中期的有望事業展開先、フィリピン第11位に

2014/12/02

1位インド、2位インドネシア、4位タイ、5位ベトナム
10位にミャンマー:JBICの14年度日系製造業調査

 

 国際協力銀行(JBIC)は、日本製造業企業の海外事業展開の動向に関する2014年度アンケート調査を実施し、11 月28日にその結果を発表した。

 今回の調査は、2014年7月に調査票を発送し、7月から9月にかけて回収したものである(対象企業数1,021社、有効回答数617社、有効回答率 60.4%)。この調査は、海外事業に実績のある日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、 今回で26回目となる。 調査結果の要旨は以下の通りである。

(1)日本の製造業企業の海外展開は拡大姿勢が継続
 海外生産比率及び海外売上高比率はそれぞれ4割の水準に近づき、海外事業の比重が高まってきている。回答企業の8割が引き続き海外事業を強化・拡大する 姿勢にあり、このうち約9割が国内事業について現状維持又は拡大の姿勢にある。回答企業全体でみると、国内事業の強化・拡大姿勢は回答企業の3割未満で横 ばい、現状程度を維持する姿勢が6割を占めている。

(2)中期的な有望国ではインド、インドネシア、中国の得票率が拮抗
 中期的な有望国では、前回調査に引き続き上位有望国の順位が変動。市場拡大への期待が高いインドが調査開始以来はじめて第1位となった。前回調査第1位のインドネシアが第2位、同第4位の中国が第3位となったが、上位3ヵ国の得票率は45%前後で拮抗する結果となった。一方、タイは前回調査から得票数が 大きく低下し、前回調査の第3位から第4位に順位を落とした。

 前回調査の中期的有望国上位5ヵ国(インド、インドネシア、中国、タイ、ベトナム)について、今回調査の中期的有望国として挙げなかった理由を調査したところ、中国、タイについては「既に一定規模の事業を行っている」ことを理由として中期的有望国に挙げない企業が多くみられた。また、最近の各国・地域に おける政治・社会情勢は、それが発生している国・地域に限らず、当該国・地域と経済関係の強い国・地域を中心に広く意識されている傾向が見られた。

(3)競合先企業の販売力評価において、中国系・韓国系企業は低下傾向。アジア各国・地域内における現地生産・納入が拡大する一方、アジア域内の生産分業は業種により見通しが異なる
 日本企業による競合先企業の販売力評価に関しては、2012年度調査との比較において、欧米系企業に対する評価は上昇している。一方、中国系企業及び韓国系企業に対する評価は低下傾向にあり、両国企業との競争に関する日本企業の自信が回復してきていると考えられる。また、アジア各国・地域内では中国と ASEANを中心に現地生産・納入が拡大する見通し。アジア域内の生産分業体制については、中国、ASEANを中心とした分業が進むとの見通しが示された が、業種により回答に差異がみられた。

(4)日本企業の海外拠点の機能強化は緩やかに進む一方、国内拠点は引き続き生産と研究開発の両面で重要な役割を担っていく
 生産拠点に求められる役割分担について は、海外拠点の機能強化の姿勢が見られる一方、日本国内の拠点は、イノベーション、人材育成の面で引き続き重要な役割を担っていくとの見方が多かった。ま た、研究開発に関しては、基礎、応用、開発全ての段階において、日本国内の拠点が中核的な役割を担っていくことが示された。

 なお、フィリピンは中期的有望事業展開先として、2001年度にベストテン入りを逃して以来、2008年度まで順位の下落傾向が続た。特に、2008年度は、21位とベスト20からも転落した。その後は、2009年度13位、2010年度、2011年度ともに14位と横這いであったが、2013年度は11位へと上昇、2014年度も連続で11位となった。2014年度の得票率は10.0%で、2013年度の8.0%、2012年度の4.1%から上昇傾向となっている。しかし、2位のインドネシア、4位のタイ、5位のベトナム、10位のミャンマーなどASEAN各国に水を開けられている。

 長期的(10年程度)有望事業展開先に関しても、フィリピンに対する評価は高くない。速報資料では10位までの順位が明示されているがフィリピンはランクインしていない。一方、インドネシアは2位、ベトナムは4位、タイは5位、ミャンマーは7位とベストテン入りしている。

 このところのフィリピン経済の好調さなどを背景にフィリピン進出企業は増加しているが、インフラ整備の遅れ、電力料金が高いこと(アジアで最高水準)、 政策の一貫性への懸念、依然治安が悪いというイメージなどにより、結局はフィリピンへの進出を見合わせ、他国を選択するというケースも少なくない。フィリ ピンは投資誘致の障害除去や実体以上に悪いイメージの改善などに全力で取り組み、フィリピン進出の流れを一過性のものにしないようにすべきであろう(14 年11月28日の国際協力銀行ニュースリリースなどより)。

 

 

日本製造業企業の中期的有望事業展開先国・地域の推移(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)

中期的(今後3年程度)
調査年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度
総回答社数 507社 514社 488社 499社 得票率
 
1位(票数) 中国(369社) 中国(319社) インドネシア(219社) インド(229社) 45.9%
2位 インド(297社) インド(290社) インド(213 社) インドネシア(228社) 45.7%
3位 タイ(165社) インドネシア(215社) タイ(188社) 中国(218社) 43.7%
4位 ベトナム(159社) タイ(165社) 中国(183社) タイ(176社) 35.3%
5位 インドネシア(145社) ベトナム(163社) ベトナム(148社) ベトナム(155社) 31.1%
6位 ブラジル(145社) ブラジル(132社) ブラジル(114社) メキシコ(101社) 20.2%
7位 ロシア(63社) メキシコ(72社) メキシコ(84社) ブラジル(83社) 16.6%
8位 米国(50社) ロシア(64社) ミャンマー(64社) 米国(66社) 13.2%
9位 マレーシア(39社) 米国(53社) ロシア(60社) ロシア(60社) 12.0%
10位 台湾(35社) ミャンマー(51社) 米国(54社) ミャンマー(55社) 11.0%
フィリピン順位 14位(15社) 15位(21社) 11位(39社) 11位(50社) 10.0%

 (出所:JBIC発表資料より)



日本製造業企業の長期的有望事業展開先国・地域の推移・詳細(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)

長期的(今後10年程度)
調査年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度
総回答社数 420社 387社 360社 372社 得票率
   
1位(票数) インド(333社) インド(251社) インド(191社) インド(207社) 55.6%
2位 中国(299社) 中国(218社) 中国(139社) インドネシア(163社) 43.8%
3位 ブラジル(196社) インドネシア(149社) インドネシア(135社) 中国(150社) 40.3%
4位 インドネシア(147社) ブラジル(140社) ブラジル(114社) ベトナム(117社) 31.5%
5位 ベトナム(146社) ベトナム(110社) タイ(99社) タイ(105社) 28.2%
6位 タイ(114社) タイ(103社) ベトナム(96社) ブラジル(91社) 24.5%
7位 ロシア(95社) ロシア(78社) ミャンマー(75社) ミャンマー(70社) 18.8%
8位 米国(36社) ミャンマー(65社) ロシア(65社) ロシア(65社) 17.5%
9位 メキシコ(25社) メキシコ(46社) メキシコ(47社) メキシコ(58社) 15.6%
10位 マレーシア(21社) 米国(34社) 米国(47社) 米国(47社) 12.6%
フィリピン順位 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし

 (出所:JBIC発表資料より)