問題あり」が第6位(回答率26.5%)、「関連産業が未発達・未集積」が第6位(回答率13.7%)、「インフラが未整備」が第8位(回答率26.8%)などで上位にランクされている。

 フィリピンでのビジネス環境上の課題として回答率が高かったのは、第1位が「インフラが未整備」(26.8%)、第2位が「政情リスクや社会情勢・治安に問題あり」(26.5%)、第3位が「自然災害リスクまた環境汚染に問題あり」(18.9%)、第4位が「法制度が未整備・運用に問題あり」(14.0%)、第5位が「関連産業が未発達・未集積」(13.7%)であった。

 詳細はジェトロのウエブサイト(http://www.jetro.go.jp/news/releases/20150311949-news)で閲覧可能である(15年3月11日の日本貿易振興機構プレスリリースより)